覇王への道と木の実の誘惑
パッカーン!
木材が真っ二つになる音を空に響かせ、私は小斧を振るった。
このイチ振るいがイチ筋肉になるのかと思うとゲンナリするが、煮沸した安全な水、蒸し風呂のための薪を手に入れるためなら仕方ない、と腹をくくった私は、次々と木材を薪にしていく。
「タロタロ、調子良いな!この調子でどんどん割っていこうぜ!」
笑顔の二郎が丸太から小ぶりにした木材を投げて渡してくる。
地面にドスリ。
私はそれを拾い上げながら、
「おう!」
と、勢いよく返事を返す。
頭の中、太眉劇画調で何故だが顎まで筋肉がついて、しゃくれてしまった自分をイメージしながら、漢らしく返事をした。
(その内、このクッサイ革手袋をした手で直接むしり割って、薪にするほどの筋肉を身につけるようになるんだわ)
頭の中――、
覇王のような覇気を身に着けた私は、二郎から投げ渡される木材を、片手でぱしっ、と受け取り、そのまま、
「ハァッ!!!!」
と、気合の一言で筋肉が膨張。
袖がメリメリぃ!と勢いよく裂け破れ、剛腕が剥き出しとなった私の腕はそのまま力任せに、革手袋をした両手で木材を真っ二つに裂く。
見た目、さ◯るチーズ。
(あー⋯⋯チーズ食べたくなってきた)
お腹が空いたので、自分の未来を思い描く妄想を中断することにした。
沢山割った薪は備蓄庫に。
残りの数本を抱えて屋敷に入ると、一郎が帰宅していて、夕食の準備をしていた。
「おかえり、一郎。お腹空いちゃったわ」
笑顔で言うと一郎が微笑み。手を差し出すように言われたので差し出すと、ほんのり温かいものが手のひらに乗せられた。
手のひらを見ると
温かいそれは、謎の炒った木の実。数粒。
なにこれ。
「それを食べて待つが良い」
(食べ物なんだ!)
「嬉しい!ありがとう!」
早速、口に含む。
「むぅ!?」
(う、美味い⋯⋯!なんだこれ⋯⋯!?)
炒った木の実。
なんの実なのかよく分からないが、これを生んでくれた木に感謝した。
「二郎二郎、これ美味い!美味しい!」
(ここだけ日本!!塩味が欲しいけど)
台所を出て暖炉の部屋に入るなり、私は二郎にそう報告した。
「あーん?ああ、この時期そこら辺に落ちてるぜ、これ。一個頂戴」
と、二郎はひとつ摘み上げるとそのまま口に含み「うめ」と、ボリボリ噛み砕いた。
「ちょっと!もっと、味わって食べなさいよ!!」
(貴重な美味食品よ!!)
そこで、はた、と二郎の言葉を思い返す。
「え?これそこら辺に落ちてるの?」
「落ちてる」
(なんですって!?)
「拾いに行くわよ!!」
欲しい。即実行。
「二郎!拾いに行くわよ!」
「⋯⋯なんで俺も行くんだよ」
不満げで呆れたような表情の二郎。
「どこに落ちてるのか、どれが食べられるのか教えなさいよ!」
「んなもん、生き物が食べてたら大抵食えるもんだろ」
(なにその判断基準!?もしかして、縄文人がドングリ食べてたのもその判断基準!?)
とりあえず、野生の二郎を連れ出して私たちは外に出た。
「ほれ、これだよ」
と、二郎は地面に落ちていた物を掴むと、私の手のひらに落としてきた。
渡されたのは殻に入った何の変哲もない木の実だった。
「これがあんなに美味しく変身するのね⋯⋯」
(決めた!大量に獲って帰る!!)
私は、幾重にも重なったスカートの布を一枚めくると
「二郎!拾うわよ!!」
と、号令した。
野生の二郎から言われたのは
・軽いのは虫に食われた後だからダメ
・殻に穴が空いてたら虫が既に食ってる
「⋯⋯虫め」
よく見ると地面に大量に教えてくれた木の実が落ちてる。
急いで拾い上げ、“虫が食ってないか”を確認。
ダメ
ダメ
ダメ
「虫ぃー!!!!」
(腹立つ!)
その後も拾うがダメばかり。
広げたスカートの中は、ほぼ収穫できていなかった。
二郎はそんな私の様子を呆れたように眺めながら
「⋯⋯ちっ。しゃーねぇなぁ」
と、頭の後ろを掻く。ボリボリ。
突如、舞うフケ。
「ひぃ。また出てる⋯⋯!」
金髪翆眼。整った顔立ち。
夕日を浴びてキラキラ輝く金髪から放たれる、キラキラ光る、舞うフケ。
私は、二郎から距離をとり心に誓う。
(今日は帰って蒸し風呂だ!!)
頭を掻き終えた、二郎が向かった先は、とある大木。
(⋯⋯なにをするんだろう?)
と、眺めていたら、大木の前に立ち片脚を上げ、いきなり大木の腹をガン!ガン!と、激しく蹴り始めた!
(ひぃ⋯⋯!野蛮!)
二郎の蹴りに呼応するよう揺れる木の葉がザワザワと鳴る。
驚きのあまり、口元に両手をやってその様子を見ていたが、次の瞬間、落ちてきたのは、あの無収穫木の実。
「木の実⋯⋯!!」
バラバラ音を立てて落ちてくる木の実たち。
「⋯⋯こんなもんだろ」
という、二郎の言葉を皮切りに私は急いで、木の実たちに駆け寄った。
スカートに次々に収穫していく。
「いっぱいになった!ありがとう二郎!嬉しい!」
「おう」
両手で掴むほどの量が手に入り、私は笑顔で二郎にお礼を言った。
(筋肉ってすごい便利だわ。食べたい木の実も沢山手に入っちゃうなんて)
覇王になるのもそう悪くはないかな、と思い直す私だった。




