第四話「恋子さんの過去」
1.教室・朝
生徒会長「本当だー」
会長は恋子さんの顎に手を当てて、ジョリジョリと感触を確かめる。
田中「僕は彼女が欲しかったんだ。彼氏じゃない」
生徒会長「まぁ、たまに女でも髭が生える人がいるらしいから……」
恋子「そうですよね。髭が生えたくらいで嫌うなんておかしいですよね」
恋子「そもそも僕はカケル君に求められて出てきたんですから」
田中「だったら女らしくしろよ。あんた心が男じゃないか」
恋子「男ってなんですか?」
田中「はぁ?」
恋子「僕は僕です。カケル君の定義で固められた仕草をしても、それは作られた恋子になりますよ。嘘の僕で嬉しいんですか?」
田中「もう少し女らしい子が良いんだ」
田中「スカートを可愛らしく穿いて、時々はにかんだり……普通彼女だったら、彼氏の望む様にするんじゃないの?」
恋子「そうなんですか?」
隣にいる会長に聞く。
生徒会長「さぁ……私には彼氏がいた事はないから」
田中たちのやりとりを遠くから見ている影。
それに気づいた恋子は一目散に走り始め、影の前に立つ。
サングラスとマスクをした伊藤先生がいた。
恋子さんは先生をジッと見る。
サングラスの向こうにある瞳を見続ける。
恋子「まもる君?」
伊藤先生は、その言葉にギョッとして一目散にその場から立ち去る。追いかける恋子さん。
伊藤先生は全力疾走。恋子さん軽やかに追いかける。
伊藤先生は全力疾走。恋子さん軽やかに追いかける。
2.学校・校舎裏
○ 『ゼイゼイ』と四つん這いになって、激しく息切れをしている伊藤先生。全く息切れをしていない恋子さん。
恋子「ねぇ、まもる君でしょ? まもる君だよね」
伊藤先生「い、いや。その……」
後から追いかけて来た田中と会長。
*
田中&生徒会長「えっ、恋子さんの元彼!?」
恋子「はい、間違いありません」
生徒会長「そういえば伊藤先生って、この学校の卒業生でしたよね」
田中「えっ?」「――っと言うことは、先生もあの儀式を?」
伊藤先生を見ると、顔が真っ赤になっている。
時が止まる。
恋子「僕は今まで、この学校に在籍していた数多くの男子生徒たちとお付き合いして来ました」
生徒会長「そんなに多いの?」
恋子「はい。記憶にある中で総勢340人」
田中「めちゃくちゃ多いじゃないか!」
生徒会長「ちょっとした風俗嬢ね」
生徒会長「そういえば、この学校は創立が古く、明治時代に作られたと聞いた事があるわ」
恋子「いいえ、原型は江戸時代の寺子屋にまで遡ります」
田中「そんなに古いの?」
恋子「はい。大体200年ほど昔からになります」
伊藤先生は黙って聞いている。
生徒会長「200年で340人って、多いのか少ないのか分からないわ」
田中「命懸けって事を考えれば多いんじゃないですか?」
生徒会長「そうね。でも、そこまでして彼女が欲しいものなのかしら?」
恋子「男って言うものは、悲しい生き物なのですよ」
生徒会長「あなたが言うと妙に説得力があるわね」
田中「でも、せっかく命懸けで呼んだのに、現実がこうだとガッカリしたんじゃないかな?」
恋子「最初はそうでした。しかし皆、例外なく僕を愛してくれました」
生徒会長「皆って、340人全員?」
恋子「はい。340人すべての男子生徒が僕を愛してくれました」
恋子「(大声)特に340人目の『まもる君』は激しかったです!」
伊藤先生「(さらに大声)やめてくれー!」
先生は頭を抱えて、必死で懇願する。
田中と会長は哀れんだ目つきで伊藤先生を見る。
田中「先生……」「いくら彼女が欲しいと言っても――」
田中「これを抱いたのですか?」
髭剃りで顎を剃っている恋子さんを指さす。
恋子「はい。メチャクチャ抱かれました!」
伊藤先生「そ、そんな哀れんだ目で見ないでくれ。お、俺には既に愛する妻や子供がいるんだ」
尚も田中と会長は哀れんだ目で伊藤先生を見る。
伊藤先生「(大声)やめろー!!」
伊藤先生「それに、俺が恋子と付き合った時は、恋子はもう少しナヨナヨして女らしかったんだ。髭だって生えてなかった」
田中と会長は、哀れんだ目で先生を見続けていた。
伊藤先生「ほ、本当だよ。そうだよな、恋子」
恋子「よく覚えていませんねー。何しろ10年前の事ですし」
『ジージー』と髭を剃りながら答える。
3.学校・廊下
○ 田中と生徒会長、恋子さん、並んで歩いている。
生徒会長「びっくりしたわ。まさか、元彼がこんな近くにいたなんてね」
田中「――ですね」
生徒会長「それで、伊藤先生とはどうして別れたの?」
恋子「よく覚えていませんが、おそらく僕が振られたのだろうと思います。僕を抱き始めて、しばらくしたら人間の彼女を作っていましたから」
生徒会長「別れる時、何もなかったの? お礼とかお詫びとか……」
恋子「何も……そもそも僕はそういう役割ですから」
恋子「人間の彼女が出来れば用済みです」
生徒会長「なんだか酷い話ね」
田中「10年前って言ってたけど、10年間何してたの?」
恋子「別に……普通にいましたよ。みんな気づかないだけで……」
生徒会長「寂しくなかった?」
恋子「仕方ありません」
田中「10年間、誰も儀式を行わなかったのかい?」
恋子「いいえ。二人ばかりいました」
恋子「一人は心の底から僕を欲していなかったので失敗。もう一人は、打ち所が悪くて亡くなりました。」
生徒会長「そんな……」
恋子「昔は毎年のように挑戦者がいましたけど、最近は彼女を欲しがる人もめっきり少なくなりました」
恋子「もしかしたら、僕を必要とする時代が終わろうとしているのかもしれません」
恋子「だから、こうして髭まで生えてきたりなんかして――そのうち、チンコが生えてくるんじゃないかと思うようになりました」
生徒会長「……竹の子じゃないんだから」
会長と話す恋子さんを憐みの表情で見つめる田中。
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