第3話 若い職人フィン
万年筆のペン先作りは難航していた。
やはり、硬すぎるらしい。
「ねぇ、お嬢さん。羽根ペンって持ってます?」
「えぇ。今は手元にないけど。どうしたの、フィン?」
工房の入り口に座り込んでいた彼は、草をむしりながら続けた。
「自然って凄いっすよね。うーーん、羽根ペン。あれ、どうなってるんだろう?お嬢さん、詳しく知ってます?」
羽根ペン……。確かにどうして紙を破らないのかしら。
答えられない……。
「ごめんなさい。詳しく知らないわ」
「あぁ。あれは、力を加え過ぎると、自然と逃げる構造になっているんですよ。軸がしなる。だから、折れにくい」
私が答えられないことを、隣にいたノアが答えてくれた。
助かる。
「しかし、良いところに目をつけましたね」
「そうっすか?兄貴たちに話してみたけど……羽根ペンを真似できるわけないだろう!で終わりですよ」
ブチブチと雑草が千切れる音が途切れない。
「俺……向いてないのかなぁ……。いっつも変な事ばかり言っちゃう……。性格もこんなんだし」
私も、工房に並べられた失敗作を見た。
きっと、全てに心を込めて加工したのだろう。
どうやって、励ませばいいのか……。
そう考えると、私は彼らに何も貢献出来ていない。
「じゃあ、羽根ペンを何個かあげるわ。分解してもいいし、観察してもいい。少しはヒントがあるかも」
「え!いいんですか?じゃあ、失敗作と並べて観察したい」
立ち上がって、私の手を取り喜ぶフィン。
もうすでに、好奇心で瞳が輝いている。
私は、ノアを見上げて、声を出さずに伝えた。
彼は一つ頷き、屋敷への道を引き返す。
これで少しは、気晴らしになるかしら。
◇◇◇
ノアが屋敷から3本ほど羽根ペンを持ってきてくれた。
しかも、全部値段が違う。
安価な物から、一番流通しているもの、高級品までだ。
職人たちは、安価な物から触っていく。
そして、机の上に、今までの失敗作を並べてくれた。
ペン先の厚み順に並べられる。
「こっちは、紙を傷つけないように薄くしたやつです」
中堅の職人数人が、失敗作について語ってくれる。
「途中でペン先が曲がりました」
「ええ、なのでかなり加減して書くことしかできませんでした。結果は細々とした線が引ける程度です」
次の失敗作を指さす。
「なので次は少し厚めに作ってみたんですが、今度は紙を傷つける」
「今のところ、丁度いい厚みがわかりませんね」
今まで会話に加わらず、ずっと羽根ペンを触っていたフィンが声を上げた。
「ねぇ兄貴。この羽根ペンさー。文字を書くと太さが変わるじゃん?俺たちのペン先は全部同じ太さだ」
「!」
中堅の職人が失敗したペン先をまじまじと観察する。
「……どれ、見せてみろ」
裏から親方が出てきて、フィンから羽根ペンを受け取った。
ペン先を丁寧に触り、力を加え、紙の上を滑らせる。
「……面だな」
他の職人が、他の羽根ペンを取り上げた。
「そうか……!紙を傷めるのは強度じゃない。力が集中する範囲の問題なんだ!」
親方が顎を撫でながら羽根ペンを机に置く。
「俺たちは新しい物を一から作る必要はない。
――これが答えかもしれん」
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