更地になった輝竜家
もう避難所ではなくなったので救援物資を市役所に返却した為に、物が無くなり過ぎて買い出しに行っていた女の子達が駆け込んで来た。
「ノワールドラコが閉まってたの!」
「稲荷堂も! きりゅう動物病院も!」
「昨日までは代わりの人達が開けてたのに!」
「何か書いていなかったの?」
いつもに増して視線が厳しい凌央。
「一時閉店で!」「再開は未定!」
「感謝の言葉が完全に閉店するみたいに感じたの!」
「稲荷堂に行ったのなら家にも寄ったよね?」
「マーズ学園は白儀先生が続けるって」
「でも……場所は変わるかも、って……」
「そう」凌央は皆に背を向けて考え込んだ。
「ね、あれ」「彩桜くん?」「サーロンくんも!」
「「でも……」」「「なんか変?」」「だぁね~」
「そうなんだよね。
きっと彩桜は何か考えてるんだよ」
凌央が向かないので祐斗が答えた。
ザワザワしていると凌央が向いた。
「行こう。白儀先生は知ってる筈だから」
頷いて動こうと――「待って! 何か読んでる!」
その前を見ていなかったが、彩桜と見田井が並んでいて、彩桜が長い紙を広げたところだった。
『マーズからの手紙を読みます。
全文は後で読みますが、先に重要だと思う箇所を抜粋して読みます。
夜襲が発生した事から我々マーズの存在が邦和の復興を遅らせていると判断し、忍ノ里を外国に移す決断を致しました。
土木建築業者方々、及び、運営を継続している避難所への支援は、マーズ事務所を通じて引き続き行います。
マーズ学園は輝竜家への迷惑となりますので移転します。
今秋に予定していたフリューゲル&マーズのドームライブツアーはフリューゲルのみ、または中止を検討しています。
払い戻し等は今暫くお待ちください。
あとは……』『ここで、もう1通です!』
彩桜が見田井の手に届いた封筒を覗き込む。
『キリュウ事務所から? みたいですね』
『はい!
キリュウ夫妻、キリュウ兄弟連名です!』
開封して中の紙を彩桜に渡した。
『えっと……また抜粋します。
邦和を愛していますが、親友であるマーズが居られない国となったのなら、去るしか選択肢はありません。
今後は、邦和でのコンサートにも出演しないつもりです。
8月の東京公演も出演辞退を申し出ました。
兄弟各々が営業していた店舗等に関しましても――』
「行こう!」「彩桜の家に!」
「バスを出すから乗って!」
順志も別室で視ていたらしく、握り締めていた紙を破り捨てて走った。
「続くぞ!」中学生達も走った。
順志が運転する白バスの中で中学生達は続きを視ていた。
全文を読んでいる彩桜の顔は前髪で隠れているが、泣いているのは確かだった。
『――マーズのファンになってくださった皆様、マーズは平和を愛する忍者です。
決して争い事を起こさないでください。
不穏に取り込まれないでください。
どうかどうか、お願い致します――』「あっ!」
「順志お兄さん? 何か――えっ……」
祐斗が言葉を失って固まってしまったので、他の皆もスマホの画面から前方に視線を移した。
「彩桜の家が……」「カズ兄さん早く!」
かなり遠くからでも家々の連なりから上に出て見える筈の黒くて重厚な輝竜家が見えなかった。
順志がギリギリまで速度を上げる。
そこからは誰も何も話せなかった。
キリュウ兄弟からの手紙を読む彩桜の声だけが流れていたが、誰にも聞こえていないかのようだった。
国道から民家の間の道に入れば見える筈の稲荷堂も無く、それどころか塀も何も無く、すっかり更地になっていた。
「白久!!」
ホールが在った辺りにポツンと立っていた後ろ姿の男が振り返った。
「バスなら自由に使ってくれ」
「そんな事じゃなく!」降りて走った。
「邪魔なら引き取るけどな」
「じゃなくて! 更地って何だよ!?」
「そう怒鳴るなよ。マーズが去るしかねぇだろ」
後半はボソボソと。
「いつもなら解決するだろ?」
「取り敢えず静かにさせたが、アレは根深い。
マーズだって人だ。無理な事もあるんだよ。
この土地の権利書は親が持ってるからな、後日送付するから頼む」
「頼まれないからなっ!
会社も辞めさせない!」
「俺の辞表は?」
「当然 破棄だっ!」
「ま、いいけどな。社長にも送ってるから」
「なっ――」
「キリュウ兄弟もマーズも邦和の外で活動するってだけだ。
インタビューされてもマーズは無言を貫く。
俺達キリュウ兄弟は何も知らねぇ。
それだけで、消滅するワケじゃない。
楽曲も邦和を除いて配信するってだけだ。
つまり、外国でなら会えるし聴ける。
それを忘れるなよ。
そんじゃ、また何処かで会おう」
黒い者が過り、白久は消えていた。
「白久……」
静まり返った広い更地に着信音が鳴り響いた。
「僕のだ。放送、終わってたんだね。彩桜!?」
握り締めたままだったスマホの表示を見て驚いた祐斗が音を大きくした。
「彩桜! 今どこ!?」
『言えにゃいのぉ。
電話番号、国際のに変わるからコレ最後ね。
1コしか送れなくてガードしてるから広められないの。だから祐斗のに送るね。
みんなゴメンね。
でも俺達 生きてるからねっ』
「待って彩桜! ユーレイ探偵団は!?」
『長くても3日間。だからユーレイなの。
でもアレ、俺じゃないからね。
誰だか分かんないユーレイだからね』
「その後は? 戻ってよ!」
「祐斗、落ち着いて。僕にも話させて。
彩桜。ユーレイ探偵団はマーズを邦和に戻す為の作戦なんだろ?
あの演奏は、わざとなんだよね?」
『かも~。俺じゃにゃいから言えにゃいのぉ』
「十分だよ。僕達も動くからね。じゃあまた」
『ん。歴史研究部もお願いね?』
「お願いされない。
今は夏休みだし、ジオラマも部室ごと消えてしまったからね」
『あ~、、だねぇ』
「だから僕達も歴研探偵団するからね。
少しだけ猶予を頼むよ」
『俺に言われてもねぇ』
「確かにね。出方次第だよね。
それじゃあ お互い全力で」
『ん♪ 凌央ありがと♪ 祐斗ありがと♪
みんなも ありがとねっ♪』
「切られちゃったね……」
「けど新しい番号も届くんだから落ち込むなよな」
「うん。そうだよね」
「なぁ凌央。何をどう動くんだ?
何を約束してたんだ?」
「考えてるから少し祐斗と話させてよ。
彩桜の『かも~』は肯定だからね」
「凌央もナゾ言葉かよ」
―・―*―・―
「見田井さん、これを。
どう放送するのかは、お委せしますので。
では、これにてサラバです」
休憩エリアのテーブルで頭を抱えていた見田井には有無を言わさずに、局カメラの記録ディスクを押し付けた青マーズは総理を連れて消えた。
「さっきの、総理だったよな?
それより内容を確かめないと!」
視聴編集室に走った。
廊下で見付けた大礼と共にブースに入ると、少しだけ速くして流し視た。
「大礼D、どーするよコレ?」口調は軽いが目は真剣。
「こんなオオゴト、俺達だけで決められっかよ」
「トップものだよな。邦和にとっても。
暴動を起こした奴らは、怪我人も破損被害も出してないから すぐに釈放される。
邦和を二分する大騒ぎがマーズ絡みだと知られれば、諸外国も黙っちゃいない。
これは邦和の――」
『見田井さん! ここですか!?』
「――開けていいよ」
慌てた様子でドアが開いた。
「オッテンバッハ社と財閥御三家から被害届が出されたそうです!」
「ナンで!?」
「避難所の荒れようがヒドくて!
営業再開が修復で遅れるからと!」
「反マーズ派が荒らしたヤツか?
たった1日2日でナニやらかしたんだよ?」
「呑んだくれて壁に穴やら、物を投げたり倒したりで壊したりやら、汚物も……」
「「その現状をカメラに収めろ!」」
「はいっ」走って行った。
見田井と大礼もブースを出て、急ぎ足で社長室に向かった。
「ま、これで暫くは拘束してもらえるだろ」
「けど、一大事には変わりない。
次だと指名された国土大臣は?
建築に関しての人件費やらを発表したキリ姿を見せてないだろ?」
「その行方も調べないとな。
だが、その前に」コンコンコン。
「すんなり会えるのかが大問題だ」
秘書がドアを開けた。
「ご予定がありましたか?」
「大至急案件、マーズ絡みで国際問題に発展する可能性が大いにあるものです」
「ですので直接にと参りました」
「出掛ける予定もありますので、確かめて参りま――」
『ああ、見田井君か。入ってもらおう』
「――では、どうぞ」
「「ありがとうございます!」」
―・―*―・―
その日の夕方。
「新総理、お疲れのところ申し訳ありませんが会見の準備が整いましたので此方にどうぞ」
「な、何と!?」
ひっきりなしの苦情電話対応に追われていた国土大臣だった男は、今日は終わりだと言われて部屋を出た所で驚く事になった。
「ですから会見の準備が――ああそうですか。
ご覧になられていなかったのですね。
では簡単に。
前総理は地震の翌日から監禁されていたとの事で、犯人は不明と。
その為に次は命が狙われるだろうと辞意を表明して何処かに去ってしまいました。
簡単に言えば雲隠れです。
次の総理に関しましては、現状、総裁選をしている場合ではありませんので指名にて、と。
党の同意も得ていましたので、貴方が総理と決まりました。
では、会見を。どうぞ」
記者だらけカメラだらけのライトが眩しい部屋に新総理を押し込んだ男は清々しい笑顔でドアを閉めた。
記者達からは怒号に近い声が、言葉が拾えない程に重なって押し寄せた。
「皆様ご静粛にお願い致します。
ご質問はお一方ずつです」
話しながら新総理には有無を言わさずに着席させた男は颯爽と通り抜け、ドア前で一礼すると退室した。
新総理がハッと顔を上げると立ち上がった。
「君! 戻りなさい! マーズなのだろう!?」
その発言で再び記者達が騒ぎ始めたが、新総理を連れて来た男も、座らせた男も戻らなかった。
アオ王子が戻るまでは邦和の騒ぎの話になります。
これも超越者が仕組んだようですので。




