第12話
「何? どさんこイケメン女子高生コンテストだって?」
夕食時、猛の声がリビングに大きく響いた。
「うっうん。そうなの。もうプリクラ選抜で一位に選ばれてて、これから北海道選抜に参加することになるの」
猛の顔色を窺いながら、美咲は慎重に話を進めた。話を聞いた猛は食事を食べる手を止め、腕組みして思案した。
「それは将来、芸能界に入るという事か?」
芸能界に入る。
そんな考えは美咲の頭の中には一言も無かった。
猛の予想外の反応に、美咲は当惑した。
「もし芸能界に入るなら、お父さんは反対だ。芸能界は恐ろしいところなんだぞ。食うか食われるかの厳しい世界だ。」
「芸能界なんて興味ない。私は自分の可能性を確かめたいだけよ」
必死に食い下がる美咲に、猛は目尻を下げた。
「その言葉が聞きたかったんだ。」
「お父さん」
「どうせやるなら徹底的にやりなさい。そして必ず北海道一の女子高生になるんだよ。そうそうれば、ウチの牧場の宣伝にもなるからな」
そう言って、猛は朗らかに笑った。厳しさを見せたのは美咲を試すためであった。
藤堂に屈辱を与えるため、大志に振り向いてもらうため、どこか振り回されるように応募することになったどさんこイケメン女子高生コンテスト。
しかし、気が付けば燃えている自分がいることに美咲自身も気が付いた。
もはやこれは誰のための戦いでもない。
私の目標になっている。
ここまで来たら後には引けない。
真剣勝負だ。
「物分りのいい親父さんでよかったな、美咲」
美咲の向かいの席に座っている大志が彼女の顔を覗き込むように話しかけてきた。
「大志君。キミも美咲を応援してやっておくれよ」
「勿論ですよ。任せてください」
「全く調子がいいんだから」
大志の軽い言葉使いに、美咲は唇を鋭く尖らせた。
「お姉ちゃん、日本一になるの?」
何も事情を飲み込んでいない妹が美咲に声をかける。それを聞いた美咲は彼女の頭を撫でて、
「日本一じゃない、北海道一の女子高生」
と優しい口調で諭した。
「それで親父さん、実はお願いがあるんですけど」
大志は猛にドキュメンタリー映画の撮影の事を話した。それを聞いた猛は一瞬驚いた表情を見せたが、牧場の宣伝になるならと快く取材を快諾した。
その日の夜、美咲と大志はいつものように自宅の縁側に座り、欠けた月を見上げていた。
二人の間には緊張感はなく、両方とも落ち着いた様子であった。
「なあ、美咲。小学校の時の事覚えているか?」
そう問いかけてくる大志に、美咲は「ええ」と相槌をついた。
「実は俺が刑事を目指そうと思ったのは、お前がきっかけなんだ」
「え? 私?」
「そう。お前がクラスで苛めに遭っている子の前に立ちはだかって庇う姿を見て、これが正義か、と思ったんだ」
そんなことあっただろうか。美咲の記憶はおぼろげだった。
「ごめんな。久しぶりに会ったとき、お前を責めちまって。でも本当に弱いのはこの俺なんだ。もっと肉体的にも精神的にも強くならないとなって思ってるんだ」
「大志は充分強いじゃない」
「そんなことはないさ。俺は弱い男だよ。藤堂のことも無視を決め込んでいるし。まあ幸いあいつは井上さんを苛めるのはやめたみたいだけど、それでも俺は止められなかったのを恥じてるんだ。本当だぜ」
思いもがけない大志の告白に、美咲は口ごもった。一体何て言えばいいのかわからず、二人は見つめあったまま、しばし沈黙状態になった。
「明日、ここに葛木先輩が来るわ。まずはその撮影を何とか乗り越えましょう」
必死に話題を逸らす美咲に、大志は「ああ、そうだな」とうなづいた。
「美咲、まずは北海道選抜で一番カッコいい女子高生に選ばれて、藤堂をねじ伏せないといけないからな」
「分かってる、正直自信があるかと言われれば疑問だけど、でもここまで来たらやるしかないもん。頑張るからね」
「その意気だ。頑張れよ、美咲。俺もお前を全力でサポートするぜ。」
「ありがとう、大志」
美咲の謝辞に、大志は照れくさそうに鼻を掻いた。
どさんこイケメン女子高生。その道のりは険しい。まずはプリクラ選抜で選ばれた美咲は、北海道選考で選ばれないと最終選考に進めないのである。
しかし厳しいのは覚悟の上。美咲は、今、ようやく自分の意思で自らの運命を切り開こうとしていた。




