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 列に並ぶ前には知り合いがいないかきっちり確認していた鳴海(なるみ)も、カップルのフリという苦肉の決断の末にパフェを手に入れることに成功し完全に気が緩んでいたのだろう。


 もちろん俺だって、ただの一欠片も用心することさえなく歩道へと足を踏み出した瞬間の出来事だった。

 

 俺たちを訝しそうに波瑠(はる)が見つめ、鳴海は瞬きを忘れてしまったみたいに大きく目を見開いたまま硬直している。


 パフェを求める店舗前の行列はちっとも減っている様子もなく、本来であれば喧騒でごった返しているはずだった。

 

 しかし今この瞬間の、この空間だけが時空から取り残されたように音を失っていた。沈黙のせいで耳が痛いほどだった。


「――え、ちょっと、波瑠ちん……? 綿摘(わたつみ)くんと二人で何してるの……?」

 そんな痛みを伴う沈黙を破ったのは鳴海だった。


 状況的に取り繕わなければならないことや隠さなければならないことなど、いろいろある中で一番最初に切り出したのがそれだった。


「私は、明日の地域交流会のための買い出しに――」

(みなと)さんは僕が誘ったんだよ。地域交流会は生徒会主催の行事だからね。そこで振る舞う料理の食材を買うために来たんだよ」

 波瑠の言葉尻を受け取って綿摘が補足する。


 なにも一触即発というわけではないが、あまり穏やかではない雰囲気を感じとってだろう。


「え、でもここに来たってことは……」

「通りかかっただけよ。次は雑貨を買いに向かうところだったの」

 波瑠が通りの向こうを指差す。


 確かにそちらには大型雑貨店があった。それに綿摘はスーパーのロゴが印刷されたレジ袋を持っている。食材の買い出しというのは嘘ではない。


 ああ、思い出した。地域交流会があると波瑠は確かに言っていた。

 そして買い出しにも誘ってきていた。本番は明日だったのか。

 参加する気がなかったせいで完全に忘れていた。


 波瑠と綿摘からの淀みない説明を受けた鳴海は黙り込んでしまう。


 その場凌ぎでもなければ言い訳めいた苦しさもない順当な説明を前に納得せざるを得なかったのだろう。


 しかし、こちらが聞き出したかったことを聞けて、それでおしまいにはならない。次は相手のターンだ。


「それはそうと……、鳴海さんと仁井谷(にいや)くんって、やっぱり()()だったんだね」

 綿摘と波瑠がスイーツショップにやって来たと勘繰ったのと同じように、そのスイーツショップから並んで出て来た俺と鳴海に同じ勘繰りを返してくるのは当然としか言いようがない。


 しかも綿摘の含みを持たせた口調は、言うまでもなく俺と鳴海の関係を暗にほのめかしていた。


「――っ!? ち、ちがっ、こ、これは、違うのっ!」

「でもそれって、カップル限定パフェだよね」

 綿摘の含みにやっと気が付き、いまさら自分の置かれている状況を把握して言葉に詰まった鳴海は、しっかりとカップル限定パフェを手にしているのだ。


「確かハグして見せる、だったかな? 店員の前でカップル認定してもらわないと手に入らない特別なパフェだよね。SNSで見たことあるよ。けど安心してよ。誰にも言わないからさ」

 綿摘が苦笑を返しながら限定パフェを指差す。


 誰にも言わないと持ちかけてくるのは、これまでは勘繰りでしかなかった予想が確証に変わったという意味だ。


 そして綿摘が誰にも言わないと言うのであれば本当に誰にも口外はしないだろう。


 だが鳴海にしてみれば最も見られたくない相手に余計な誤解をされている状況なのだ。






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