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(第17章 子供が運んでくれる最高の人生)

そして、数か月後、裕子も妊娠した。颯斗には無精子症だと伝える代わりに「子供ができたの。以前、あなたの精子を採取したでしょう?それで、人工授精を試みてもらっていたの」と告げたのだ。颯斗の反応は複雑だった。いきなり二人の子供の父親になるのだから。ほとんど裕子と別れて、若いファンの子と結婚しようと思っていた時だったに違いない。半年ほど悩んで、結果を出せない颯斗に呆れて、裕子は離婚を決意した。後は弁護士に任せた。子供が生まれたらDNAの検査結果だけは送ってくれるように条件をつけた。

颯斗のマネジメントは相変わらずやっていたが、力が入らなくなった。子供が生まれるまではと、会社も休眠届を出した。両親は子供ができただけで大喜びだった。離婚も話を聞いて賛成してくれた。案外簡単に承諾するものだから、拍子抜けしたものだ。父などは、事業を大きくしてくれそうな優秀な男との再婚を考えて、ご機嫌だった。

子供が生まれて、その可愛らしさに夢中になった。それほど子供は好きではなかったはずなのに、自分の子供が、こんなに愛おしいなんて知らなかった。母が「子育ては大変なのだから」と、お手伝いさんに押し付けてばかりいたのが信じられなかった。女系の矢島家だけあって、子供は女の子だった。なので、可愛いフリルやリボンのついたお洋服や小物を海外からも取り寄せて、リアルおままごとのような楽しい毎日だった。一挙一動、見逃さないよう、ずっと赤ちゃんに張り付いていた。

『子育てが大変なんて嘘だ。赤ちゃんは、十分存在してくれているだけで、親孝行は終えている』と思った。

なので、隼人のことなど全然忘れていたのだが、子供が一歳の時、颯斗が騙されていたことが週刊誌に掲載されて、一気に裕子はマスコミに追いかけられるようになった。悲劇の奥さんは、愛人の嘘のせいで離婚し、シングルマザーで頑張っていると。世間は裕子に同情した。美しく、しとやかで奥ゆかしい裕子は、女性にも男性にもモテた。マスコミでも、子供のできない母親の立場をよく知る裕子はもてはやされた。

隼人のために作った芸能プロにも、才能あふれたアーティストが入って来て、忙しくなった。裕子が世界各国にネットワークを張り巡らせ、世界に羽ばたくプロデュースに特化して、みるみる会社は大きくなった。それに伴って、優秀なビジネスパートナーも集まり、めまぐるしい発展を遂げることができた。世界を駆け巡り、矢島財閥の資金で、各国にもテレビ番組を作るための現地スタッフやコーディネーターの会社も立ち上げた。そして、やがてバブルがはじけて、多大な負債に喘ぐ矢島家をも救うことができた。

裕子が中学時代に付き合っていた透も、裏社会の幹部にまでのし上がっていて、表社会の有力者でも手の出せないトラブルを、昔の馴染みとして解決してくれたりした。男は一度寝た女のことは、一生助けてくれる。シングルなので、誰もが優しい。人脈こそが裕子の財産だと思う。

お金持ちの家に生まれたせいで、プレッシャーと孤独に苛まれてばかりいたけれど、やっと矢島財閥の元で、自分の才能を花開かせることができたのだと感謝することができるようになった。何か新たなものを生み出す時には必要だった財力が、すでに手にしていたという幸運に。

いつまでも美しく輝いている裕子の周囲には、男女問わず、多くの人が集まって来る。華奢で派手でもないのに、どこにいてもすぐわかるオーラの輝きは、ジャンヌ・ダルクのように世間と闘って来た女性にだけある光だ。寂しくて、愛されたくて、自分を棄ててまで尽くしたあの頃が嘘のようだ。親や男や環境のせいにして不幸を纏っていた過去の自分が、それでもやはり愛おしいと思う。



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