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タロタロ、また発見する



 目的の木の実を収穫し、ホクホクと気分の良い私は元気に帰宅の挨拶。


「ただいまぁー!」


(さあて、洗うぞー!)


 台所のスペースをちょっと借りて、水の張った水桶にざっ、と拾った木の実を投入すると数個浮いてきた。


(ん?)


「⋯⋯ねぇ、なんでこれ浮いてくるの?」


 聞くと、一郎が覗き込み、


「あぁ、虫食いの後だな」


「え!?むし!?」


「なんで木に成ってた実にまで虫が入ってるのよ!」


せぬ!)


「穴も開いてないのに!」


 一郎に見せると、寄り目で木の実を見つめた一郎から


「それでも、多分割ったら虫が出てくる」


と、恐ろしいことを言われたので、私は木の実数個を掴み戸口に進むと、振りかぶって遠くへと投げた。


「なかなか良い肩をしておるな」


 一郎かららぬ褒め言葉。


(まぁた、新手の日銭稼ぎを思いついてるんじゃないでしょうねぇ?)


 不穏な笑顔の一郎に対して疑心の目でつい見てしまう。しかし、


「ありがとう⋯⋯」


 褒められたからには、おれいを言うわよ。


(減っちゃった!⋯⋯悲しい!あと、二、三蹴りしてもらえば良かった!)


 先程まで(野蛮⋯⋯!)なんて大木を蹴る姿の二郎を見て思っていたが、美味しい木の実獲得のためなら、蹴られる大木に寄り添う気持ちなんて、微塵も持ち合わせてはいなかった。


 このあとどうするの?と、思っていたらフリルエプロンのママこと、一郎が殻ごと炒ってくれるそうだ。


 やることが無くなってしまった。

 仕方がないので、木靴の形を整える作業を再開することにした。


 一郎なのか、二郎なのか、外に出していた椅子が仕舞われてしまったので、仕方なく、玄関先で胡座をかいて謎の金属凹凸ヘラで木靴のナイフの後を削っていった。


 胡座をかいた両足で木靴を固定して、両手に持ったヘラで一方向にナイフで出来た凹凸おうとつを削っていく。


「お、タロタロがちゃんと労働してらぁ」


 真面目に作業していたら二郎がやってきた。


(ふ。当たり前じゃない。筋肉の価値を見出したんだから、黙って労働するわよ)


 私の頭の中の妄想は、素手で木の実を粉砕する己の姿。


(筋肉が付くなら劇画調じゃなくて、良い感じに引き締まった身体を目指したいところだけど)


「ねぇ、アンタって木の実の殻ごと握りつぶして、割ったり出来るの?」


 私の質問に二郎は、目線を上にやるとしばらく沈黙。

 その後、私を見て「やったことない」と、答えてきた。


「んなもんやって、粉砕させた瞬間、兄貴から『食べ物で遊ぶな』って、説教が飛んでくる」


 容易に想像できた。

 一郎の前では、出来なくてもやらないように気をつけよう。


(⋯⋯って、やろうと思えば殻ごと握り潰せるのね、って“粉砕”?)


 割れるの?って質問に『粉砕』という答え。


(⋯⋯まさか私の妄想みたいな結果になるんじゃないでしょうね。⋯⋯コイツの筋肉どうなってるのよ)


 ちなみに妄想の内容は、親指と人差し指でベキバキに割るというもの。


 イメージは、ナウ◯カの四角い砂を割るシーンのような。


 ちなみに子供の頃、角砂糖でそれをやったら、部屋中に飛び散って、親にこっぴどく怒られた幼き記憶。


(あれを実演しちゃうの?⋯⋯ナウ◯カじゃくてサ◯ヤ人じゃん)


 二郎のことは、言葉の綾だと信じたい私は、木靴の研磨に没頭することにした。


「あー⋯⋯疲れた。腕に乳酸溜まって仕方ないわ。ねぇ、二郎、なんか酸っぱいの無いの?酸っぱいの」


 クエン酸は、疲労回復に良いってね!


「⋯⋯今度はなに企んでるんだよ」


 二郎が薄目の疑いの目で見てくる。


(あれ?なんだかさっき私も一郎に向けて、似たような目になったような?)


「別になにも企んでないわよ。ただ疲れたから『酸っぱい飲み物とかないかなぁ〜』と思っただけよ」


「⋯⋯あるのは、あるけど。お前吠えんなよ?」


「なんで、動物扱いなのよ」



 しばらくして、二郎が持ってきたのは、ワイン。


(いや、これ水が欲しいって言った時に出してきたやつじゃん。⋯⋯え?これ酸っぱかったの?)


 いつぞやの初めて異世界に来た時に、渡されたワイン。


(私になに飲ませようとしたのよ、コイツ⋯⋯)


 こちとら未成年だっての、と思いつつ以前はしなかった匂いを嗅ぐ行為をくんくん、と鼻を鳴らして嗅いでみた。



「くつばこ!!!」


 頭の片隅にもなかった感想が、自然と口から叫び出た。


(なにこの、小学生の時にたまに嗅いだことあるニオイは⋯⋯)


「なに言ってんのか、よく分かんねーけど、それが一番、酸っぱくて飲めたもんじゃない飲み物」


 人に刺激物を渡してきた二郎は、悪びれもない様子でそう言った。


「⋯⋯あんた、これ初対面の時に出してなかった?」


 確認のために聞いてみたら「あん時は一応、それよりかはマシなやつだった。飲めるし」


(⋯⋯基準が“飲める”って⋯⋯!!)


 拒絶した過去の自分に感謝した。

 木汁きじるすすったけども。


(いや、一応ちゃんと水だったわ、あれは)


 私の中では、『あれは白樺の木の類だった』と思い込んでいる。


(しっかし、飲めたもんじゃないなら捨てれば良いのにぃー⋯⋯ん?まてよ)


(たしか、弱酸性って髪に良いんじゃなかったっけ?⋯⋯これを薄めたらどうなるんだろう⋯⋯)


 煮沸しゃふつして冷ました水を薄めて想像する。


 謎の粉でバキバキになった髪――そこにこの、水で薄めに薄めた弱酸性になったかもしれないワインの成れの果て液に浸けたら⋯⋯!


 なんということでしょう⋯⋯!


 弱酸性の力でサラサラになった髪。


 そして――⋯⋯



 三日間、履き続けた靴下の臭いを頭から発生させる少女と、そんな少女を怪訝けげんそうに見る美形兄弟二人から


『お前、頭から変なニオイしてるぞ』


と、不本意な心配をされる未来を想像して、私は、断念した。



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