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この万年筆で、私の人生を取り戻す ―父が見捨てた工房から始まる領地再建記―  作者: しぃ太郎


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第6話 言葉を作る仕事



 隣を歩いているフィンと中堅の職人が数人。


 商人とは後日話し合う事になった私たちは、打ち上げ準備の為に街に出てきていた。


 初めて、自分の作ったものが商品になると褒められたフィンは浮かれて、口笛を吹いていた。


 工房の全員にリクエストを聞いたら、『酒と肉』だったので、その注文を終え、職人たちは荷物持ちになっている。

 持ちきれない分は、後で届けてもらう予定だ。


「あれ、あの子困ってますね〜」

「……ああ、いい大人が情けないな」


 フィンが指さした先は、客に怒鳴られている女性店員。

 パン屋のようだ。


 その女性の横に立っている少女は完全に怯えている。


「すんませーん。何か問題ありました?解決するなら協力しますよー?」


 軽い調子でフィンが間に入っていった。

 職人たちは苦笑いだ。


「あいつ、あぁいうのが得意だから大丈夫ですよ。やたらと人の牙を抜くのが得意なんですよ」

「そうそう。怒ってるのが馬鹿らしくなってくるんだよな」


 頷きあう彼らに、つい私も同意しそうになった。


 案の定、フィンの登場に毒気を抜かれたのか。

 その客は、何も言わずに帰っていった。


「怖かったろ?泣かないで偉いな」


 フィンは、片膝をついて、女の子に目線を合わせる。

 そしてポケットから飴玉を出して渡した。

 その子は、口をパクパクさせている。


 隣の女性が、慌てた様子で説明してくれた。


「この子、生まれつき声が……。耳は聴こえるんですよ、だからあなたの優しい言葉にお礼をしたかったんだと思います」


「そうなんですね」


 私はそれだけを伝えた。

 何を言っていいかすら、わからない。


「……そっか。それ、俺のお気に入り!今度また感想聴きたいな」


 私たちは店を出た。

 誰もが黙って工房までの道を歩いていた。

 しかし。


 黙り込んでいたフィンがいきなり腕を突き上げた。


「俺たち、あの子の言葉を作ってあげてるんですよね!……頑張らなきゃ」


 彼の最後の言葉は、いつも以上に静かに沈み込んだ。


「なんだ〜?ようやくお前も実感出てきたか?俺たちの作るものはな、全部人の為に作ってるんだぞ!見栄じゃないんだ」


 フィンの同僚が背中を叩いている。


 ――そう。フィンや職人たちは人の為に物を作る。


 それならば私は、その人々を生かす場所を作らなければ。


 ◇◇◇


 工房では楽しい時間を過ごせた。

 やはり、彼らにとって『認められる』ということは大きな意味を持つのだろう。


 それならば私は?


「ねぇ、ノア」


 私の肩に、黙ってショールを掛けてくれている彼に聞いた。


「祖父の言葉を覚えている?」

「はい。……本当に立派な方でした」


「この不毛の地で人を育てる。人材は宝。全て、正しかったわ」


 父が見捨てたものを、ノアと眺める。


「私は、この領地が無駄なんて思わない。力強く生きている人がいる。私は……。ここを守りたい」


「ええ。守りましょう」


 

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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