懐かしい
なんでこんな時間に、こんなところにいるんだ。心の中で優也に対して怒りを向けながら、私は走る。
走ってまで全力で追いかけてくるようには思えなかったけれど、走らずにはいられなかった。
行き先を変えたから、今私が走っているのは知らない道だ。
ここがどこかだとか、これじゃあの丘に戻れないだとか、そんなことが一瞬だけ頭によぎったけれど、そんな場合じゃないんだと蹴り飛ばす。
嫌、嫌だ。 誰かと一緒にいるなんて、もう嫌なんだ。
最初に頼ったのは私だ。でも、それはあの時の私が馬鹿だっただけで、別に今も求めているかと言わればそうでもない。だからこそやめてほしい。
自分勝手とでもなんでも、好きに言えばいい。嫌なものは嫌。
そんな事を考えながら走り続けてしばらく、私は、流石にそろそろ大丈夫だろうと思って立ち止まる。
追ってきている感じはなかった。分かっていたけれど、これほど安堵することはなかなかない。
それにしても、疲れたな。こんなに走るだなんて思ってもいなかった。
かといって、立ち止まったままというわけにもいかなかったため、ゆったりと歩き始める。
ぼんやりと周りの様子を眺めながらも、頭の中はやっぱり忙しかった。
やっぱり丘には帰れないかもな。ここがどこかすらわからないし。いつ、あそこに帰れるだろうか……。
せめてここがどういう場所かわかればいいと思っている。
全く知らないところだったら詰みだけど、もしかしたらわかる、なんて可能性も捨てきれない。
そもそも、ここはあんまりあの丘から離れていないはず。確かに走ってはいたけれど、そう遠くに来れるほど走ったようには自分でも思えない。
だとしたら、もしかしたらここは“あそこ”なんじゃないか、なんて生ぬるい希望が私の心を支配している。
とりあえず、人気のありそうな明るい場所へ行ってみよう。人のいないところで何かに巻き込まれるのはもうごめんだ。
そう決断して周りを見渡してみたものの、これといって明るい場所はない。
夜でも明るい居酒屋の集まり、みたいなのはここらにはないのだろうか。まあ、あそこは人がいたところで治安が悪いから、あまり行きたくはないけれど。
それでも諦めずに探し続けていると、大きな建物が見える。ショッピングモールだ。
ショッピングモールがあるっていうことは、意外と発展しているのでは、という読みで私はショッピングモールのあたりへ向かう。
少しずつ近づいてくると、ショッピングモールの輪郭が見えてくる。普通に四角ではあるのだけれど、全体の形は少し変わった形をしている。
かなり複雑だ。おそらく、他のショッピングモールでもここまで複雑ではないと思うほど。
それと同時に、何故か懐かしいと感じ始める。前にここに来たことでもあったのかもしれない、とも思ったが、私が行ったことのあるショッピングモールはひとつだけで、そのショッピングモールはここまでは大きくなかった。
じゃあ、本当になんでだろう、と考えるが、やっぱり理由はわからない。仕方ないから、考えるのを諦める。
変なことを考えているうちに、私はショッピングモールの間近まで来ていた。
ショッピングモールは、(時間が時間だから当たり前だが)しまっていて、人がいなかった。少し寂しげにも見える。
その一方で、まわりは他の場所より栄えている。それをみて思わず心のなかでガッツポーズをする。読みが当たって本当に良かった。
ショッピングモールに用があるわけではないので、周りを見にいくことにする。
本当に周りは栄えている。飲食店やカラオケ、パチンコ屋──ラインナップ的に、なんとなく駅近くな気がする。だとしたら、この町の名前がわかるかも、なんて、くだらない希望を重ねた。
そのままぶらぶらと歩いていれば、また大きな建物が目に入る。
一瞬、駅かと思って期待をしたが、よくよくそれを見てみれば病院だった。
なんだ、病院か、なんてあからさまに落ち込む。変な期待を持った私が悪いけれど、視線も一緒に逸らしてやる。
私は病院が嫌いだ。“あの子”に深く関わるのが病院だから。私自体が病院になにかされたわけじゃないけど嫌いなものは嫌い。
それこそ、視界に映った病院は、彼女に関わった病院と似ている。
そう、似ている。
……似て、?
ばっと、音がなるような勢いで病院を見返す。いわゆる二度見だ。
似ている、どころじゃない。ちょっと違うところはあるかもしれないけれど、同じだ。
彼女と深い関わりがある、要は、彼女が通っていたあの忌々しき病院に。
体が火照っていく感じがした。あの時の感情が、怒りが、蘇る。
駅だとか、町名だとか考えていたけれど、もうどうでもいい。これがあるっていうことで、ここがどこかどうかよく分かった。
じゃあどうするかって、本当なら変える方法を探し始めていたところだけど、そういうわけにもいかなくなった。
なんでって、それは、勿論決まっている。
──あの子が呼んでいる。
脳が、足が、体の中の全てがあそこに行くべきだと叫んだ。
それに呼応して、私はゆっくりとあの病院へと足を進めていく。
あの、懐かしくて、忌々しい場所に。




