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脱走しなかった人達



「白玉、この部屋は3人残ってるぞ」

「隣にも1人居るな。弁当、持って来るよ」


マーズが昼食用にと、もうお馴染みになった弁当入り水晶玉を箱で置いて行ったので、留置室を確かめている白玉と小倉だった。



―・―*―・―



「ま、待ってくれ! 頼むから秘書に!

 せめて私の専属運転手になってくれ!」


 さっさと別荘の外に出た臨時通訳の馬頭(ばとう)の腕を新総理が掴んだ その時、クラリと浮遊感がしたので目を瞑り、頭を振ってから目を開けると、目慣れない場所だった。

「どこの廊下だ?」ぱちくり。


「マーズに運んでもらいました。

 飛行機だと明日になってしまいますからね」

馬頭は微笑んで歩き出す。


「答えてくれないかね」


「ロシア大帝城です。此方が謁見の間。

 皇帝陛下がお待ちですよ」


馬頭が扉前の執事と衛兵に微笑むと扉が開いた。


「総理、どうぞ」


「一緒に来てくれるのだな?」


「通訳ですので当然です」


もう入るしかなかった。



―・―*―・―



 平たい箱を抱えて戻って来ている白玉を見て、給食当番みたいで懐かしいと思った小倉だった。

「多過ぎて4人部屋にしてただろ?

 空っぽもあるから残ってるのは2割くらいか?」

小声で話すが、ドア横の配膳用の小窓を開ける時は黙る。

人数を確かめ、水晶玉を置いて閉める。


「そんなもんだな。

 反省じゃなく絶望感からの虚無か諦めみたいだけどな」

白玉は水晶玉が並ぶ平箱を運ぶだけ。


「家族からは戸籍を抜かれ、会社からは解雇。

 経営者なら従業員が全逃げか、誰かが継いで海外に行ったと知ったら、そりゃあ絶望するよなぁ」


「こういう暴動が重罪だとは思ってなかったんだろうなぁ」


「よくあるデモとは大違い。

 酔っ払ってよーが関係なく重罪だもんなぁ。

 酔いが覚めたら この現実。そりゃあ絶望するよなぁ」


「だが、そうなるまで飲んだのは自分だ。

 その前に避難所を占拠している。

 その点だけでも反省してもらわないとな」


「確かになぁ。占拠以前の家族やらへの暴言・暴力も被害届が出てるもんなぁ」


「今となっては『元・家族』だけどな」



―・―*―・―



 挙動不審にならないように努めて堂々と進んでいると、椅子が運び込まれて皇帝の真正面に置かれた。


「陛下は忍者の国・邦和が大好きなんです。

 椅子が置かれるのは特別待遇ですよ。

 どうぞ」

後ろから囁いた馬頭は新総理の斜め後ろに立ち、皇帝と挨拶を交わしている。

にこやかで穏やかで友好的。それだけは言葉が理解できない新総理にも感じ取れた。


「友人である(みちびき)氏を大帝城に招き、そのままお住まい頂きたいと仰っておられます。

 以降は聞き取れるよう、肩に手を添えさせて頂きますね」


「は?」


「楽になさってください。

 お話し始めていらっしゃいますよ」


「――ロシアとしてはミチビキもマーズも大歓迎だ。

 この先ずっと居てもらって構わない。

 ただし、追放した邦和との友好関係は、受け入れと同時に終了する。

 樺太は、ロシアではマーズ島と改めた。

 故に我が国への返還を承諾して頂く。

 南北蝦夷府も独立を望むのならば支援する。

 さて、アラタ総理。個々に関して詰めるとしよう」


言葉が分かっても返す言葉に窮している新総理だった。



―・―*―・―



「この部屋からは家族丸ごとだよな?」

留置室が並ぶ廊下を進む白玉は、足りるのだろうかと、箱に残る水晶玉を数えている。


「だよ。ん? 母子だけ残ってる?

 具合でも悪いのか?」

小窓にはミラーもあり、室内がよく見えるので。

ノックをし、ドアの小窓を開ける。

「どうかしましたか? 医師が必要ですか?」


ベッドに腰掛け、昼寝しているらしい子供達を見ていた女性が顔を向けた。


「いえ……さっきの騒ぎで子供達が怖がって、泣き疲れて眠っただけですから。

 あの……子供達も一緒な理由は聞きました。

 でも……」


「お子さんに罪が無いのは承知しています。

 ですが保護できる場所も人員も無いんです」

紙を捲りながら

「どちらのご実家もご親戚も移住していますし」


「そうですか……それで夫達は?」


「追う人員もありません。

 引っ越し先の治安を守っていますので」


「その、引っ越しって? 移住先って?」


「海外のマーズタウンです。

 邦和を除いて復興は完了していますから」


「皆さん、ファンなんですか?

 そうでない人は?」


「半々といったところですね。

 ファンはマーズを追って、ですが、そうでない方々は暴動が怖いからと避難したんですよ。

 今も逃走犯の襲撃を恐れて次々と避難しているそうです。

 現に家を包囲されたり、ドアや窓を大勢に叩かれたという報告が ひっきりなしですから」


「どうして そんな……」


「もう店も何も無いからでしょう。

 それでも襲撃は……無理矢理に出て行った上に、ですからねぇ」


「罪を重ねているんですね。夫も……」


「そう、なりますね」


「あのっ、今からでもファンになれば子供達だけでも私の両親の所に連れて行ってもらえますか?」


「それは――」

「マーズはファンになれなんぞと強要せぬ」

「――赤マーズ……」


頷いて、赤マーズは室内へ。

「お子さんも、離れる事を望んでいない」

室内が光で満ちる。


光量が元に戻ると、両壁際に質素で狭い二段ベッドが置かれていたのが、母子が居た側にホテル仕様の ゆったりベッドが1台だけになっていた。


「せめて楽曲を聴いてからにしてもらいたい」

大きめの箱をテーブルに置いて、赤マーズは忍者移動した。


「あ、白玉の所か」


少し離れた部屋前で中の者と話していた白玉の横に現れ、同様に室内に入ったらしい。


「じゃあ他の部屋も?

 反省したらホテル待遇ってか?」ボソッ。



「子供達は忍者ごっこが大好きなんです。

 この部屋でもしていて……それで夫が怒って……」


「そうだったんですか。

 お子さん達、何か歌ってませんでしたか?」


「よく歌っています。

 姉はマーズの歌だって一緒に歌ってました。

 でも幼稚園のママ友たちは真似をしたら危ないから見せないって。

 それに合わせてただけなのに……合わせるしかなかったのに……こんな……」


「お姉さんはお子さん達に何と言っていたんです?

 危険なのは同じでしょう?」


「厳しい修行をして忍者にならないと真似しちゃダメって。

 忍者の里に行ったらママにも会えなくなるし、お菓子もないのよ、って言ってるらしくて」


「うんうん。それに勉強ばっかりで遊べない~も加えてそぉだよねぇ」


「そうなんですよ。上の子が1年生に――え?」

顔を上げると、子供忍者。


「ホントトコは違うけどぉ、羽ナイのに高いトコから飛んだら危ないもんねぇ。

 あ、桜マーズ参上♪

 あの箱、ポータブルテレビとオモチャね♪

 それとコレ、猫型ロボット掃除機♪

 泣かないでねっ♪」忍者移動した。


暫し唖然呆然。

床に置かれた三毛猫は可愛く掃除をしている。


「あ、あのっ、テレビって……いいんですか?」


「いいですよ。

 マーズからのプレゼントですから」

微笑んで小窓を閉め、白玉を追った。

その途中でチラリと空マーズが見えた。



―◦―



 ニュース番組が終わりに近付き、桜マーズと空マーズはユーレイ探偵団のラクサとロンサとして出番を待った。


【全世界放送、効果絶大だね♪】るんるん♪


【うん。物凄い反響だよね】怖いくらいに。


【リクエストに応えて~♪

 ここからは音楽まつり♪

 も~っと()っき波なるまで耐久だからねっ♪】


【うん。頑張らないとね。

 それにしても この状態……もしかして暴動は弱禍?】


【うん。反マーズ派だから聴いてなくて弱禍シッカリ残ってたみたいなのぉ。

 それに闇禍の親玉も近寄ってたからメーイッパイ膨らんじゃったみたいなのぉ】


【闇禍の親玉?】


【黒点闇禍いっぱい飛ばすの。大っき闇禍なのぉ。

 地星、災厄あっても立ち直りそぉだったからトドメしに来てたのぉ】


【そんな……でも退治したの?】


【ブルー様また来てくれた~♪】


【そっか。何度も何度も地星は助けてもらってるんだね】


【ブルー様、地星だ~い好きなんだって♪】


【そっか……良かった……】


【でも、ここからは俺達ガンバル番だよ】


【そうだよね!】



―・―*―・―



(あらた)総理、次はアメリカだそうです。

 では私は失礼します」


「英語も頼む! 一緒に来てくれ!」掴む!


景色が変わった。


「大統領は彼方です。

 私は予定がありますので」瞬移。



「消えた……」


『ぼんやりされては困ります。

 大統領がお待ちですので此方に』


聞こえたのが和語なので嬉しくて振り返る。

馬頭(ばとう)君!? と(みちびき)さん!?」

走り寄り、もう逃がさないと腕をガシッ!


が、馬頭はスルリと抜けていた。

「前サンは英語が話せますので、お願いしてみては如何です?

 それでは私も予定がありますので」


「だから待ってくれ!」スカッ。

「戻ってくれたのだろう!?」トットットッ。


「戻って? ああ、さっきの彼ですか?」

「新君を連れて来たのは青マーズ。

 彼は私達とずっと一緒だったよ」


「そうか双子か!」また空振り。


「キリュウの顔を借りているだけですよ」

クルンと忍者に。

「昨日、タクシーを運転してからずっとね。

 俺は銀マーズ。ではサラバです」消えた。



「新君、私は隠居するし、もう政界には関わらない。君の罪も問わないよ。

 だから最後に、君が招いた邦和の危機を脱する手助けくらいはさせてもらえないか?

 私は邦和が好きだからね」


「前さん……」


「ほら早くしないと、邦和という国が地星から消えてしまうよ。

 それに皇帝陛下もだけど、大統領も邦和の時間に合わせてくださっているのだからね。

 早く座って、感謝を伝えないとね。

 では、先ずはロシアでの対談の結果を教えてくれないかね?」


新総理は勧められた椅子に ようやく腰を下ろした。

「前さん……どうかお助けください」

そして とうとう頭を下げた。







繋ぎだとか言っていた前総理でしたが、けっこう度量が大きいようです。

蹴落とそうとした新総理も見直したんでしょうね。


脱走しなかったのは絶望感で動けなくなった人達と、反マーズ派の家族と一緒に捕まってしまった人達でした。



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