第4話 完成と、始まり
一週間後、また工房に訪れてみた。
中では職人が鉄を打つ音が響いている。
「どう?試作品は出来たかしら」
私に気付かないくらい熱中している職人たち。
小さなペンを持ち上げて相談し合っているようだ。
「……駄目だな。もう少し、強度を上げないと」
「ペン先が少し引っかかるな」
「やっぱり難しいかしら……」
「いや、もう一度。もう一度チャンスをいただければ、必ず」
「それに、意外と楽しいんですよ、こんなに小さい物を作るってのも」
「そう、じゃあ任せたわ」
私たちは、頷きあった。
そして、さらに一週間後。
出来上がった万年筆。職人たちが息を呑む音が聞こえる気がする。
「少し貸してください。……ふむ」
ノアが無言で、出来上がったそれを紙に滑らせる。
ガリガリという音がした。
インクが入っていないとしても、これでは……。
「試作品としては、上出来だと思います。ですが……目指すは普及ですよね?これでは厳しい」
――グッと黙り込む職人たち。
重苦しい空気が漂う。
そこで、背後からガタリと立ち上がる音が聞こえた。
誰の耳にも届くような大きな溜め息が響く。
「おい。職人なら、諦めるんじゃねぇ。やるって言ったのはお前らだろう」
そこで親方が立ち上がり、職人たちを脇に寄せる。
その目の前で、万年筆のペン先を触り、力を込め、また戻した。
他の職人は黙ってそれを見守っている。
誰かの唾を飲み込む音まで聞こえてきた。
「カーブだな……」
「親方……」
「もう一度だ。自分の腕で見返してやれ」
「出来た!出来ましたよ、お嬢さん!」
一番若い職人のフィンが屋敷を訪れた。
職人たちが胸を張る出来だという。
それを聞いて、私とノアは急いで工房に駆けつけた。
「完成品を見てください!」
紙の上を、音もなく滑る万年筆。
それが答えだった。
私は感激して、彼らに声をかけた。
「みんな……ご苦労さ……」
しかし、ノアに口元に手を当てられ、首を振られる。
目の前で、自分たちを称え合っている職人たち。
そうだ。
これは、私が入る場面じゃない。
ここからが私の戦いだ。
彼らの努力と技術を無駄にしない。
それが、一番の労いだろう。
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