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この万年筆で、私の未来を取り戻す ―父が見捨てた工房から始まる領地再建―  作者: しぃ太郎


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第08話 誇りを見せる場所


 私はフィンに頼み、職人たちを屋敷へ招いた。


「まあまあ。ちょっと来てくださいよ、親方」

「……話ならここで聞く」

「作った物には責任を取らないと。仕事ですよ」


 男爵家はそこまで豪華ではないが、彼らにとって敷居が高いのかもしれない。

 途中で帰ろうとしたり、不安げに視線を彷徨わせている人もいる。

 それを、必死に抑えてくれたのがフィンだった。


「いらっしゃい」


 私は、とある部屋の前で待ち構えて彼らに声をかけた。

 それを見て、彼らは一瞬躊躇ってしまったようだ。


 ――でも。今日はみんなに付き合ってもらいましょう。


「今日は、実際に使っている人たちの声を聞かせたかったの」


 私の言葉を合図に、ノアが彼らの前で扉を開ける。


 部屋の中には机が並んでおり、十人以上が席に着いていた。


 この日のために、試作品を街で使ってもらっていた。

 商店主や書記など、普段から文字を書く人を中心に声をかけた。

 集まってくれた街の人にも、協力してくれたノアとフィンにもお礼を言いたくなる光景だった。


 今まさに、彼らの作った万年筆が人の手に渡り、次々と書類に文字が走っていく。


「どう?これがあなたたちの仕事の成果よ」


 職人たちに向けて言葉を続ける。

 この万年筆を作りあげた人たちに、それを使うところを見せたかったのだ。

 親方は、机の上のそれをじっと見ていた。


「売り出す前のテスト用に配ったのよ。――使い心地はどう?」


 一番近い場所に座っていた人に声をかけた。


「これ、書きやすいですね」

「前の羽根ペンより安定します」


 次々と意見がでる。


 商人が言った通り、これは世の中を驚かせられるかもしれない。

 私自身も、そんな確信を強く持てた。


「誇らしいわ。そして、あなた達は素晴らしい職人です。頑張ってくれてありがとう」


 親方は、黙り込んだ。

 私に顔を向けずに、職人に振り向きざまに声を掛ける。


「いや、まだ改善の余地がある。おい、工房に戻るぞ」


 親方が先に屋敷を出ていき、他の職人が頭を下げながら挨拶をしていく。

 その背中は、先ほどよりも誇らしげに伸びている気がする。


 私は、最後尾のフィンに声をかけた。


「お疲れ様。大変だったでしょう?……でも、フィンや職人たちの言った通りね。人の役に立つものを作ってるって本当だわ」

「……!お嬢さん……」


 彼は感激のあまりなのか、私に抱きつこうとしてノアの腕に阻まれた。


「置いていかれますよ……。あなたの本職を思い出してください」

「うぇ……。いっつも怖い兄さんだな……」


 そのやり取りに、思わず笑みが溢れる。


「お嬢さん。今日はありがとう!久々に親方の嬉しそうな背中を見ました。お嬢さんは俺が小さい頃に会った、あなたのお爺さんそっくりですよ」

「……そう、かしら」


 フィンの言葉に、情けない声が出そうになった。

 喜ぶのはまだ早い。

 結果が出ていない。

 道半ばだ。


「ありがとう。私の最も尊敬した人だったわ」

「俺が一番尊敬してるのは、お嬢さんです。……ありがとうございました」


 フィンは勢いよく頭を下げて、彼らの元へ走っていった。


 扉を閉めながら、ノアが私に告げた。

 その大きな背中しか見えないけれど、声音は優しい。


「大丈夫ですよ。あなたは、先代を裏切らずに走ってきています」

「ノアもフィンも……。私に甘いのね……」


 私は、ノアに顔が見えないように、振り返らずに自分の執務室へ向かった。


 ここで立ち止まったら駄目だ。

 今、ここで形になり始めたものがある。

 そんな時に、私の涙は邪魔なだけだ。


 ――さて、購入希望者がいるか確認しに行きましょう。

 商人との約束のために用意した、注文書を持って先ほどの部屋へ引き返す。


 そして、試し書きをしてもらっていた人々に声をかける。


「さて、皆さん。まだ試作品なのでお安くしておきます。購入希望の方はいらっしゃいますか?」


 五本の注文書はあっという間に埋まった。


 その日の夜、私とノアは祝杯を上げて笑い合ったのだった。


 ◇◇◇


 ――数日後、エルンスト商会から手紙が届いた。


 私はざっと手紙に目を通し、そのままノアに渡した。

 思わず口元に笑みが浮かぶ。


「あちらも順調そうよ。商売は商人に任せるのが正解ね」

「なるほど。やりますね」


 ノアの口元も緩んでいる。

 どちらも順調に進んでいた。

 この勢いに乗って、さらに次へ繋げなければ。


「じゃあ、私も『夜会』に行く準備をしましょうか」


 いつもは衣装部屋に置いてある扇子を手に取った。


 机の上には、親方が作った最上級の仕上がりの万年筆。

 そして、小さな名刺。


 私は、久々に扇子をバッと開いた。

 ここからは、商会長の手の届かないところで戦う。


 華やかな夜会が、私の次の戦場になった。


 

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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