もう、帰りたい!
目をギュッと瞑って、しばらく背中に揺られた。
(ダメだ!⋯⋯めっちゃおんぶされてる!めっちゃおんぶして歩いてくれてる!目ぇ瞑って開けたら元の世界に戻ってる、てそんな展開ないの!?)
仕方なく、目を開けて、うなじから目をそらすと、横で馬が今度はウンコをしていた!
「⋯!?ねぇ、ちょっと、ウンコしてんだけど!!ボトボト落ちてる!」
私の叫びも美形はチラリと馬を見ると
「生き物だからな」
で、片付けられてしまった。
ウンコから目をそらし、うなじから目をそらし、息を止め思わず吸ってしまって、アワアワしてしまっていたら街についた。
大きめな宿だ。ここならお風呂とかあるんじゃない!?
「ねえ!宿!宿に泊まりましょう!」
「その前にお前の靴だ」
(それもそうだ)大人しくおんぶをされ、美形が行くままに任せた。
入ったところは雑貨屋さん?
なんだか、ところ狭しと物がある。そして、臭いもある。
埃のような植物のような、動物のような色々な臭い。
(やっぱり、現実なんだわ⋯)その臭いに打ち負かされた。
(いえ、気を取り直して靴選びよ!サイズとかここの世界はどうなってるのかしら?)
あたりを見回す。靴らしきものはない。⋯なんかカゴ多くない?かさばるから?
――靴なんてなかった⋯。動物の皮に紐を巻いただけのよく分からないものだった。
(ここの文明、どうなってるの⋯?)
足元を見ると、不安しか湧かない。
(でも、まあ、怪我しないよりはいっか!)
私は、なんとか前向き思考になり、気を取り直した。
「ねえ、じゃあ次こそ宿に行きましょ!」
「いや、その前にお前の素性がよく分からない。警らに届ける」
「警ら!?」(あるの!?文明遅れてるのに!?)
と、失礼なことを思ってしまった。
「え〜、でも、警らに保護されたら、寝るとこ床じゃないの?床はやだ⋯」
「犯罪者のことまでは知らん」
美形からの無慈悲な言葉。
「犯罪者!?酷い!私、犯罪なんて犯してないもん!ちょっとあなたにタカったけど!」
「警らの事情までは知らないということだ。警らには弟がいる。なるべく便宜は払う」
「え⋯?」
(⋯この美形に弟?)
好奇心が勝って大人しくついて行くことにした。
「は?イカレ女を保護した?」
美形の弟もまた美形だったが、兄弟揃って失礼だった。
「イカれてないもん!あなた達より高度な文明からやってきたから、私に対する理解が追いついていないだけよ!」
「なんだ、コイツ。イかれてる上に失礼か」
美形の弟は調書に書き出した。
「⋯⋯ちょっと、変なこと書いてんじゃないでしょうね⋯?」
「アンタの言葉を、ここに書いてるだけ。変なこと書いてるなら、アンタの言動が変て事だな」
(なにこいつ、兄より失礼じゃない?)
「はい、で、名前は〜?」
気だるげに聞いてくる美形弟。
(なんでここに個人情報垂れ流さなきゃならないのよ)
「田中タロコよ」
役所によくある田中太郎をモジッてみた。
「えーと、タロタロ」美形弟、調書にカキカキ。
「なによ!その名前!」
「うっせーな、聞き取りにくいんだよ!」
(個人情報を守ったばかりに変な名前になっちゃったじゃない⋯!)
真上から、美形弟を睨みつける。
「はい、じゃあ、どこから来たの〜?」
(迷子の案内所か!)
「日本よ!分からないと思うけど!」
「はあ!?」
「日本!?」
「お前日本人だったのか!!」
(え?なに有名なの!?日本てすごいじゃない?てことは、ここは、日本製のゲームの世界??)
私の期待をよそに崩れ落ちる、美形兄弟。
「⋯⋯え?なに、どうしたの」
「たまにいるんだよ〜、日本人てやつがよぉ」
「日本人て名乗ったら、強制的に保護した者が、そのまま預かる事になっている。扱いづらいからだ」
「なに、その不名誉⋯」
(過去の日本人達、なにしたのよ⋯)
「なんか、いきなり危険な森とか入りに行くんだよ、あいつら人の言うことも聞かずにさぁ」
「料理も作り出して、口に合わないのに、『美味いだろ!?』て、圧も掛けてくる」
「なんか、変な洋服も作り出すだろ?」
「家も作るぞ」
「フロもな」
「風呂!?風呂って言った今!?」
(あるじゃない!風呂!!)
「お前の言う、フロとはあれのことなのか⋯!」
「そうよ!日本人の心!命の洗濯!フロといえば風呂よ!」
私は拳を握りしめて、声高高に言った。




