第二話「恋子さん騒動」
1.学校・校門(夜)
○ 日は既に暮れている。生徒会長と田中、恋子が校門前で立っている。周りに生徒はいない。
生徒会長「とにかく今日は遅いし、これからの事は明日決めましょう」
田中「やっぱり校内で起こった事だから、先生に知らせた方が良いですかね」
生徒会長「そうね」
田中は会長に顔を近づけ、恋子さんを横目に見ながら小声で
田中「彼女は本当に、あの『恋子さん』なんですかね」
生徒会長「それを含めて、明日色々と考えましょう」
二人は「それじゃあ」と言いながら別れた。
2.帰り道
田中の後を恋子さんがついて来る。
田中の後を恋子さんがついて来る。
田中の後を恋子さんがついて来る。
田中「ちょっと!」
振り返る。
田中「なんでついて来るのさ」
恋子「あんな所、一人で居たくないよ。夜の学校は怖いじゃないか」
田中「はぁ?」「あんた学校に住み着いている妖怪なんだろ。なに言ってんだ?」
恋子「酷い、妖怪だなんて。たとえ妖怪でも僕は女の子なんだよ。あんな暗い、寂しい所に一人でなんて残酷だよ。それに、そもそも君が僕を呼んだんじゃないか!」
そう言いながらシクシク泣く。
頭を抱える田中。
3.自宅・玄関
田中「ただいまー」
母親が出てくる。
母親「あら、お友達?」
田中「今夜一晩泊めて欲しいんだ」
4.自宅・キッチン
○ テーブルの上に色とりどりの料理が並んでいる。向かい合って座っている田中と恋子。
恋子「僕、こんな賑やかな中で食事をするなんて久しぶりだ」
食後。
流し台で食器を洗う母親。
母親「(振り向きながら)じゃあ、カケルちゃん――」
○ 場面変わって脱衣所。
母親「お風呂入っちゃいなさい」
田中「えっ?」
田中、恋子さんを見る。
母親はキッチンへ戻っていく。
田中は廊下に顔を出し、
田中「か、母さん困るよ」
母親「(振り返りながら)後がつかえてるんだから、さっさと入りなさい」
田中、恋子と目が合う。
田中「(困惑の表情をしながら)えーっと……じゃあ君が先に入って」
そう言い、少し照れながら視線を逸らす。
恋子「別に、一緒に入れば良いじゃないか」
田中「いや、それは流石に……」
そう言いながら振り返ると、恋子さんはバスタオルを腰に巻き、拳を添えて仁王立ちをしている。
田中は恋子さんの胸に手を添える。男の胸板の感触。
ガックリする田中。
5.自宅・浴室
田中「生まれて初めて女の子と一緒にお風呂に入ったのに――」
恋子さんに背中を洗われる。
田中「あんまり嬉しくない……」
シクシクと涙を流す田中。
6.自宅・寝室
田中「生まれて初めて女の子と一緒の部屋に寝るのに――」
ベッドに田中。隣で床に布団を敷いて恋子さんが寝ている。
田中「あんまり嬉しくない……」
涙を流す田中。
7.学校・職員室(朝)
「恋子さん?」
机に座っている担任の男性教師が振り向く。
目の前に田中と生徒会長が立っている。
担任「そりゃあ、俺もこの学校は長いから噂は聞いた事がある。でも、見た事はないな」
生徒会長「これが、その恋子さんです」
言いながら恋子さんを目の前に出す。
恋子さんを見る担任。
担任「あれ? 恋子さんって女じゃなかったっけ? それも絶世の美少女」
生徒会長「現実はこんなものらしいです」
恋子「美少女とか、こんなものとか――。何だか僕、傷つくんですけど……」
担任は恋子さんを繁々と見る。
担任「君は何年何組なんだ? 本当の名前は?」
恋子さんに詰問する。
さらに会長に向かって
担任「まったく、恋子さんなどと――」
担任「生徒会長の立場でくだらない遊びなんてするんじゃない!」
生徒会長「あっ、やっぱりそう思いますよね。私たちも、この学校の生徒の誰かだと思ってるんですよ。それで先生方に調べて欲しいんです」
生徒会長「――それに、言っておきますけど」
生徒会長「彼は女の子ですよ」
8.学校・保健室
○ 女性の保健医がカーテンを開けて出てくる。
保健医「はい。確かに女性です」
担任「間違いではないんですか?」
保健医「作り物ではなく、本物の女性器ですね。病院で徹底的に調べれば確実ですが……」
9.学校・職員室
○ 先生たちが集まってガヤガヤ話をしている。
「知りませんね」「昔の名簿にも載っていませんよ」
ある教師が恋子さんに向かって
教師A「君は、どこの学校の生徒なんだ? はっきり言いたまえ」
恋子「だから何度も恋子ですって言ってるでしょ。この学校に住み着いていると言われる伝説の妖怪……なのかオバケなのか自分でもわかりませんけど……」
教師B「いい加減にしないと警察呼ぶわよ」
恋子「なんで信じてくれないのかなー」
生徒会長「いや、無理でしょ。いきなり出てきて伝説の『恋子さん』と言われたって。何か証拠を見せないと」
恋子「そうですねぇ」
恋子は顎に手を添えて考える。
恋子「これではどうでしょうか?」
「うわっ!」
一同、床に体が半分埋まっている恋子さんを見て驚く。
恋子「この学校のものならば、体を突き抜けることが出来ます」
言いながら、クラス名簿を体の中に埋めたり出したりを繰り返す。
しばらくの静寂。
教師B「……そ、そう手品よ。きっと」
教師C「なんだ手品か、ビックリしたなー」
恋子「往生際の悪い人たちですね」
尚も疑いの目を向ける教師たちを指差しながら、田中と会長を見る恋子さん。
恋子「昔の人たちは簡単に信じたんだけどなー」「文明が進むと人間は面白みが無くなるんですね」
✳︎
「まぁまぁ、良いではないですか」
恰幅の良い初老の男性が入ってくる。
教師たち「校長!」
全員の視線が校長に向けられる。
校長「話は聞きました」
校長「彼……彼女かな? 本当に伝説の恋子さんなのか確証出来ませんが、しばらく様子を見ましょう」
教師A「しかし、校長……」
校長「みなさんの気持ちはわかります」
校長「しかし、仮に本物の恋子さんだったとしたら、粗末に扱うと祟りがあると言われていますからね。私は学校を預かる身として校内の人々を危険な目に合わせる事は出来ないのですよ」
校長「もちろん何か起こりそうになったなら、その時に警察などの外部の協力を求めても遅くはないでしょう」
その場の教師たちは各々顔を見合わせる。
校長「あまり大事にしたくないのは、共通の考えだと思うのですが……」
校長「それとも、みなさんが祟りを引き受けてくれますかな」
教師たちの顔色が変わる。
教師C「校長が、そこまで言うのなら……」
渋々承知した。
担任「しかし、仮に恋子さんだと仮定して、彼女を呼ぶのはかなり危険な儀式をしなければならなかったはずだが」
教師B「そうなんですか?」
担任「ええ、女を心の底から欲しながら、階段を転げ落ちるという命懸けの行為を……」
教師A「誰が呼んだんだ?」
生徒会長「彼です」
田中を紹介する。
【どんだけ女に飢えてるんだよ】と言う視線が田中に向けられる。
田中「あっ、いや。その……」
居た堪れなくなる。
そうした教室の中で、少し離れた位置から一人の教師が恋子さんを複雑な表情で見つめていた。
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