黄金の楽園と、灰色の残照
かつて「黄金の都」と讃えられた王都は、今や見る影もなく灰色に沈んでいた。
空を覆っていた偽りの聖光は消え去り、ひび割れた大地からは絶えず乾いた風が吹き抜ける。ミーナという「偽りの核」を失った王国は、溜め込んでいた歪みを一気に吐き出すかのように、急速に朽ち果てていった。
王宮の裏手にある薄汚れた酒場。その片隅で、一人の男が泥だらけの手で皿を洗っていた。
「……俺は王子だ。カイル・フォン・ルミナス王子だぞ……! アリシアさえ、あの出来損ないさえ戻ってくれば、こんな生活……っ!」
かつての婚約者、カイル。その贅肉の落ちた顔には、もはや高貴な面影はない。客の残り物を啜り、罵声を浴びせられながら、彼は一生、自分が捨てた「真実の光」を呪い続けて生きていく。それが、彼に与えられた終わりのない罰だった。
一方、世界樹の根元には、一本の白い百合が静かに咲いていた。
浄化されたミーナの魂が還ったその花は、風に揺れるたび、微かに鈴のような音を鳴らす。
「……ミーナ。あなたは、この楽園の土になって、ずっと私たちを見守っていてね」
アリシアがその花弁をそっと撫でると、世界樹が呼応するように黄金の葉を揺らした。
楽園の朝は、甘い蜜のような香りと、賑やかな乙女たちの声で始まる。
世界樹の恵みによって編み上げられた巨大な寝床の中で、アリシアは心地よい重みと温もりに包まれて目を覚ました。
「ん……みんな、おはよう」
「お目覚めでござるか、アリシア殿! 拙者、貴殿の寝顔があまりに派手(綺麗)で、つい見惚れてしまっていたでござるよ!」
真っ先に顔を覗かせたのは、シノブだった。腰まである艶やかなポニーテールを跳ねさせ、彼女は屈託のない笑みを浮かべる。寝間着からはみ出さんばかりの双丘が、アリシアの腕に押し付けられ、柔らかな弾力と共に彼女の情熱的な体温を伝えてくる。
「……ふん。シノブ、朝から密着しすぎですわ。……アリシア、あんたもですわよ。そんなにだらしなく鼻の下を伸ばして……」
反対側から、フェリシアがスレンダーな肢体を滑り込ませてきた。
「わたくしの背中の羽、まだ少し冷えていますの。……ほら、早く温めなさいな」
ツンと澄ました顔をしながらも、彼女はアリシアの腰に細い足を絡め、平坦で愛らしい胸元をぴったりと密着させる。その頬が林檎のように赤らんでいるのを、アリシアは愛おしく見つめた。
「……あ、アイヤー! お、お姉さんたち……朝からそんな、破廉恥な……っ!」
少し離れたところで、メイリンが顔を両手で覆い、指の隙間からこちらを凝視していた。お酒の抜けた彼女は、凛とした武闘家の姿をしていながら、その心根は誰よりも純情だ。
「……私、修行に行ってくるアル! ……あ、いえ、行ってまいります! ……でも、あの、朝食の後は……私のことも、構ってくださいね?」
引き締まったBカップの胸を恥ずかしそうに張り、彼女は逃げるようにテラスへと飛び出していった。
「……ふふ。メイリンさんは相変わらずですわね。……アリシア様、彼女の分まで、私がたっぷりと愛して差し上げますわ」
背後から、長身のルナリアが大きな翼のようにアリシアを包み込む。
しなやかで、驚くほど柔らかい曲線美。ルナリアの豊満な胸がアリシアの背中を優しく圧迫し、精霊たちが奏でる甘い旋律が脳内に直接流れ込んでくる。
「……もう、どこへも行かせません。……あなたのすべては、私の、私たちのものですもの」
「あらあら。朝から随分と仲が良いのね、あなたたち」
最後に現れたのは、エルセだった。
銀青色の髪をなびかせ、圧倒的な余裕を湛えた笑みを浮かべる彼女。その肢体からは、熟成された母性のような色気が溢れていた。
「……アリシア。おいで。……わたくしが、昨夜の疲れを綺麗に洗ってあげるわ」
エルセはアリシアを軽々と抱き上げると、嫉妬に燃える他の四人を優雅に躱し、秘密の入り江へと向かう。
黄金の光に包まれた楽園。
追放された乙女たちは、ここで初めて「自分」という存在を愛せるようになった。
アリシアという太陽を中心に、彼女たちの愛は混ざり合い、溶け合い、永遠に続く幸福の螺旋を描いていく。
「……ねえ、みんな。……大好きだよ」
アリシアの言葉に、五人の少女たちが一斉に微笑む。
その光景は、どんな神話よりも美しく、どんな現実よりも熱く。
聖女アリシアの本当の物語は、この眩い楽園の中で、いつまでも、いつまでも続いていくのだった。




