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心が忙しい

 なんだろう、ものすごく、不思議な感じがする。

 何が不思議なのかも、よくわからないけれど、とにかく不思議。いや、嘘ついた。何が不思議なのかはわかってる。


「私、犯罪に慣れちゃったのかな」


 現在進行系で、私はそんなことを考えている。

 結局私は、またこの家に来て堂々部屋の真ん中に立っていた。


 いつも座ってぼーっとしているところから、少しだけ離れて、急な斜面をできるだけ怪我の無いよう慎重に降りて、それから前を見る。

 たったこれだけ。これだけでここにたどり着くことができる。

 もしかしたら誰かいるんじゃないか、ここを離れなくちゃいけなくなるんじゃないかなんて考えたこともあったけど、今日もまた、この家には人がいなかった。


 だから普通に入って、堂々と部屋のど真ん中に立っている。

 これから充電器を探して、このスマホを充電したい。なにかに使えるとは限らないけど。


 けれども、私は今すごく不思議な感じがしていた。

 理由はさっき行った通り、犯罪に慣れてきている気がするから。なんで今更そんな事を気にしているのかはわからないけど、とにかく不思議。


 他人の家に入ってるのに、何も感じない。

 これからもっとやっちゃいけないことをするのに、ドキドキも何も感じない。

 まるで私が人形になってしまったのかのように、心は何も感じることがない。


 不思議、すごく不思議だ。


 前にここに来たときは、少なからず罪というものに意識があった。

 だから、わずかながらに罪悪感があった。ここに入るに、少しウジウジしていた時間もあったくらいだし。

 だけど、今はそういうことが何も無い。罪を犯しているなんて思わない。

 本当に、本当に不思議だ。


 だけどもそんな悠長に考えている時間はない。いつここの住人が返ってくるかわからない。さっさと見つけて、充電してしまわなければ。

 そう思ってしまえば簡単で、私の体は動き出す。


 充電器の形を思い出す。私の持っているものの充電はできない形の充電器もあったから、気をつけなければ。

 部屋を見渡しよく観察する。机の上などを特に注意して見てみる。

 けれどもまあ、それらしきものは全く見つからない。そこら辺には転がってないか、畜生。

 わかってはいたけれど、やっぱり心のなかでそんなことを思ってしまう。


 机にないとなると、やっぱり棚か引き出しか何かにしまってあるだろう。そもそもそれが一般的(だと思われる)のだから、最初からそこを探すべきだったのかもしれない。

 だけどやっぱり、棚を漁るのには少し抵抗がある。


 理由は簡単。物を動かすことになるから、私がこんなことをしているのもバレやすくなる。

 いや、別にバレてももういいような気はするけど、警察に追われるとか面倒だし、できれば避けたいことには変わりがない。


 それよりも大事な理由だってある。棚や引き出しなんかを探していればそれなりに時間はかかるからだ。

 引き出しなんかこの部屋以外にもいっぱいあるし、整理整頓されてる家ならばいいけど、雑なところは雑なはず。見つけ出すのはそれなりに大変になるのは見込める。

 そもそも、引き出しっていうのは充電器以外にも色々いれるものだろう、きっと。リビングから持ってくるのが面倒だからとお菓子を入れておいたり、隠れてやるためにゲームを入れてたりすると聞いたことがあるもん。


 だから、やっぱり棚や引き出しは触りたくない。でもこの状況から考えるに、必要経費と割り切るほうが大切な気がする。

 こうやって悩んでいる時間こそ無駄だし、いっそのこと思いっきりやらなくちゃ、とも頭入っている。


 さて、どうしたものかと考えて数秒、いや必要経費として割り切るしかないという結論に至った。


 だって、やっぱこの考えている時間無駄だし。この時間を探す時間に当てたほうが百倍いいだろ。

 あと普通に、こういう何かを考えるっていう作業は嫌い。最近は何回かしてたけど、私の性に合わない。不登校にやらせるようなことではないということを前もって理解しておいてほしい。


 ということで、私はすぐそばにあった引き出しを開けた。

 流石に充電器なんかはなかったけど、私は全く別のものに目を奪われる。


「なに、これ」


 引き出しの中には、写真が入っていた。たくさんの、ほんっとうにたくさんの写真。

 そのすべての中に、一人の少女が写っていた。しかも、その写真に映る姿のどれもが笑顔だ。

 人形みたいに可愛らしい顔立ちをして、金髪で、まるで外国人と日本人のハーフみたい。


 そこまで考えて、私は引き出しをもとに戻した。とにかく、何も考えたくなかった。

 見なかったことにしよう、と心に誓うけど、私の心臓はさっきとは真逆に、バクバクと音を立てている。


 あの写真はあの子だ。私がよく知るあの子だと。

 ()()()()()()()()だと頭がいって言うことを聞かない。うるさい、うるさい、五月蝿い。


 せっっっっかくこの一週間で薄れてきていたのに、大御門に対する憎しみと、あの日の記憶が溢れ出していく。

 濃厚な記憶と憎悪は、私の中に引っ付いて離れない。


 ああ、もう、クソ。なんで私は、たまたまよく似ていただけの人の写真でこんなにも心を震わせなくちゃいけないんだ。

 そう思ってもまだ心は言うことを聞かないまま。


 なんて忙しい心なんだ、この野郎が。

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