第1話 元領地管理官、ノア
私の家は、特出したものもない、男爵家だ。
小規模な鉄鉱山がある。
そして、父はその鉱山を放置していた。
だが、一度うちに出入りしている商人が話していたことがある。
『宝の持ち腐れだと』
父は、平和なこの時代において、鉄を軽視していた。
華やかな王都の貴族に合わせて見栄を張り、それに合わせて領地の収入源は減っていく。
昔、祖父が言っていた言葉を思い出す。
――人に勝る財産はないと。
ならば、私が手に入れてみせる。
父が不要だと切り捨てた、その財産を活かし、この領地を豊かにしてみせる。
他人の金を当てにするような状態ならば、先は既に見えているだろう。
ただの没落だ。
◇◇◇
「今の男爵家を立て直したいの。鉄鉱山。これを活用した方法を思いつける?……ノア元領地管理官」
私が問うと、彼はいきなり立ち上がり、上から見下ろしてきた。
威圧感が凄い。
足が無意識に下がろうとするのを叱咤して力を込める。
「今の私は、ただの無職の平民ですよ」
「それは父の愚かさの表れね。祖父に重用されていた、優秀なあなたに聞いているのよ」
祖父の時代から働いていた人物で、信用出来る。
しかし、実直で融通が利かない性格が、父とは壊滅的に合わなかったのだろう。
「……面白い問いですね。ですが、期待はしない方がいい。男爵は、鉄を流通させる気はないようですよ」
彼を説得できなければ、
私の決意は、まだ現実に届いていない。
「ええ。だから、父に気づかれないように。領地には、祖父の代からの優秀な職人がいるでしょう?」
「引退した者も多い。今は細々と日用品を作っているだけでしょう」
「会いたいの。女の私では、出来ないことも多い。……でも、それはあなたも一緒でしょう?ノア。優秀なのに、平民というだけで軽んじられる」
「現場を見るなら、五日は欲しい。――そして、あなたを見極める時間も」
「ええ。勿論。簡単にいくなんて思ってないわ。でも……やらなければ始まらない」
「現場は甘くありません。彼らは、誇りを裏切られたと思っている。それは、生き様を否定されたということです。
……それでも、行きますか」
「あなたも祖父の口癖を覚えているでしょう?『人に勝る財産はない』。まずは、職人たちと話し合わなければ」
「いいでしょう」
そう答えた彼は、すでに私に背中を向けていた。
数分の後、部屋の中から鞄を持ってきた。
「では、無価値だと判断するなら早いほうがいい。それこそ時間の無駄です」
「さすがね。じゃあ、行きましょうか」
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