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見事にミッションを達成しカップル割引の限定パフェを受け取った鳴海は、なぜだか不服そうに唇を尖らせて上目遣いで睨んできた。
不本意極まりない共同作業で、ついに念願のパフェが手に入ったんだからせめてもっと嬉しそうにしろよ……。
「はあ……、とんだ目に遭ったな……」
店内の飲食スペースに移動し途方もない疲労感から倒れ込むように椅子の背もたれに身体を預ける。
とんだ目に遭った原因の大半は鳴海のせいなのだが嫌味を口にする元気もなかった。
隣の席に腰掛けた鳴海がテーブルにパフェを置いたので、一口食べようと突き立てられたスプーンに手を伸ばすと、
「ちょ、なにしてんのよっ! 待てっ!!」
まるで犬でも躾けるかのようにステイを命じられ手の甲を叩かれた。
「……なんだよ、食べるために買ったんだろ?」
「まず撮るに決まってるでしょ! 食べかけの写真なんてSNSに上げらんないのよ!」
息を吹き返したようにぷりぷり文句を言いながらスマホを取り出し、テーブルに置いたパフェを微妙に角度を変えながらピコンピコンと撮影し始める。
さっぱり理解できずに周りを見渡せば、店内のカップルたちはパフェを手にして自撮りしたり、壁面のショップロゴを背景に撮っていたりと異様にしか見えない光景が広がっていた。
負けじとではないのだろうが、鳴海も真剣な眼差しでパフェを睨み付けて撮影しては確認するを何度も繰り返している。勉強もそれくらい真剣にやればいいだろうに。
「……なあ、撮ってやろうか?」
どう撮れれば気が済むのかなんて知りようもないが、手持ち無沙汰だった俺はまったく他意などなく申し出てみると、
「ほんと? じゃ、お願い」
あっさりと即答するなりパフェを頬に寄せて、にっこりと人好きのする愛らしい笑顔を浮かべて見せた。
撮られることに慣れきった、完成された笑顔とポーズに圧倒されてしまった。
確かに撮ってやろうかとは言ったが、俺はパフェを撮るのを手伝ってやろうかという意味で口にしたのだ。
それなのに写り方を完璧に理解して自らが最も可愛く見える角度とポーズで笑顔を向けられてしまい、余計なちゃちゃなど入れずに黙って撮るしかなくなった。
カシャっと撮影ボタンを押したと同時にスマホを奪い取られ、
「なによこれ、センスないわね……。もう少し寄りで撮ってよ。あ、こっちの方が明るいからこっちで撮って、ほらほらっ」
せっかく撮った写真を貶しながら、俺の手を引き明るい壁際で再びポーズを決める。
まるで固定されたマネキンを移動させたかのように寸分違わぬポーズを取ってみせられ面食らったが、求められるがままさらに5、6枚の写真を撮る羽目になった。
「これ! これが一番かわいく写ってる。これ送ってよ」
俺の目には背景以外にどこがどう違うのか全くわからない画像データの中から1枚を指差して、鳴海は上機嫌で自分のスマホをかざしてみせる。
言われたとおりにデータを送信して表示されたままの写真を改めて眺める。
幼さをわずかに残すものの満面の笑みを浮かべる鳴海は、皮肉でもなんでもなく素直にかわいかった。
学年一、二を争う美少女の面目躍如といったところだろう。写真だとこんなにかわいいのに実物はどうして……、と悔し紛れに思いはしたがもちろん口に出したりはしない。
せっかく特売の鶏肉の件を忘れているのだから。あと、鳴海に送信した以外の写真はこのまま残しておこう。わざわざ消去しなくてもデータ容量はたっぷりあるのだから。
満足のいく1枚が撮れてやっと気が済んだのだろう、お待ちかねのパフェを口に運んで、
「んんんんん~っ!」
震えるみたいな言葉にならない喜びを噛み締めてみせた。
撮られる意識で作られた笑顔も悪くはないが、今日一番の純粋に緩みきった笑顔を浮かべる鳴海にうっかり見蕩れてしまった。
「……なに? なに見てんのよ? 一口欲しいの?」
「い、いや、別にいい……。ていうか、それってカップル限定のパフェなんだよな? SNSに上げても平気なのか?」
「あっ……、うわっ、そうだ……。え、せっかく撮ったのに上げらんないじゃん……」
指摘されて初めて気が付いたのだろう大きな瞳を瞬かせてがっくりと項垂れてしまう。
「迂闊にもほどがあるだろ。ネットに晒す前で良かったじゃねえか」
「そうだわ! 通常のパフェもう一個買いましょ!」
「バカなことを言うな。そんなパフェ二個も食ったら太るぞ?」
「うっ……、ちょっと考えさせてっ」
「なにを考える必要があるんだよ……?」
「どうしよう、わたしの中の悪魔は気にせず食べちゃえって囁いてくるし、天使の方は我慢するのは身体に悪いわって言ってるの……!」
「どっちにも甘やかされてんじゃねえか。さっさと帰るぞ」
「ちょっと待ちなさいよ! せめて検討くらいしてくれても良くないっ!?」
食い下がる鳴海を無視して席を立つ。あんな高いパフェ二個も買えるわけないだろ。こっちは背中を抓られて手負いなんだぞ。
まさに踏んだり蹴ったりだ。予定より時間がかかってしまったが、早く帰って週末にしか出来ない家事をひとつでも多く済ませたいのだ。
これ以上はさすがに何事もなく、平穏無事に一日が終わってくれるだろうと何の保証もなく漠然と思い浮かべていた。
――けれど、そうやって気を抜いた時にこそ真の問題は牙を剥いてくるのだ。
パフェを手にした鳴海がスイーツショップから通りに面した歩道に足を踏み出したところで、
「あれ、鳴海さん?」
「え、幸帆ちゃん……、と、仁井さん……?」
不意に届けられた声に顔を上げ、いきなり頭を殴り付けられたような衝撃が突き抜けた。
スイーツショップ前の歩道に、綿摘と波瑠が並んで立っていた。
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