第15話 私を呼ぶ声
『……けて』
まただ……また“あの声”だ。
あの不思議な夢で聞こえた声と同じ声が、また蕾に語りかける。
ここは――……?
蕾が目を開けると、そこには立っていたのはまるで人間たちを優しく見守るかのように空高く大空に聳え立つ大樹であった。
思わず蕾はその神々しい姿に見とれてしまう。すると――。
『痛い……苦しい……!』
その声に反応するかのように大樹の葉はざわめき、苦しみ出す。
!木が……!!
目の前に聳える大樹はみるみる力を失い、新緑だった葉は萎れていき灰色に変色し、樹皮も剥がれ、見るも無惨な姿までにボロボロに崩れ去っていく。
あんなに生命力に満ち溢れていた大樹は、ただの枯れ木と成り変わってしまった。
『お願い……ここまで来て』
声はまだ続いていた。
誰……?一体、どこにいるの――!
ひらひらと灰色の枯葉が散り落ちる中、蕾は必死に苦しそうに呻く声に呼び掛ける。
だが、誰の姿も見えない。
『助けてッ!!』
ただ悲痛な声が、蕾の頭に鳴り響いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――ッ!!」
そこでハッと蕾の目が覚める。目の前には見慣れない天井が広がっていた。
「やっと起きたか、ツボミ」
「たい、ちょう、さん……?」
まだ寝ぼけた目で蕾は横を見ると、椅子に座り、小さな灯りの下で羊皮紙に綴られた文字に目を通していたルアがいた。
机上にはたくさんの書類と本などが重ねられていた。
「隊長さん、帰ってきてたんですね~」
「あぁ、帰ってきたらお前が寝てたのでな」
「起こしてくれれば良かったのにぃ~……」
「別に用事もないのだから寝ているお前をわざわざ起こす必要ないだろう」
ルアはそう言いながら書類に目を通す。暖色系の明かりが端正なルアの顔を照らしている。
そして蕾はやけに部屋が暗いことに気付いた。
「もしかして私、結構な時間寝てました?」
「それはもうぐっすりとな。もう外は夜だぞ」
蕾はベットの上から外の様子を覗いてみると、確かにもう既に外は闇夜に包まれており、空には星が浮かんでいた。
ルアは一通り仕事に関しての書類を見に通し終わると、書類から目を外す。
「一応お前も食べれそうな夕食を持ってきておいた。まぁ、少し料理は冷めてしまったがな」
ルアが取り出したのは、少し蕾の体には大きめの皿に注がれた野菜が入った白濁色のスープに、狐色のいい香りがした柔らかいパンであった。
「うわぁ~!ありがとうございますー!」
アランのところでポロッコを食べたばかりであった蕾だが、美味しそうなスープの匂いを嗅ぐとまたお腹が減り、涎が出る。
「だが大丈夫か?少し顔色が優れていないように見えるが…」
「え、そう見えますか?」
蕾は自分の顔を触る。鏡がないので、今自分がどういう顔色をしているのか蕾自身には分からなかった。
確かに、今さっき何やら夢を見ていたような気がしたのだが、はっきりと思い出せなかった。
「でも大丈夫です!食慾はバッチリとあるので!」
「そうか?ならいいが……」
出会って間もないルアに心配をかけたくなかった蕾は、笑って何とかその場を誤魔化す。
ルアから手渡されたスープとパンを受け取ると、蕾はゆっくりと湯気が仄かに立つスープにとスプーンを入れて掬い、口と運んだ。
「おいし~……!」
クリームシチューみたいな味がするスープ。優しく蕾の胃の中を包み込んだ。与えられたパンの方も、昨日食べた硬いパンとは違い今度は自分でちゃんとちぎれるほど柔らかった。
「それでお前のことなのだが、お前は今自分のことをどれだけ把握しているんだ?」
「んー、えっーと……まったく分からないであります!隊長!!」
「お前はもっと自分のことなのだから真剣に考えんか!この馬鹿者ーッ!!」
「ひょえぁ!た、隊長さん顔が怖いでありますーッ!」
夢中でスープとパンを食べながら、呑気そうに答える蕾に向かって、ルアは怒りで吠えた。
完全に蕾が夢の中で見た出来事は記憶の奥にと引っ込んでいった。




