絶体絶命?
息が止まった。詰まる、とかじゃなくて、止まった。
心臓の音がすぐそこで聞こえる。とにかく、うるさい。
人がいる。
ベットに横たわっていて、ちゃんと認識はできない。でも、確かにそこに、人がいる。
寝ているのだろうか。いや、わからない。確証はないのだから、安心するには早い。
だとしても、起きていたらもう終わりなのでは?
頭が一気にいろいろなことを処理しようとして、またも私の脳は疑問で埋まる。
起きていたとしたら、なにか言い訳をしないと。
でも、今考えただけの言い訳なんて、あくびが出るほど、つまらないものにしかならないだろう。要は、すぐにバレる。
寝ている可能性にかけて逃げる?
いやでも、起きていたら──。
「んん……」
その横たわる人物から、そんな声が漏れ出ているのが聞こえた。さらにその人物は、もぞもぞと布団の中で動き出す。
私は思わず体を固まらせる。まずい、と直感したから。
が、そこでやっと気づく。この人が、「お前は誰だ!」みたいなことを言わなかったことに。
ということは、寝ている?
確かにに今のは、寝返りをうつときのかすかなつぶやきのように感じる。寝ている可能性は高いだろう。
寝ていなかったとしても、私の存在は認識できていなさそうだ。
それならば。
私はそっと扉を閉め、音を立てずにゆっくりと、その場を離れる。
バレていない、バレていないのだ。
それならば、今のうちに逃げるしかない。
でも、脱出経路は、なんて考えたところで、私の視界にとあるものが映る。
「あ……」
思わず、声が漏れる。それくらいに、今まで気づかなかったのが不思議なものだった。
窓、それは確かに外から中に入る時に使ったものだ。
なぜなら鍵がかかっていなかったから。玄関には鍵がかかっているけど、窓はかかっていなくて、侵入できちゃったから。
でも、鍵は内側からかけるもので。
私は急いで、されど音を立てないように、慎重に、玄関へ歩みを進めた。
近づく度に、頭は冷静になっていく。そうだよ、簡単なことだったじゃないか。
内側からなら、玄関の扉から出ることなんて簡単だ。そのあと、外から鍵をかけることは私じゃできないけれど、まだ誤魔化しが効く範囲。
変なリスクを取って扉から出るよりかは、ずっといい。
玄関の扉の前まで来たところで、私は扉についている鍵に触れた。
これもまた、音を立てないように慎重に鍵を回す。そのおかげで、完全な無音、とまでは流石に無理だったけれど、鍵を開ける音をとても小さくすることができた。
そのまま、私は扉を開く。
外の世界が視界いっぱいに広がって、キラキラと輝くように見える。時間が時間だから、太陽なんて出てるわけなのに。
思わず早足になりながら、外に出た。それと同時に扉から手を離してしまう。
まずい、大きな音が出てしまう、と直感して、慌てて扉に手をかけ、ゆっくりと閉めた。
カチャン
扉の閉まる音が、静かな空気の中で響き渡る。
思っていたよりも大きかったものだから、少しびっくりしたけれど、ここで立ち止まっている方が危ないので、急いでその場から離れる。
早足で大地を駆け、あの場所へと向かう。
良かった、なんとかなった。どうにか、できたんだ。
そう思っていく度に、嬉しさがジーンと染み渡る。
まだ、警察のお世話にはなりたくない。
もう少しだけ、生きていたいのだ。別に、警察に捕まったところで絶対に死ぬのかと言われればそんなことはないのだけれど。
そんな感情があるからこそ、その染み渡る嬉しさがなんだかむず痒くて仕方がない。
これは、『快感』、とよんでもいいのだろうか。
そんな事を考えながらも、私の足は無我夢中であの場所へと駆けていた。
駆けていた、はずだった。
何も意識していない。それなのに、私の足は勝手に立ち止まった。
一瞬、それがなぜなのか、わからなかった。それくらいに、私が周りを気にしていなかったからだと思う。
でも、頭のどこかでは分かっていた。今、自分が誰かとすれ違った。ことに。
恐る恐る、振り返る。なんで、恐れているのかはわからなかったけれど、とにかく怖かったのだ。
だって、自分がわざわざ立ち止まって振り返っているのだから。
こんなところ、こんな時間に出歩く人なんて、そうそういないわけだし、好奇心が湧いただけなのかもしれない。
でも、それでも、恐れているのは、なんとなく、知っている気がしたのだ。
何がって、そりゃあ、簡単なことでしょう。
すれ違ったその人のことを、知っている気がしたのだ。
私が振り返ってその人を見れば、その人は私に対して背を向けて歩いていた。
でも、その足はすぐに止まって、同じように振り返った。
そして、私と視線がぶつかり合う。
「……あ」
小さく、相手が何かを漏らす。それが私は嫌なほどはっきり聞こえた。
視線を逸らした。
そして、気づけばもう一度駆け出していた。
「ちょ、待っ……!」
なにか言っていたけれど、それも無視。
私はあの場所へ向かうのをやめて、木の多い林の方へと足を運ぶ。
なんで、なんでなんでなんでなんで──。
なんで、こんなところに、優也がいるんだ。




