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プライマリーローズ~地味目な私が学年一の美男子と付き合うことになってしまった  作者: 伊可乃万


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第7話


 朝の騒動は学内中を駆け巡り、大きな話題となった。公の場で恥をかかされた藤堂は、一人化粧室の個室に篭り、しおらしく泣いていた。それを知った狩川は、その事実を大志達に告げた。

「それマジかよ」

「マジだよ」

「というか狩川って下の名前何ていうの?」

「あたしは亜美奈って言うんだ、それで転校生君。あんた藤堂に何言ったの?」

「そんなに可愛くないって言ったんだ」

 今井の言葉に、狩川はあいや~、と軽く叫んだ。美咲は居た堪れないといった表情で自分の席に座っていた。

 だがすぐに狩川は笑い出した。その豹変ぶりに大志は驚きの声を上げる。

「あはは、もうこうなったら全面戦争だね」

「ぜっ全面戦争? なんか話しがややこしくなってきたな」

「藤堂がこのままやられっぱなしなわけないじゃない。きっとあんたに復讐してくるよ」

「常套じゃねえか。受けて立つぜ」 


 化粧室の個室に篭っていた藤堂は、涙を拭き、そして大志への仕返しの方法を思案していた。そして考えをまとめると、個室から飛び出して教室へと向かった。

 教室に戻ってきた藤堂は一直線で大志の方に向かってきた。唐突な藤堂の登場に大志は驚いたが、すぐに身構えた。

 だが、そんな彼をあざ笑うように藤堂は大志の腕によるガードを跳ね除けて、彼の唇にキスをしてきたのである。

 そのあまりの出来事に、場は静まり返った。二人がキスする一部始終を見た狩川と美咲は顔をゆがませ、声をあげた。

「どう、あまり可愛くない女とのキスの味は」

 唇を離した藤堂は冷徹な笑みを浮かべながら大志に語りかけた。

「悪くないね」

 大志は特に動揺することもなく、軽やかに言葉を返した。

「気に入った。私、あなたのことが好きよ。絶対に指野から奪ってみせるから」

「俺は美咲とは付き合って無いよ。キスだってしてない」

「そう。じゃあ私が一歩リードしたわね」

 美咲の方に視線を向けながら、藤堂は言った。突然起こった目の前の状況を理解できず、美咲は一瞬混乱したが、大志の口についた藤堂の口紅の痕跡を見て、現状を理解した。

 キスした。

 大志と藤堂が。

 そんなの嘘。

 いや、嘘じゃない。

 今のは現実?

 それとも虚構?

 私だって彼にされたいのに。

 藤堂は獰猛な肉食獣よ。

 そんな女とキスするなんて。

 信じられない。

 信じたくない。

 美咲の脳内はあらゆる言葉が駆け巡り、そして彼女は教室を飛び出していった。

「美咲ちっ」

「美咲っ」

 狩川と今井は美咲の後を追いかけた。その様子を悠然と眺めながら、藤堂は自分の机に座った。そして群がってきた自らの派閥の女生徒達に、

「あんたとあんた、笑ったでしょ。私のこと」

「え」

 藤堂に指差された女生徒達は顔を青ざめさせた。

「絶対に許さないからね。井上も指野もいじめ飽きた。今日から貴方達がターゲットよ。」

 そう言って、藤堂は笑った。


 美咲は屋上にやってきた。そして金網に手を掛けて大粒の涙を流した。

 到着した狩川は、ゆっくりと美咲に近づき、そして背後から彼女に抱きついた。

「大丈夫、あれは事故だよ」

「何が事故よ、大志の奴、良さそうな顔してたじゃない」

「そんなことないよ」

 遅れてやってきた大志は美咲の一言を否定した。

 美咲は大志の方を向き、彼に近づいていった。

「気持ちの整理がつかない。あなたにどんな態度取ればいいのかわからない」

 そう言う美咲の顎を持ち上げ、大志は美咲にキスをしようとした。しかし美咲はその手を跳ね除け、大志を平手打ちした。

「いって・・・」

「藤堂の唇がついた口でキスなんて止めてよ。私たちそんな関係じゃないでしょ」

「だったら何でこんなところに来たんだよ」

「それは・・・」

「美咲、あれは事故だ。俺も油断してた。本当にごめん。」

 大志は床にしゃがみ込み、土下座をしようとした。それを見た美咲は我にかえり、それを静止した。

「やめて、男の人が土下座なんてするもんじゃないわ」

「じゃあどうしたら許してくれる?」

「許すも何も・・・事故だからしょうがないよね」

 美咲の精神が安定してきたのか、彼女は藤堂と大志のキスを事故として処理することができるようになった。

「そうそう、事故だよ、事故。大志君は悪くない。美咲ちにも罪はない。悪いのは藤堂麗華ただ一人だよ」

 荒ぶる場の空気を収めたのは狩川の一言であった。

「それにしても藤堂の奴、あんなことするなんて、びっくりだよ」

「しばらく彼女を見れそうにないな」

「ちょっと口洗ってくるわ。汚されたからな」

 大志の軽いジョークに美咲と狩川は笑みを見せた。そして一人屋上を後にした。

 大志がいなくなった屋上で、狩川は美咲を見つめ、

「ごめんね、美咲ちがこんな大変なめに遭っているのに助けてあげられなくて」

 と言ってきた。

「亜美奈・・・これからも、私と友達でいてくれる?」

「勿論。同じ中学からの腐れ縁でしょ」

「うっうん。そうだね。私には亜美奈だけが頼りよ」

 狩川は笑顔を見せて手を差し出してきた。

美咲は狩川の善性溢れるその好意に甘えることにし、彼女の手を握り返した。


 学内は藤堂と大志のキスの話題で持ちきりであった。二人はそういう関係になったんだという既成事実が出来上がりつつあった。

 今井大志は藤堂麗華の恋人なんだ。

 流石美男美女のカップル、二人は尊い。

 そんな調子で学内の女子達はすっかり美咲の変化のことを忘れ、藤堂と大志の話で盛り上がっていた。それが藤堂の狙いであり、作戦であった。美咲から大志を奪い、自分の物にすることで彼女へのマークを外すことにした。これ以上美咲に関わると、大志が黙って無いはずなので、引き際を見極めたのである。


 人たらしの狩川は、早速今日の放課後、美咲とカレーラーメンを一緒に食べに行く約束を取り付けた。大志も連れてきてよいかと美咲が聞いてきたので、構わないと狩川は答えた。

「じゃあ、また放課後ね」

「うん、じゃあね、・・・亜美奈」

 まだ名前を呼ぶのが恥ずかしいのか、美咲は彼女の名を呼ぶ際に口ごもった。

「もー美咲ちっ最近ちょっと暗いよ? まあしょうがないか。今まで辛かったんだもんね」

「ごめんね」

「あやまることないって、悪いのは美咲ちを放置していた私の方だし。まさかこんなことになってるなんて思いもしなかった」

「亜美奈」

「クラスは変わっちゃったけど、これからまた距離を縮めていこうよ。もっと一杯、お互い何でも話せるようにしよう」

「うん、ありがとう」

 狩川の美咲への言葉には裏が無かった。実際彼女はずっと美咲を何とかしてあげたいと思っていたのである。

 しかし藤堂に楯突くことは流石の彼女も出来ず、歯がゆい思いをしていた。

 美咲が生まれ変わったかのように美人になったのと、大志の登場が、自らが動くタイミングだと察したのである。

 教室に戻ってきた美咲は、大志のハイタッチの要求にこたえた。

 世間では藤堂と大志が付き合っていることが既成事実のようになりつつあるが、実際は違う。

 彼はまだ誰も物でもない。

 勿論美咲の物でもない。

 その事実が美咲の心を軽く傷つけた。

 一体彼は私のことをどう思っているのだろう。

 好きなの?

 それとも居候だから優しくしてくれるだけ?

 だとしたらちょっと寂しい。

 藤堂と大志のキスを見て、美咲は自分の中にある大志への恋慕の情に気付かされた。

 私は大志のことが好きなの?

 それとも単に同居人としか見て無いの?

 どっちなの、指野美咲。

 美咲の頭の中は疑問と大志のことで一杯になった。

 それを人は恋と言うのよ。

 心の中にいるもう一人の強い美咲はそう言ってきた。しかし弱い美咲はその事実を否定する。

 私は大志のことが好き。

 そんなのうそ、大嫌い。

 ただの同居人だから仲良くしているだけ。

 きっと向こうもそういう理由。

 いや、そんなことはない。彼はさっき私にキスをしようとしてきた。 

 それは私のことが好きだから?

 それとも別の理由?

 答えの無い問いを美咲は授業中も延々と続けていた。

 しかし大志に聞く勇気がでなかった。

 それを聞いてしまったら、何か大切な物が壊れてしまうような、そんな気がした。

 このまま現状維持出来ればそれでいい。

 でもいつかは問いかけることになる。

 私のこと、好きなの? と。



 午後の授業が終了し、クラスメイトが帰り支度をしている頃、教室に入ってきた狩川は美咲に声をかけてきた。

「ねえ美咲ち、今日の放課後、予定ある」

「映研部に行こうと考えてたんだけど、コンタクトレンズを買いに行くことにしようと思って」

「え? でも今メガネ掛けて無いじゃん」

「裸眼なの」

「そんなんで授業受けてて大丈夫だったの」

「大志に板書を写させてもらうから平気」

「まだ貸すなんて言って無いぞ」

「あら、そんなこと言っていいの? 今日起こったこと哲夫さんに話しちゃうから」

 美咲は悪い表情で大志を見つめる。

「わかったわかった、見せてやるよ。ほれ」

 そう言って、大志は自分のノートを美咲に手渡した。

「ありがとう、ナイト様」

「それで話があるんだけど」

 二人の軽い余興が終わった頃、狩川は改めて提案をしてきた。

「話って何」

「教室で話すのもなんだから、カレーラーメン食べながらにしよう」

「カレーラーメン」

 その言葉の響きに、美咲の声は弾んだが、大志は渋い表情をした。

「なんだ、そのカレーラーメンって」

「東京にもお店あるんじゃない」

「聞いたこと無いよ」

「カレーヌードルがあるじゃん。」

「食べたこと無いよ」

「室蘭に住んでたじゃないっ」

「ガキの頃だし、覚えてねぇよ」

「じゃあ大志君も一緒に食べに行こう」

 狩川の言葉に、大志はうなづいた。

 こうして三人は学校から歩いて二十分程のところにあるカレーラーメン店へやってきた。

 店の外は行列が出来ており、三人は並んでいた。

 「カレーラーメンねえ」

 「美味しいのよ、室蘭名物なの」

 「あと焼き鳥もね」

 狩川が美咲の後に補足を入れる。

 「ふーん、カレーにラーメンぶち込んだ感じ? スープはドロドロ系?」

 「全然違うわ。まあ食べてみれば直に分かるわよ」

 美咲たちは三十分ほど並んで店内のテーブル席に通された。この店は地域密着型の店舗で地元民と美咲の学校の生徒が主なお客さんである。美咲たち以外にも生徒達が食べに来ていた。

「やけに繁盛してるな」

「そりゃあ美味しいからですよ」

「うんうん」

 狩川の言葉に相槌した美咲は、さっそく店員を呼んだ。

「みんなもう決めた」

「あたしはもう決めたよ」

「俺は美咲のと同じ奴にする」

「了解」

 美咲はやってきた店員にチャーシューカレーラーメンを頼んだ。偶然にも狩川も美咲たちと同様の品を注文した。

 ラーメンが来るまでの間、美咲と大志は狩川の話を聞くことにした。

「実はね、どさんこイケメン女子高生コンテストに美咲も応募したらどうかなって思ったんだよ」

「はあ?」

今井は気の抜けたような声をあげた。

「どさんこイケメン女子高生って、あれやらせじゃないの」

 早速大志が毒を放つ。

「ガチ選考だよ」

「その割には例年そんなにカッコよくない子が選ばれてるような気がするのは俺だけか」

「男性受けする子じゃなくて女性受けする子が選ばれやすいんだよ。」

「ふーん」

 大志は納得した様子でカウンターのテーブルに片肘を付いた。

「亜美奈は、わっ私にどさんこイケメン女子高生を目指せって言うの?」

「そう。実は藤堂の奴が応募するらしいことを聞いてね。なんとしても彼女に一泡吹かせたいんだよ。」

「どさんこイケメン女子高生かぁ・・・藤堂なら普通に上位に行くんじゃない」

「藤堂が選ばれてしまうのは癪に障るわけ。あたしはイケメン顔の美咲こそが相応しい存在だと思っているんだよ」

「急にそっそんなこと言われても・・・」

「一体どういう道のりで北海道一位が選ばれるんだ」

「良くぞ聞いてくれました。」

 大志の問いかけに、狩川は饒舌に語りだした。

「どさんこイケメン女子高生コンテスト。事前に応募した学校から学内選抜を行い、各学校から選ばれた二名達が各学校の代表となって北海道地区選考を行い、その中から上位三人を決め、最終大会に挑む。更にプリクラ選抜で一位になった者も北海道選抜に挑める。もう一つの方法として札幌市で行われる一般公募という選択肢もある。ここで一位になった人はいきなり最終大会に行ける。だから最終的には北海道地区選考で選ばれた三人と、一般公募で一位になった人の、合計四人で最終選考が行われるってわけ。でもそれだけじゃない。毎年プリクラ選抜は何処かの地区がシード地区として選ばれている。シードの対象地区の出身者はそのまま最終選考にいけるらしいよ。だけど、どこの地区になるかはまだわからないんだわ~」

「シードなんてものもあるのか、随分細かいんだな」

 狩川はいつの間にかカバンからパンフレットを取り出して美咲達に熱弁した。

「なるほど。どさんこイケメン女子高生コンテストか。面白そう。私、出てみたいな」

 話を聞いた美咲は断然やる気になっていた。

「今の美咲ちなら優勝は分からないけどファイナリストには絶対に選ばれるよ」

「そうかな?」

「そうだって」

「ところでどうして狩川はそんな情報知ってんだ」

「そりゃああたしは新聞部だもん。毎日ネタ探しだよ」

「お前新聞部なの?」

「そうだよ、おかしい」

「いや、なんとなく金髪だからスポーツやってそうなイメージだったわ」

「この金髪は生まれつきだから。ね、美咲ち」

「うん、そうなの。亜美奈の親族が外人がいて、覚醒遺伝なんだって」

 三人の会話が一区切りした時点で、頼んでおいたカレーラーメンがテーブルに並べられた。早速カレーの香ばしい香りが漂い、大志の食欲を促進させる。

 カレーラーメンといってもスープはドロドロ系ではなく、あっさりとしている。麺は北海道特有の縮れ麺で、チャーシュー以外にもネギと何故か海老が添えられていた。

「さっそく、まずは一口」

 蓮華でスープをすくい口を付けた今井が、

「これ、普通に上手いスープだけど、僅かにカレーの味がする」

 と感想を述べた。

 大志の感想など聞くことなく、美咲と狩川はカレーラーメンにむさぼりついていた。

「おい、俺の感想聞いてるか」

「ごめん、今は話しかけないで」

 大志の声を遮り、美咲はカレーラーメンに集中していた。

「どう、味は」

「びっくりした。普通のラーメンなのにカレーの味がする。スープを飲むと、後からカレーのルーの味が利いてくる感じだ。中太の縮れ麺もスープによく絡んでいて美味しい。カレーを全面に出しているというより、ほんのりカレー味がするって感じだな。こりゃ美味いわ」

「そうでしょうそうでしょう」

「美味いでしょう」

 美咲と狩川は互いに顔を合わせて笑った。

 ラーメンを食べ終わり、しばしの食休みの間、話題は再びどさんこイケメン女子高生の話になった。

「それでどさんこイケメン女子高生の件なんだけど、美咲ち、エントリーしておいてもいい?」

「う~ん・・・そうだなぁ。出てみたいけど、藤堂も出るんでしょ?」

 美咲は突然の狩川の申し出に戸惑いの表情を浮かべた。まさか自分がどさんこイケメン女子高生を目指すなんて、夢のような出来事である。

「美咲ち、チャンスだよ。輝きたくない? いまよりもチヤホヤされたくない?」

「そっそういわれると、されたくないわけじゃないけど、でも私なんかがそんな大仰な大会に出てもよいものかな?」

「良いの、美咲ち。じゃああたしが学内選抜にエントリーしておくからね。実は応募締め切りが近いんだよ。後で全身写真取らせてね」

 狩川は一眼レフのカメラを取り出し、美咲に見せ付けた。

「いいじゃねえか、美咲。受けてみろよ。もし北海道一位になれたら俺の彼女にしてやるよ」

「ほら、大志君もああ言ってるよ」

「何言ってるのよ、私とあなたはそういう関係にはなっちゃ駄目でしょうが。ただでさえ一緒に暮らしてるのに、もう」

「関係ねえよ。親父も美咲みたいな子が嫁に来てくれたらって言ってるんだぜ」

「あなたのお父さんはなんてことを言うの」

「ウチの親父もやり手だからな。美人の母ちゃんを強引に物にしたらしいぜ」

 大志は瞳を光らせ、スープの残り汁をすすってみせた。

「かーっ美味いな。親父にも教えてやろう。しばらくは通い詰めることになりそうだ」

「大志ってラーメン好きなの?」

「バカだな、美咲。東京はラーメン天国だぞ? 美味い店を食べ歩きしたからな。本物のラーメンを見極める舌は持ってるつもりだぜ」

「そうなんだ、意外」

「そうか」

「大志からラーメンってイメージできない」

「それは美咲さん、偏見というのですよ」

「何で急に上品な口調になったの」

「いや、なんとなく」

 美咲ははにかみながら、大志と言葉を交わしていた。その様子を、狩川は母親のような感覚で見守っていた。

「でも、どさんこイケメン女子高生って、確か映画研究会の人達が井上さんを使ってドキュメンタリー映画を作ってるんじゃないの?」

「その通り。あれは新聞部の持ち込み企画なんだよ。映研と共同で進めているわけ」

「だったら井上さんと藤堂のどっちかで決まりじゃない?」

「違う。藤堂を追い落として、美咲ちと井上さんの二人が学内選抜に選ばれるシナリオにしたいの」

「そうだったの・・・」

 美咲達の会話が途切れた頃、店内に葛木吹雪が入って来た。そして狩川を見るなり挨拶をしてきた。

「こんにちは、狩川さん。やっぱりこの店にいたのね」

「あ、部長」

 突然の葛木の登場に美咲達は面食らったが、すぐに気持ちを整えて彼女を迎え入れる精神的な準備に勤しんだ。

「指野さん、狩川さんから話は聞いた?」

「はい。どさんこイケメン女子高生コンテストですよね」

「そう。井上さんのライバルキャラとしてあなたにも是非映画に出てほしいの」

「ライバルキャラ?!」

「二人で切磋琢磨していく様子を撮影するのよ。ああ、もう考えただけで我慢できない。これは傑作ドキュメンタリーになるわ。私の評判もうなぎ登りよ」

 実に一方的に捲くし立てる葛木に辟易しつつ、美咲は残りのスープを飲み干した。

「それにしてもどうして井上さんなんだ?」

「そりゃもう、彼女に対する藤堂の苛めへの牽制よ。それにあの娘けっこう可愛いし、新体操やってるし、私も上級生として藤堂の横暴ぶりには参っているわけ」

「ほう、つまり人助けって奴か」

「苛めにあって自殺未遂をしようとした少女が一念発起して体も心もイケメンな女子高生を目指す。しかしそこに立ちはだかる壁、指野美咲という女。うふふ、これはいける、いけるわよ」

 一人で実に一方的な妄想に興奮し、盛り上がって笑い続ける葛木を、三人は冷めた目で見ていた。

「とにかく、そういうことだから、指野さん。あなたも映画に出てね。撮影は明日からよ」

「え、でも」

「あなたの意思は聞いてない。では、よろしくね」

 言いたいだけ言って店を出て行く葛木に、美咲は辟易とした感情に至った。

「というわけで、よろしくね、美咲ち」

「私の意思は尊重されないのね」

「葛木先輩は強引だからね。こうなったらやるしかないよ。気合入れていこう。まずは写真撮影からね」

 さっそく店を出るなり、狩川は美咲の全身写真を撮りまくった。

「これ明日の校内新聞の一面にするからね、覚悟しておくんだよ、美咲ち」

「はっはい」

 美咲は緊張しつつも必死に狩川に言われるがままポージングをしてシャッターに答えた。

 その様子を大志は見ることは無く、メモ帳に店の名前とラーメンの味の詳細を書き込んでいた。        

「大志君、何やってるの?」

「メモ帳に味を書き留めているんだよ」

「ちょっと見せて」

 狩川は強引に大志からメモ帳を奪うと、一心不乱に読みふけった。

「ねえ、これ、貸してくれない」

「え、いいけど。なんで」

「新聞に載せたいから」

「はあ、さいですか」

 狩川は新聞のネタ探しに日々奔走していた。そんな彼女にとって今日という日は大収穫の一日となったのである。 

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