第8話
今日という一日を何とか無事に乗り越えることが出来た美咲は、お風呂の湯船に浸かりながら安堵していた。
藤堂と大志のキスを見てしまった。
でも大志はなんとも思って無いみたい。
東京に彼女がいたのかな。
キスに慣れてる感じだった。
まあ彼はイケメンだから無理もないけど。
それにしても藤堂。
彼女は一体何を思ってあんな行動に出たのだろう。
私に精神的ダメージを与える目的なら、その企みは成功したといえる。
実際私は傷ついた。
そしてそのときに私は大志が気になっていることに気が付いた。
私は大志が気になる。
美咲が物思いにふけっている頃、美咲が風呂に入っていることを知らなかった大志は風呂に入ろうと洗面所にやってきた。
洗面所の扉が開く音がしたので、美咲はドアの方に視線を向け、
「誰?」
と、問いかけた。
「悪い、俺だよ」
「今、私が入ってるから」
「そうだったか、悪いな」
そう言って、大志は洗面所を後にした。
やれやれ。年頃の男性との同居生活は危険に満ちているなあ、と美咲は感じた。
全く大志ったら何を考えてるのかしら。
ドアに入ってますって張り紙を貼ろうかな。
そんなことを思いながら美咲は湯船を上がり、頭を洗い始めた。
女にとって髪は命だ。
どさんこイケメン女子高生を目指すなら、この髪を綺麗に保たなくてはいけない。
美咲はお洒落にも気を使う気持ちが出てきた。それはとても喜ばしい兆候であり、彼女を王座へと導く導線となる。
今度の土曜日、札幌に行ってお洒落グッズ買ってこよう。
そんなことを思いながら、美咲は丁寧に髪の毛を時間をかけて洗った。元々綺麗好きであるが、美咲がこれまでより十分以上も長く自分の髪を洗うのは初めてだった。
風呂から出てくると、リビングでは猛が哲夫と酒を飲んでいた。つまみはイカリングとお刺身という珍妙な取り合わせで、美咲は見ただけで胃がもたれそうになった。あんな食べ合わせの悪そうな物を口に入れたら体に害が出そう。そんな風に美咲は考えた。
今日の夕食はカレーだった。
カレーラーメンを食べた後にカレーを食べるという愚行を犯してしまったが、元から今日はカレーと決まっていたのだから仕方が無い。
なぜなら今日は許斐が料理当番だったからだ。
許斐はカレーとシチュー、卵焼きしか作れない。小学校五年生にしては料理のできるほうだが、いかんせんまだ子供、カレーも甘口でジャガイモが溶けてなくなっていた。
「そういえば今日食べたカレーラーメンの中にジャガイモがなかったな」
「許斐、カレーにジャガイモは入れなくていいわよ、日持ちしなくなるから」
許斐は美咲に満面の笑顔を見せて相槌した。
「カレーにジャガイモって最近入れなくなったよな」
「溶けると不味くなるし、日持ちしないからじゃない」
「うーん、俺はジャガイモ入りカレー好きだけどなあ。母ちゃんがよく入れてくれてた」
「え、そうなの」
許斐が眼を丸くして大志に尋ねる。
「うんだ」
「じゃあ今度作るときは上手く入れるね」
「おう、頼むぜ許斐ちゃん」
大志は母親とは死別している。一体どんな人だったのか、美咲は気になっていた。
大志は隣に座っていた許斐の頭を軽く撫でた。許斐は嬉しそうに大志に身を委ねる。
全く、読めない人ね、大志って。
美咲はイマイチ腹の探れない大志に少し警戒しつつ、それでも彼の愛を求めて日本一カッコいい女子高生に選ばれるよう最善の努力をしようと心に決めた。
翌日、学校内掲示板に美咲の写真がデカデカと載せられた新聞が掲載された。
狩川が所属する新聞部の学内新聞で、衝撃スクープ、2年A組の指野美咲16歳、北海道一のカッコいい女子高生になります宣言。と書かれていた。他にも、受けた覚えの無いインタビュー記事まであり、存在そのものが藤堂を挑発するような内容になっていた。
「ちょっとこれ何」
「あっ俺のラーメン記事も載ってる」
「そうじゃないわよ、これじゃあ藤堂と全面戦争になるじゃな~い」
「まあ学内で二名選ばれるんだから争いにはならんだろう。井上かお前のどちらかが選抜落ちすれば、藤堂が一位でも二位でもいいんだから」
「それはそうだけど、でも、こんな大げさにされたら、私、恥ずかしい」
「何言ってんだ、今更。」
恥ずかしがる美咲に、大志は渇を入れるべく背中を叩いた。その痛みで美咲の猫背が治った。
「美咲ち、どう? この新聞、いけてるでしょう」
廊下を走ってきた狩川は息を切らせながら美咲に尋ねてきた。
「全然っ最低よ。これじゃあ私がさらし者みたいじゃない」
「そんなことないって、新聞部は今異例の大増版で大忙しなんだよ。皆美咲ちの記事を読んでるみたいだよ」
「なんで私がインタビュー受けてるのよ。勝手にこういうこと書かないでよ。しかも藤堂を挑発してるじゃない」
「ごめんごめん、そっちの方が盛り上がると思ってね。指野美咲と井上小鈴、藤堂麗華、学内選抜に選ばれるのは誰だってね」
藤堂さんには負ける気がしません。と架空のインタビュー記事には書かれていたため、新聞を読んだ藤堂は当然の如く激怒した。
あの女、ちょっと綺麗になったからって調子にのって。
教室に入ってきた美咲に、藤堂は怒りの篭った眼差しを向けた。美咲はバツが悪そうにその視線を避け、自分の席に座った。
「言っとくけど、この勝負美咲の勝ちだから」
後から入ってきた大志が藤堂を挑発した。
「大志っ」
「全くいい度胸してるじゃない。この私に喧嘩を売るなんて。いいわよ、どさんこイケメン女子高生コンテスト、私も本気で相手してあげる。あんたなんか、軽くひねり潰してやるんだから」
そう言って冷笑する藤堂を見て、美咲は震えた。
指野の載った学内新聞は増版に増版を重ね、二百部を突破する勢いとなった。狩川は笑いが止まらないといった調子で大忙しの増版作業を部員達とこなしていた。
美咲は学内用のコンテスト用の写真を撮るため、新聞部に顔を出した
「おっ来たね、愛しのお嬢様」
「コンテストの学内用写真を撮るんでしょう」
「そうそう、いやあよく来てくれました、未来の北海道一カッコいい女子高生様」
「やだやめてよ、まだ決まったわけじゃないわよ」
「ううん、美咲ちは絶対に一位になる。仮になれなくてもいいところまではいくよ、この私が保障する」
「ホント、なんだか夢みたい」
「ささ、そこの椅子に座って。座ったまま撮るからね」
美咲は狩川に言われるがままに椅子に座り、ポーズを撮ると、カメラのフラッシュを浴び続けた。
しかし狩川は藤堂の悪意を甘く見ていた。
指野なら学内二位までは余裕。
狩川はそう確信していたが、藤堂は自らの派閥の力を使い、膨大な数の組織票で一位と二位を固めようと奔走を始めたのである。
その行いに狩川が気が付いたときには既に藤堂グループの全員が彼女に買収されてしまっていた。幸い学内総数二位を誇る狩川の派閥の女子達は買収を拒んだため、あとは浮動票の確保が至上命題となった。
藤堂麗華は一年生で一番カッコいいと言われている三枝香苗を第二位の候補として擁立してきた。つまり藤堂と三枝のワンツーフィニッシュを組織票で磐石なものにしようと画策を始めたのである。
事態を重くみた狩川は、藤堂に直接抗議しに行くことにした。
2年A組の教室にやってきた狩川は藤堂グループの人間達を搔き分けて、藤堂の下に辿り着いた。
「ちょっと、藤堂さん。どさんこイケメン女子高生コンテストの事務員として言うけど、組織票での票固めは大会の趣旨に反する行為ですよ」
「そんなの別に関係ないじゃない。組織票なんて投票制度の定石でしょう。第一組織票を使っちゃいけないルールなんて無いでしょ」
「それはそうだけど」
「ねえ狩川さん。私、今、虫の居所が悪いのよ。これ以上この話はさせないで頂戴」
藤堂は鬼の形相で狩川をにらみつけた。その迫力に気圧され、彼女は沈黙し、何とかこちらも組織票で固めようと心に決めたのである。
しかし狩川が思い立った頃には既に下級生、上級生にまで藤堂一派の手が回っていた。
「藤堂さんに投票したらお金貰えるって言われた」
上級生を買収し、下級生を威圧して言うことを聞かせた藤堂の策略の前に狩川は軽い絶望感を感じていた。
どさんこイケメン女子高生を決めるコンテスト事務局は新聞部が担当している。
つまり自分の領分だ。
投票は二日後。
この藤堂の悪辣な行いを新聞に書けば多少は票が割れるかもしれないが、金の力には勝てないだろう。
室蘭西高等学校の生徒数は全学年で五百二名。
投票に参加してくれる人間を半分と見込んだ場合、全部で二百五十一票となる。さらにその中で藤堂一派の数は約百名。狩川のグループのメンバーは五十名。この時点で不動票は百一。藤堂が買収したと見られる人数は、狩川が調べた結果五十人前後とみられている。つまり藤堂に入る票は最大でも百五十。残り五十一票を指野、井上陣営が獲得できれば彼女達のどちらかは二位になれる見込みはある。
しかし狩川は残り五十一名も藤堂が買収していると睨んでいた。そして彼女は最悪プランBを実行にうつすため、指野にプリクラを撮って来るように言ったのである。
「プリクラなんて久しぶりだね」
「一緒に撮りに行こうよ。」
「プリクラなんて撮ってどうするの」
「いざという時のための保険だよ」
「保険?」
「直ぐに撮りに行こう。動くなら早いほうがいい」
「それより学校の生徒達に投票をお願いに回らないと」
「それは後日やろう。とりあえず今日はプリクラだよ、プリクラ。わかった、美咲ち」
狩川の必死さに押され、指野はうなづくので精一杯だった。
狩川は美咲の手を取って、一階のエントランスにやってきた。そこにはプリクラの機械が二台並んでおり、女生徒達が列を作っていた。
「学校にプリクラが置かれたんだね」
「うちの学校はプリクラメーカーのモニターを今年度から始めたんだよ。その関係で機械が設置されているんだ。だから校内で手軽にいつでもプリクラが撮れるんだよ」
狩川は得意げに言うので、美咲は少し笑った。
「何がおかしいの」
「だって、亜美奈。ドヤって感じなんだもん」
「そりゃドヤるでしょ、我が高校のメリットの一つなんだから。学内でプリクラが取れる学校は北海道でも数校だけなんだよ。これをドヤらずにいられるかっての」
「あはは。わかった、わかった。で、どうするの」
「普通に撮るんだよ」
「亜美奈と一緒に撮ればいいんだね」
「違う、美咲ち一人で撮るの」
「え、一緒じゃ駄目なの」
「駄目」
美咲は残念そうに視線を落とした。
「嘘嘘、まずは一人で撮ってもらって、そのあと一緒に撮ろうよ」
「うん」
さっそく美咲と狩川はプリクラの列にならんだ。
プリクラの存在そのものはよく知っていたが、室蘭でプリクラをしょっちゅう撮るのは地域的にハードルが高く、最近の美咲はプリクラをあきらめていた。それがこんな形で撮ることになろうとは、美咲は少しだけ気持ちが高揚していた。
「ところで何でプリクラ撮るの」
「話せば長くなるから、プランBとだけ言っておくよ」
「プランB?」
狩川のプランBが何を意味するのか、美咲には理解できなかったが、初めてプリクラを撮れることに今は喜びを見出すことにした。
三十分ほど待って、ようやく美咲と狩川の番がやってきた。美咲はまずは一人でプリクラ機の中に入り、撮る事にした。
「ポージングとかしなくていいよ。証明写真を撮るような感じで、少しはにかんで」
狩川のアドバイスを聞き、美咲は少しだけ表情を和らげてプリクラを撮った。さっそく発行されたプリクラを確認しようと美咲は外に出たが、取り出し口から既に狩川は奪取していた。
「うん。映りはこれでよし」
「一体何に使うの?」
「プランBだよ」
プランB。一体何のことだろう。
美咲には皆目見当もつかない。
しかし久しぶりのプリクラは思っていた以上に楽しく、これから定期的に撮って手帳でも買って貼ろうと美咲は思うに至った。
その後、今度は狩川と一緒にプリクラを撮り、写真のデコレーションを楽しんだ。
「プリクラって楽しいよね」
「でしょ」
「できればまた亜美奈と撮りたかったな」
「はは、ごめん。ちょっと急いでたからね」
「プランBって何なの」
「それは秘密。やらなくて済むならそれに越したことはないからね」
「そう、わかった」
美咲は納得すると、狩川と一緒にプリクラ機を出て、取り出し口のプリクラを入手した。
「ねえ、これ半分こしない」
狩川の提案に、美咲は快く応じた。そして真ん中から二つに割ったプリクラの貼られたシートを美咲は手に入れた。
今度は大志と一緒に撮りたいな。
美咲の願いは意外と早く実現しそうであった。
二人を探して、大志がプリクラ機のところにやってきたのである。
「大志、どうしたの」
「いや、何となく。二人とも何してたの」
「プリクラを撮ってたんだよ」
「へえ、学校にプリクラ機なんてあるんだ。」
物珍しそうに大志はプリクラ機を覗き込んだ。
きっと大志は東京育ちだからプリクラは撮り慣れてるよね。
きっと前の彼女さんとかと。
そんなことを考えると、美咲はなんとなく切ない気持ちになり、この場を離れたいと思った。
しかし、
「美咲、狩川、一緒に撮ろうぜ」
と大志が弾んだ声で言ってきたので、再び列に並び、今度は三人でプリクラを撮った。できれば二人きりがよかったな、と思いつつ、美咲は満面の笑顔を作ってプリクラを撮影した。
「おお、よく撮れてるじゃん」
「ねえねえ、大志と美咲ち、二人で撮りなよ」
狩川の思いがけない言葉に美咲は軽く狼狽したが、すぐに、
「そっそうだね、大志、一緒に撮らない?」
「いいよ、撮ろうぜ」
大志は快く応じてくれたので、美咲は安堵した。
断られたらどうしよう。
と、内心不安があったからだ。
プリクラの機械に二人で入ると、大志は後ろから美咲に抱きついてきた。
「えっちょっと、大志」
「いいじゃん、恋人同士風に撮ろうぜ」
大志の積極的な行動に動揺しつつも、美咲はそれを受け入れた。
さっそく撮影されたプリクラを見た狩川は、
「あんた達、もうそういう関係なの?」
と、からかって大笑いした。美咲は必死に否定したが、大志はにんまりとしていて特に抗議はしなかった。
「ちょっと、大志からも何とか言ってよ」
「いやあ、別に」
「別に、じゃなくて」
美咲は赤面しながら大志を責め立てたが、大志は我関せずといった調子で美咲の言葉を聞き流していた。
「これはスクープだよ。学年一の美男美女のカップルの誕生だ。明日の特ダネはこれで決まり」
「ちょっと、駄目だっては」
必死に否定する美咲を見て、狩川は楽しそうに笑った。その様子を見ていた女生徒達はざわついていたが、大志はそんな女生徒達には目もくれず、美咲と狩川に包み込むような優しい眼差しを向けていた。
今井家の二人が居候になってから、指野家の夕食は和やかな家族団らんのひと時となっている。
その日の夕食は美咲の手作りハンバーグだった。猛は酒のつまみに塩辛じゃがバターを口にし、哲夫もそれに付き合っていた。
「なあ美咲、明日一日俺に付き合ってくれないか」
美咲が丁度ハンバーグを口に含もうとしたタイミングで大志が言ってきた為、彼女はハンバーグを喉に詰まらそうになった。
「突然何よ」
「いいじゃん、付き合ってくれよ」
いつに無く真剣な表情で美咲に頼む大志の瞳は、美咲には瑠璃色に輝いているように見えた。
「おっなんだ、デートか。いいなあ若いってのは」
哲夫が二人を冷やかしたが、大志の真剣な表情を見て、バツが悪くなり、その後は暫く黙っていた。
「デートだ、デートだ」
場の空気を読まず、許斐はデートと連呼する。
「そんなんじゃないわよ。私たち付き合って無いんだから、ねえ、大志」
美咲の問いかけに大志は答えず、ハンバーグを食べていた。
「ちょっと、聞いてるの」
「聞いてるよ」
ようやく答えたと思ったら、今度はグラスに入った水に口をつける。
「んもうっ大志ったら」
「それで、付き合ってくれるの、明日」
水を飲み終わり、一呼吸置いて大志は美咲に尋ねた。美咲は答えを決めかねていた。
二人っきりって、デートみたいじゃない。
私と大志はそういう関係じゃない。
ここは一度断るのが乙女の嗜みよ。
でもこの機会を逃したら、大志と二人きりでデートなんて出来なくなるかもしれない。
あらゆる思考が渦巻き、美咲は周囲の人間達にはぼうっとしているように見えた。
「美咲、どうした」
「え、いや、なんでもない。それより一体何の用事なの」
「ショッピングセンターに買い物に行きたいんだよ。それに行ってみたいところもある。俺の親父は転勤族で、室蘭には二年しかいなかったから、土地勘が無くなってしまってさ。生粋の地元民の美咲にぜひ着いて来て欲しいんだよ」
そういえば、そうだった。大志は美咲が小学校三年生の時に転校してきて、五年生の時にまた東京に転校していったのである。
なんだ、そういう理由か。美咲は少し落胆しつつも、大志の願いをすんなり聞き入れることにした。
「わかった、じゃあ明日ね。お父さん、明日一日牧場の仕事休んでもいい」
「いいよ、行っておいで。お前が手伝わなくても牧場は回るよ」
「よかった、じゃあ大志、明日ね」
「おう、よろしくな」
「ショッピングモールに行くには朝早くのバスに乗らないと行けないから早起きしてね」
「はいよ」
大志は陽気な調子で相槌を打った。
「ほんとに分かってる」
「分かってるよ、美咲様」
「何それ」
「いやあ土地勘のない俺にとって指野美咲は神様みたいな存在だからな」
「それ、大げさよ」
美咲の言葉に、場は和み、爆笑に包まれた。
その夜、今井は藤堂麗華の弱点を探ろうと、夜遅くまで彼女の父親が社長を務める会社の決算書類を確認していた。その結果、ここ数年は不振であり、赤字続きであることが明らかになったのである。その事実を知った大志はほくそ笑んだ。
翌朝、美咲はいつもどおり朝の四時に起きた。今日は大志と二人で一日を過ごす日だ。別にデートじゃないけど、服は精一杯お洒落をしていこうと美咲は奮起した。
さっそくクローゼットを開いて、自分の洋服をせっせと出していった。
今日はスカートにしよう。
今は北海道で生足を出せる貴重な期間だし、
大志も喜んでくれるかもしれない。
問題は上着。Tシャツはまだ早い。カーディガンは婆くさいけれどお洒落な服を持っていない美咲にとってはファーストチョイスになった。
今日の天気は晴れだけど少し肌寒い陽気だと昨日のお天気ニュースでやっていた。美咲はチェックのシャツにカーディガンを着ることにした。
着る服が決まると、美咲はいつものように牛舎に向かい、ジャージ姿で藁ベッド作りを手伝うことにした。そこにはTシャツにオーバーオールのショルダーを外した姿の大志が藁ベッドを作っている姿があった。
「驚いた、おはよう」
「おう、おはよう」
「何でそんな早くに起きてるの」
「何だか眠れなくてね、不眠症って奴かな」
大志の答えに、美咲は軽く笑った。そんな彼女の姿を見て大志も笑った。
牛舎での作業は美咲たち以外にも従業員達がせっせと行っていた。プロの従業員の作業に比べれば大志の作業は素人のそれである。従業員達が、大志の行った藁ベッドを作り直していた。
「あちゃあ、やっぱりプロには勝てないな」
「当たり前でしょう。彼らはこれでご飯を食べているのよ」
「うーん。牧場って大変だな」
「大志は家に帰っていいわよ。後は私たちがやるから」
美咲の言葉を素直に受け入れ、大志は家に戻っていった。




