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ディアナ、頑張る。2

 イヴァンの偵察によると、この市庁舎内には15人前後しか赤い服の男はいないらしい。

 王都の制圧と王太子の捜索に人員を割いているから、市庁舎は比較的手薄なのだろうとのことだった。


 最初に閉じ込めたのが5人。

 さっき地下倉庫に落としたのが2人。


 あと8人と、ヴァーツラフだ。


 少なくともあと10分くらいは彼らの意識をディアナに向けさせないといけない。


 イヴァンと立てた作戦で、市庁舎中の鐘を鳴らしたあと、時計塔から最も遠い厨房に彼らを引きつけることになっている。


 厨房を選んだのは、時計塔からの距離の問題もあるが、市庁舎の裏門に近いため、仮にそちらに向かっているディアナを見られたとしても外に逃げる途中だと思わせられるためだ。


 イヴァンのことを絶対に気取られてはならない。


 ディアナは、重圧に胸が苦しくなりながらも一生懸命走った。


 厨房に到着すると、ディアナは一番大きな作業台を探した。


 昔は王宮の厨房として使われていた場所だが、今でも市庁舎に勤める人のための食堂としてランチが作られている現役のキッチンだ。


 整理整頓されている厨房で月明かりを頼りにして作業台に直接大きく魔法陣を描く。


 ディアナにも書ける簡単であまり危険がない魔法。


 強く、大きな光を灯す魔法と、ラッパのような音をさせる魔法の2種類だ。

 大きく書くことで、光も音もより大きくなると教わった。


 まだ魔法を発動させずに、厨房内を駆け回って同じ魔法陣を大量に書いていく。

 大きいものから小さいものまで、20個を目標に書きまくった。


 今のタイミングで誰も来ないでよ、と願いながら20個書き上げ、今度は全ての魔法陣の魔法を発動させていく。


 大小様々な光と音が鳴り出す。

 

 ただでさえ鐘が鳴り響いていてうるさいのに、今度はラッパの音ときた。

 自分でやっておきながらディアナは耳が痛くてうんざりした。


 ゆっくりしてはいられない。

 

 ディアナは、今度は厨房の扉を閉めてまわる。

 一箇所だけ開けておいて、先ほどと同じようにまた近くの柱の陰に隠れた。


 走ったり動き回ったりで上がった息を整えながら、厨房に男たちが集まるのを待つ。


 市庁舎はなかなか広い。

 ディアナが駆け回ったせいで、男たちもそれぞれいろんな場所に分散もしていたようで、厨房に男たちが集まってくるのもなかなか時間がかかった。

 

 といっても、魔法を発動させてから5分もかかっていないだろうが、永遠に来ないんじゃないかと思えるほど長く感じた。


「ここか!」


「ああ!王太子か!?」


「いや、だとしたらこんな騒ぎは起こさないだろう!」


「じゃあ、フィリプ・ペトラーチェクか!」


 そう言いながらがやがやと集まってきた男たちは、警戒しながら厨房に入っていく。

 その手には変わった形の銃みたいなものが握られていた。


 ディアナは柱の陰から息をひそめてその人数を数える。


 いち、に、さん、よん、ご。


 少し経って、ろく、しち、はち。


 ディアナは、柱の陰から飛び出して、厨房の扉を閉めた。


 くすねておいた箒を先ほどと同じようにドアの取手に差し込む。

 

 すると徐々に、ディアナが発動させた魔法が止められていく。

 けたたましく鳴っていた音や光が徐々に減っていった。

 中に入った男たちが、魔法陣を破壊するなり書き加えるなりで止めていったのだろう。


 男たちはそれで初めて出口が閉じられていることに気づいたようだ。


「ペトラーチェクの女の仕業か!?」


「あの女は魔法も使えない、大したことのない女だとヴァーツラフ様は仰っていたが…」


「いや、フィリプ・ペトラーチェクの入れ知恵じゃないか?」


「とにかくここを出よう…!レオポルトを捕えるまであの夫婦を留め置かなければいけない」


「しかし扉には神の印が」


 最初の部屋とやったことは同じだが、結果も一緒だった。


 神の印を割ることなど彼らにはできない。


 厨房の中の会話が聞こえてきて初めて、ディアナが鳴らして回ったベルや鐘の音も止められていることに気づいた。


 男たちの騒ぐ声だけが聞こえる。


 イヴァンによれば15人前後がこの市庁舎内にいるらしい。

 すでに足止めした7人に、厨房に足止めした8人で15人。


 イヴァンの作戦通りだった。


 王太子が来ているかもしれないと疑念に駆られている彼らは、音や光に引きつけられて厨房に集まる。

 ディアナはそれを狙って扉を閉める。


 そのうち突破されるかもしれないが、とにかく少しでも時間が稼げればいいのだ。


 ディアナは、イヴァンの作業が終わるまで他に赤い服の男がいないか、そして、ヴァーツラフがいないか、市庁舎内を歩き回ることにした。


 極力足音を立てないように静かにゆっくりと歩く。


 けれども、走りまわったせいで上がった息がなかなか整わない。


 胸が苦しい。


 静かな市庁舎の中で、ディアナは廊下の壁にもたれて座り込んだ。


 流石にこんなに息が苦しくなるのはおかしい、と思いながら、ふと気づく。


 そもそも、数時間前まで聖気に魅了されて気絶していたのだ。

 その影響が残っていても全く不思議はない。


 むしろ走ったことで、血流が良くなって悪化してしまったのかもしれない。


 つい夢中でここまで来てしまったけど、呼吸をするたびに胸が痛くて、視界がだんだん狭くなる。


 ここで意識を失うわけにはいかない。

 イヴァンの作戦が成功するまで、ディアナはなんとしても時間を稼がないといけない。

 

 もし、イヴァンが失敗して、礼拝堂のフィリプが見つかって捕らえられたりしたら。

 

 ディアナは震える指で壁を掴んで必死に立ち上がった。

 

 赤い服の男がもしいたらどうしよう。

 さっきみたいに走ったりできない。


 でもやらなきゃ。


 ディアナがなんとか一歩踏み出したそのとき。


「ああ、こんなところにいたのか。探しましたよ、ディアナさん」


 背後から首に腕を回されて、喉元に冷たいものが当たった。

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