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「だ、だからってわざわざ畳まなくたって良いでしょ!? わたしの下着だけは自分でやるって言ったじゃない!」
「下着だけじゃなく自分のもの全部やってくれてもいいんだぞ?」
「うっさい! だから、いつまで触ってんのよ!?」
「ついでだし良かれと思ってやってるんだ。そもそも洗濯するとき見てんだし、お前の無様な下着姿だってもう目にしたんだ。今さらこんなパンツの1枚や2枚、気にもならねえよ」
「わたしが気にするのよ! 嫌な記憶を思い出させないで! あと無様ってどういうこと!?」
「忘れたくても忘れられねえよ。置き時計握りしめてゴリラみたいに吠えながら襲いかかってくるとか、俺じゃなかったらトラウマになってるぞ?」
この男は下着姿の女子を目の前にして、その恰好より表情の方が印象に残っているらしい。
それで困ることなんてないけれど、それはそれでなぜだか悔しさを覚えて歯噛みしてしまう。
「って誰がゴリラよ! そこまでじゃなかったでしょ!? なに無視してんのよ、だから畳まないで!? さっさと返してよ変態っ!!」
この間も洗濯物を畳む手は止まることはなく、わたしは悲鳴じみた怒声を上げながら真潮の手からパンツをふんだくる。
「ああ、ついでにこれもお前のな」
ひょいっと掴んで、ついでとばかりにコンパクトに畳まれたブラを手渡してくる。
「だからなんで畳んでんのよ!?」
きちんとストラップをカップに折り込んで収めて、型崩れしないように丁寧に畳まれている様に眩暈がしてしまう。
何が気に入らないかと言えば、わたしがするよりもよっぽど綺麗に畳まれていることだ。わたし自身よりも下着の方が恭しく扱われているみたいで釈然としない。
「ブラはきちんと扱わないと傷むからな。長持ちした方がいいだろ? どうせもうサイズなんか変わりっこないだろうから――いってぇっ!?」
聞き捨てならない失礼なことを言い終わる前にローキックを繰り出す。
ちょうど正座していたおかげで思いっきり真潮の背中にクリーンヒットした。
「うっさいのよっ!! だいたいどうして男のくせにブラの洗い方から畳み方までそんな詳しく知ってるのよ! 物知りで済ますには変態過ぎるでしょっ!?」
「別に、前にもやってたことだからな」
声を荒げるわたしとは対照的に、真潮は改めて洗濯物を畳み始めながらさらりと答えた。
その何気ないたった一言でわたしはいともたやすく言葉に詰まってしまう。
手渡されたブラに視線を落とし、スーパーからの帰り道で話してくれた妹がいたという話を思い出す。
確かにそれならば手慣れていても不思議はないけれど、すぐに妙な違和感を覚えた。
たしか小学校に上がる前に離ればなれになったと言っていたはずだ。
小学校に上がる前の妹がブラをしていたのだろうか?
自分の胸にそっと手を当てて自分が小学校に上がる前の頃を思い出してみる。そんな確認などするまでもなく、わたしは小学校前からブラなどしていなかった。
そんな子供の頃から早々に身に付ける子なんているのだろうか? わたしの発育がほんのちょっぴり緩やかだっただけで、それくらいから身に付けていても別段おかしなことではないのだろうか?
いや、いくらなんでもまさかそんなはずはない。ないに決まっている。
なにより真潮は「前にもやってた」と言っただけだ。妹のブラをやっていたとは言っていない。
もしかすると母親のかもしれない。そっちの可能性の方がはるかに現実味がある。
家政婦さんに家事全般をこなしてもらうことが当たり前だったわたしには知りようもないことだったが、真潮は小学校に上がる前の幼い頃から炊事洗濯をお手伝いしていたのかもしれない。感心してしまうくらいの手際の良さを見ればそれも頷ける。
ただ、いずれにしろ問い質すことが躊躇われることに変わりはなかった。
どうしても、妹さんの話題を出すと直面してしまう事実がある。その妹さんがもうこの世にいない事実だ。
真潮にとってその傷がすでにかさぶたになっているのかどうかはわからない。
ともすれば今もまだ鮮やかな血を流し続けているのかもしれない。
そんな触れること自体が躊躇われる問いかけなど、いったいどうしたら出来るっていうのだろう。
「――と、とにかく! わたしの下着は自分でやるから! わかった!?」
躊躇いや逡巡を引っ込めて、そんなふてぶてしい態度を取るより他ない。
本来であれば、自分のデリケートな部分を覆い隠す下着を不用意にベタベタ触れられたことにもっと憤慨しても良いはずなのだ。
それなのに真潮の背中から見え隠れする過去の陰りのような、わたしには推し量れない何かに怯んでしまうのだ。
「わかったわかった。おっと、大事なもの渡すの忘れてた、ほらっ」
明らかに適当な相づちを打って膝元に置いていたものを掴んで手渡してくる。
「ブラは洗濯ネットにそのまま放り込まないできちんとパッド外せって言っただろ? こんな分厚いパッドだと洗剤が残っ――いってぇっ!? いてぇっ! おい、やめろっ!?」
手渡されたパッドを握りしめて真潮の背中を踏み抜く勢いで蹴りまくる。
アンタの繊細な事情にうっかり立ち入らないようにこっちがどれだけ気を遣ってると思ってるのよ!
こっちが必死でそんな素振りさえ見せないように気を張ってるのに、ズケズケとデリカシーのないことばっかり口にして!
ブラと一緒に黙って渡せば良いだろうに、わざわざパッドだけ後から渡してきて!
そのうえ言うに事欠いて分厚いだと!? 形を良く見せるための補強だってのに、わたしが大きさを偽っているみたいな言い方して!!
蹴って蹴って蹴りまくらないと気が済まない。
わたしが気遣った分だけは、黙っておとなしく蹴られてろ!
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