プロローグ
※本作は全14話で完結予定です。
よろしくお願いします。
※主人公名を『マリエッタ』へ変更しました。
また、全体を通して大幅に加筆・構成を見直しています。
以前お読みいただいた方も、新しい気持ちで楽しんでいただけたら嬉しいです。
「どうしてお姉様が!結婚も決まっていたのに……」
私は、姉の袖口を握りしめた。
姉は目尻を下げて、私の指を優しく引き剥がしていく。
「ねぇ、マリエッタ。私はお父様にとって都合が良かった。それだけよ」
「……そんなの納得出来ないわ。誰かに相談してみる!」
そう決意して、家を飛び出した。
行き先は決まっていた。
「サミュエル!」
彼は幼馴染で、私が一番に信頼を置く人物だった。
サミュエルは、私の顔を見るなり顔を強張らせた。
「マリエッタ。……君の姉上の話は聞いたよ」
「私、どうすればいいかわからないの」
サミュエルの優しい声音に、思わず涙がこみ上げた。
そのまま溜め込んだ感情を彼にぶつけた。
どこにもやり場のない怒りが胸に渦巻いて、言葉が溢れてくる。
「ねえ、お願い。助けて。このままじゃお姉様が売られちゃうわ……!そんなの酷すぎる」
「……諦めるしかないんじゃないかな。そこまで不幸な話でもないと思う」
そう告げた彼は、そっと私から視線を逸らした。
そして「正しいこと」を言ってくる。
その言葉は、自分に向けているようにも聞こえた。
……まるで言い訳みたいに。
「きみの姉だって……富豪に嫁ぐんだろう」
「でも! 二十も上の、後妻としてよ!」
サミュエルは、お姉様とも仲が良かったじゃない。
なんで、そんなに簡単に突き放せるの?
「政略結婚なんて珍しくない。世の中の女性のほとんどがそうだ」
わかっている。
言われなくたってわかっているわ。
子供に言い聞かせるような、そんな言葉を聞かせないで。
「でも……婚約してたのよ。幸せそうだったのよ……」
「……俺は、君が同じ目に遭わなくてよかったと思ってる」
「……!」
サミュエルは、優しく私の肩に触れた。
その手を振り払いたい衝動に駆られる。
違う。
彼に八つ当たりしても意味がない。
「あなたも……同じ事を言うのね……」
それから数カ月後、姉は嫁いで行った。
元婚約者と私に、得意だった刺繍を残して。
私は、その刺繍入りのハンカチを握り締めて誓った。
「男に――いいえ、誰にも人生を奪わせない」と。
――それが、十九歳の夜だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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