王都奪還作戦 作戦立案
「自白剤を飲まされたって、そんな、フィリプ様は大丈夫なんですか!?」
ディアナがイヴァンに詰め寄ると、フィリプがドレスを掴んできた。
「だいじょうぶだから。
すこし、じかんがたてば、くすりもぬけるから」
そう言って引き攣った笑みを浮かべるフィリプ。
ディアナは夫のいうことの真偽が分からなくてイヴァンに助けを求めて視線を向けた。
「量はどれくらいだ?」
イヴァンは淡々とフィリプに尋ねる。
「そうおおくはない。
ちゅうしゃき、いっぽんぶんを口にちょくせつ」
「それなら命に別状はないだろう。
ただ、早く解毒剤を飲ませないと後遺症が残るかもしれない。自白剤の種類によるが」
それを聞いても、ディアナは不安でたまらなかった。
だってこんなに辛そうなのに。
「ははっ。それにしても自白剤を飲まされたのに、俺の居場所を言わなかったとは。
フィリプ、君も案外俺に対する忠誠心があるのか?」
イヴァンがふざけた調子でフィリプを揶揄う。
「うるさい。それより、はなしのつづきを」
そうだな、とイヴァンはディアナに向き直った。
「フィリプがこうなった以上、作戦はこうだ。
俺が時計塔の上に行って、魔法陣をかきかえる。
ディアナはその間ヴァーツラフ一派の気を引いて時間を稼ぐ。
フィリプは寝ておく。
以上だ」
ディアナは、はい、と頷いた。
対して、フィリプが、ダメだ、と声を上げる。
「それじゃ、でぃあなが、きけんだ。
すこし、ねてたらなおるから、ぼくが」
ディアナは、フィリプの口を手で抑えてふさいだ。
「イヴァン、時間はどれくらいかせげばいいんでしょうか?」
「そうだな。
長ければ長いほどいいが、30分は欲しい。
できるか?」
イヴァンの眼光に少したじろいだ。
それでもディアナは頷いた。
「やります」
イヴァンはぱっと笑顔になり、
「それなら詳細に計画を立てよう」
と、またどこからともなく、市庁舎内のマップを取り出した。
イヴァンは、自身の動きとディアナの動きを整理しながら計画を立てていく。
ディアナは、イヴァンが立てた計画の中で自分にできるなことと、できないことを伝えていく。
普段であれば、できそうにないと思っていても頑張るというのだが、今回は失敗が許されない。
自身に対してシビアにならざるを得なかった。
できない、と伝えたことがあまりに多くて、ディアナはイヴァンに申し訳なかった。
「ごめんなさい、何もできなくて」
と、ディアナが謝ると、イヴァンは、にっと笑って
「俺は人間ができているからな。
君が何もできないなんて思っていないよ。
現に、現実的な計画がたてられているだろう」
と言う。
自信過剰なところはあるが、確かに人間ができているし、頭もいいのかもしれない。
ディアナは、素直に、すごい、と感じた。
詳細な計画を立てている間、ディアナはフィリプの口を塞いだままだった。
途中まではフィリプの震える指がその手を押し退けようとしてきていたけれど、途中で力尽きたようでそれもなくなった。
焦って、口を塞いでいた手を離すとフィリプは小さな声で言った。
「ぼくのとけい」
なんのことかと思ったが、ディアナはフィリプのズボンに着いているチェーンを見つけた。
それを引っ張ると見覚えのある懐中時計が出てくる。
「これのこと、フィリプ様?」
ディアナが懐中時計を見せると、フィリプは薄く目を開けて頷いた。
「それ、グスタフさんのつくったとけい。
いちどだけなら、まもってくれるから、でぃあなが、もってて」
一度だけなら守ってくれる。
どういうこと、と聞き直したけれど、フィリプは意識を失ったのか、眠ってしまったのか、答えてくれなくなってしまった。
つい、フィリプ様、と声をかけ、体をゆすってみてしまうが、イヴァンに止められる。
「ゆすったら自白剤がもっと回る」
そうか、と思ってディアナは何もできない状態を焦ったく思いつつも手を引いた。
「その懐中時計、少し拝見しても?」
フィリプの懐中時計を彼のズボンから外してイヴァンに渡す。
見覚えのある、と思ったら、グスタフがよく作っていたものと同じデザインだからだ。
フィリプに初めて会ったとき、彼が持っていたものと同じデザイン。
けれども、真鍮の輝き方が新しいものに見える。
同じデザインで、新しく買っていたのだろうか、とディアナは首を傾げた。
ディアナが考えている横で、イヴァンは時計を開いて眺め、ああ、と納得した声を上げた。
「この蓋の内側に魔法陣がある。
強い衝撃を受けたら発動するようになっていて、見えない硬い殻のようなもので所有者を守る魔法だ」
ほら、とイヴァンが見せてくれる。
覗き込むと、そこまで詳細には分からなかったが、ところどころはディアナにも理解できる魔法陣が真鍮の蓋に刻まれていた。
「これ、グスタフの加工かしら…」
そう呟いてみたものの、そうだろうと確信する。
グスタフにはこんな魔法陣を書くことはできなかったはず。
でも、もしかしたらフィリプが発注して、魔法陣の図案を渡し、グスタフが加工したのかもしれない。
魔法陣の線や小さな音符の精密さは、確かにグスタフの技術によるものだろう、と思えた。
フィリプが持たせてくれたグスタフの時計をディアナはぎゅっと握り込む。
「それじゃあ話を続けよう」
イヴァンは、そう言って、作戦の立案に戻った。
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1時間ほどを準備に費やした。
小部屋の中を探し回って必要な道具もできる限り揃えた。
この部屋が物置になっていて助かった。
あと2時間ほどで日付が変わる。
イヴァンが、小部屋の窓の向こう側に顔を見せて、『あとはたのんだ』と口の動きで伝えてきた。
煙突伝いに無事窓の外に行けたようだ。
ディアナは、ゆっくり頷いて、イヴァンに作戦開始の合図を送った。
イヴァンは、にぃっと笑って、どこかから持ってきた石を思い切り窓に打ちつけた。
がっしゃあん、と大きな音を立ててガラスが割れる。
つい衝撃に目を瞑ったけれど、再び目を開けたときにはすでにイヴァンはいなかった。
作戦開始だ。




