第6話 夏休みと事件
次の朝、あたしの取越し苦労だったみたい、涼くんは隣ですやすや寝てる。
涼くんを起こさないように起きだして日課の素振りへ。
あたしは毎朝30セット木刀を振る、その後シャワーを浴びて、着替えて学校に行く、
この流れを1月から欠かさずやっている。
「1、2、3、…25、26、27、28、29、30っと。ふー」
正直体力に自信はない、けどこれを続けて体力がつけばいいと思ってる。
「おはよ」
涼くんが起きてきた。
寝癖すごい、寝起きの涼くんってこんな感じなんだ。
何か新鮮。
「おはよー。シャワー浴びたら朝ごはん作るからちょっと待っててね」
「わかった」
シャワーを浴びてから、キッチンに行って朝ごはんの支度をする。
「はい、お待たせしました」
「おう…サンキュ」
「昨夜眠れた?」
「なんでかわかんないけど、よく眠れたよ。まさかこれが六華の癒し効果か!?」
「なにそれ?あたしってそんなオーラ出してんの?」
自分でもよくわかんないけど、なにかあるんだよきっと。
そう思っておこう。
「かもな、よくわからんけど」
「そうなのかー知らなかったなー」
「ところでコーヒー貰えるか?」
「いいよ、ちょっと待ってて」
ついでにあたしもコーヒー飲むか。
「砂糖入れるの?」
「いや、ブラック挑戦してみる」
「大丈夫?」
「おう。がんばってみる」
「じゃあ、はいどうぞ。一応砂糖置いとくから」
「サンキュー。う!やっぱ苦い」
涼くんがすごい顔してる。
「あたしの淹れ方が合わないのかもね。濃いめに淹れてるから」
「そっか、よく飲めるな」
そう言いながら砂糖を入れる涼くん。
んふふ、まだおこちゃまね〜ってあたしも年一緒か、とセルフツッコミ。
「どうした?そんなニヤニヤして」
あたしそんなニヤけてた?
「ん?なんかかわいいなーって」
「それ誉め言葉なの?」
「これでも褒めてるつもりだよ?」
「そうか」
一服してから食器を片づけて部屋へと移動する。
「さて宿題進めますか」
「そうだな」
夏休み前半はこんな感じであっという間に過ぎた。
8月頭に宿題が全部終わり、ようやく出かけられるようになった。
「あぁー!やっと終わったー」
「お疲れ様でした」
「…ホントに全部終わったよな?」
「終わったよ?」
「良かったー!」
倒れこむようにあたしの膝に頭を乗せてきた。
「もうー甘えんぼなんだからー」
慈愛の表情で涼くんの頭を撫でる。
「なぁ、今日の花火行くんだろ?」
「もちろん行くよ」
この日のために浴衣用意したんだよ?早く見てほしいなぁ。
「俺何着てこうかな…」
「こんなこともあろうかと用意しときました。どうぞ」
あたしはあらかじめ用意しておいた甚平を差し出す。
「甚平か、ありがとな」
「早速着てみてよ」
「じゃあ…着替えてくるわ」
「うん」
しばらくして涼くんが戻ってくる。
あたしの見立て通りだね、さすがあたし。
「どう?変んなとこないか?」
「大丈夫だよ、よく似合ってるよ?」
「そうか。大切にするよ、ありがとな」
「どういたしまして。じゃあ今度はあたしの番だね。ちょっとダイニングで待ってて」
「うん」
ばっちり着こなして、涼くん驚かせよう。
ただしばらく浴衣なんて着てないからちゃんと着れるか不安なんだよね。
思い出しながら着たから少し時間がかかってしまった。
「涼くんお待たせ、こっち来ていいよ?」
「どれ…」
涼くんが固まってる。
もしかしてどこか変?
「どうかな?ちょっと髪の方も頑張ってみたんだよ?」
「……」
あれ、無言?
やっぱりどこか変なのかな?
「涼くん?」
「ん?あ!ごめんつい見惚れてた!あまりにも可愛かったから固まっちまった」
「ホント?」
「うん」
短く返事をして抱き着いてくる涼くん。
「き…急にどうしたの?」
「いやーなんか抱きしめたくなった」
「そ…そうなんだ。…ありがと」
「こちらこそありがとう」
ちょっと奮発した甲斐があったよ、いくらかは言えないけど、まあそれなりの値段ですよ。
「少し早いけど出かけようか」
「そうだな」
準備を終えて家を出る。
有名な花火大会だから、人もたくさん来てて、歩くのがものすごく大変だった。
「涼くん、まずどっから攻める?」
「攻めるって…そうだな…あれは?」
涼くんが指さしたのは焼きそばだった。
「いいねー。すいません3つください」
「2つも食うのか?」
「そうだけど?」
あたしは何か変なこと言った?みたいな顔で首を傾げる。
「いや、なんでもないです…」
「はーい、3つねー」
なんか聞き覚えのある声だった。
「なんだ六華ちゃんと涼くんじゃないですかー」
湖姫先生だった。
何でここに!?
「先生じゃないですか!手伝いですか?」
「そうですよー。はい、3つで1500円です」
「はい」
あたしは巾着から1500円丁度渡す。
「丁度ね、ありがとう。帰るのあんまり遅くならないようにね?」
「わかりました」
あたしたちは先生に挨拶して店を後にする。
「あーびっくりしたー」
「ホントにな。まさかあんなとこに担任がいるとは…ところで次どうすっか」
「そうだね…ってもう花火始まる時間じゃないか」
「お、ホントだ。いいとこ空いてっかな?」
「とにかく行こっ。焼きそば食べたいし」
「おう、って六華」
と涼くんに呼び止められた瞬間人とぶつかりそうになった。
「大丈夫か?」
「…うん、大丈夫」
少しチクっとしたけど気のせいだよね?
そうこうしてる内に花火が上がった。
さすが3大花火大会、すごくキレイ。
「キレイだねー」
「…その…お前の方がキレイだよ」
涼くんが不意にそんなことを呟くからこっちまで恥ずかしくなる。
「…何ベタなセリフ言ってんの?」
「一度言ってみたかったんです」
「そう…ありがと」
少し背伸びをして、頬にキスする。
そしたら不意打ちのせいで顔が真っ赤になる涼くん。
「不意打ちとは卑怯な!そういうことする子にはこうだ!」
仕返しにおでこにキスされた。
「えへへ、おでこにキスされちった…」
「六華も顔真っ赤だ!」
「だ…大丈夫だよー暗闇だから見えないって…」
そんな感じでイチャついていると“おーい!”と呼ぶ声。
「いやーお熱いですねーお2人さん」
「美沙希、やめなって…2人とも顔真っ赤になってるでしょ?」
「えぇ、いいじゃん。それより優衣、早いとこああいう相手見つけたら?」
「その言葉、そっくり返します」
姫宮さんが珍しくちょっとキツイ口調で坂本さんに言う。
「あのー、お2人さん?」
2人の世界に入りそうだったので、間に入る。
「おっと、失礼。偶然だね」
「そうだねー」
って遅いよ!
「優衣が行きたいって言ってたから一緒に来た」
「もう、違うでしょ?美沙希が行きたいって言ったんじゃない」
「ありゃ?そう…だったね。ごめんごめん」
「美沙希ってば昔からこうなんだよ。どこか適当っていうかなんていうか」
「だからごめんってばー」
2人はホントに仲いいなぁ。
腰を下ろせる場所を探して座る。
んーなんだろうこの感じ。
何が言いたいかっていうととにかく姫宮さんがとにかく可愛い。
あれ?これってもしかして…いやそんな訳ないか。
そんなこんなで花火大会が終わって、姫宮さんと坂本さんと別れた。
あたしたちは帰路につく。
「いやーすごかったね」
「なー。ところで電車大丈夫かな?」
「乗れるかってこと?大丈夫だと思うけどなー」
「ならいいけど」
「そういえば手、大丈夫?」
「手?ああ、そういえば。別に平気だよ」
人混みの中はぐれないようにしっかり手をつないでたら、あたしの握力が強いせいで
涼くんの手の甲にはあたしの手の形がくっきり残ってしまった。
謝ったんだけど、なんだかうれしそうな顔して「別にいいよ」って言ってくれた。
…よくわかんないけど。
まぁとにかく人混みで疲れた。
「疲れたか?寝たかったら寝ても良いぞ?」
「いや、大丈夫なんとか家までもちそうだから」
「そうか」
「でも、途中で寝たらごめん」
「いいよ、そん時はおぶってやるから」
「ありがと、そん時はよろしく」
「おう」
いつの間にか、あたしは眠ってしまって、気づいたら家に帰っていた。
「ごめん、寝ちゃってた」
「気にすんなよ。あまりにも気持ちよさそうに寝てたから、起こすのも悪いって思って、起こせなかったわ」
「そっか、ありがとう」
「風呂出来てるから入ってこいよ」
「うん、ありがとう」
お風呂に入り頭と体を洗い終わって、湯舟につかろうと思ったら、唐突に鼻血が出た。
「涼くんごめんティッシュ箱ごと持ってきて」
「わかった、ちょっと待ってて」
なんで鼻血なんかいきなりでるの?あたしはエロい事考えてないよ。
…いやちょっとは考え…てたか。
「お待たせ…って大丈夫か?」
涼くんが駆け付けたときにはもうあたしの足元には赤い水たまりが出来てた。
これ鼻血だけじゃない気がするんだけど、気のせいかな?
「お前、口の中切った…のか?あと目からも血出てるぞ」
「鼻血出ただけだったはずだけど」
ふぇ?どれどれ…あ!ホントだ。
「えーとタオル…」
「大丈夫ティッシュで何とかなるから…」
そう言った瞬間あたしの意識は途切れた。
*****
…あれからどんぐらいたったのかな?
体を動かそうとしても動かない、喋ろうとしても言葉が出ない。
「お!やっと起きたか。体大丈夫か?」
大丈夫じゃないよー。
「お前喋れないのか」
首を縦に…振れてるのか?
「体もまともに動かないのか」
あたしは必死に首を縦に振る。
コンコン
「はい」
「涼くん、りっちゃん起きた?」
医者が来た。
「起きたんですけど、話せなくなって体も満足に動かせないみたいです」
「そうか、やっぱりか」
やっぱりって何?なんなの?
「体がマヒしてるんだよ。一時的にな」
知らない間にあたし毒でも盛られたんですか?
「じゃあ」
「治るよ。ただ、いつとは言えないけど」
「よかった」
「何か心当たりある?人込みで誰かにぶつかったとか」
ぶつかっただけじゃないよ、何か針みたいなので刺された感じがしたんだよ。
もしかしてあの時かな?
「2人で花火大会に行って、やきそばを買って店を後にしようとしたときに六華が人とぶつかりそうになった時があって」
「じゃあその時だ。詳しいことはわからんがこれは天使にのみ有効な毒物で、
全身に回ったら高熱、吐血、鼻血、血涙等の症状が起きるそうだ」
「じゃあ解毒すれば…」
「その必要はない」
「なぜですか?」
「天使は不死や自己修復だけではなく体内で解毒薬を作ることができる。
だからこういう毒物は解毒薬が存在しないんだよ」
「自然回復を待てと?」
「そうなるな」
なんとかして意思を伝えなきゃ…ええっと、スマホは…あった。
メモ帳に文字を打って涼くんに知らせる。
『あたしは大丈夫だから心配しないで』
「でも」
『夏休み潰れるのは残念だけど、今年の分来年楽しもうよ』
「そうだけど、お前はそれでいいのか?」
『嫌だよ!嫌だけど…』
「じゃあ…」
涼くんは何か言いかけたとこで止める。
んーこれはどうしたもんか…。
『これは自業自得だから。あたしが危険因子だから仕方ないの』
「危険因子ってなんだよ」
『んーとね?簡単に言うと力が完全に目覚めたら一撃で日本全土を焼け野原にできるように
なるから要監視ってこと』
「つまりお前は常に監視の目にさらされてるのか?」
『それは違うよ。監視の目にさらされっぱなしだったらこんなこと起きないよ』
「そうか」
『後ねあたしたち天使は天人省からランク毎に決まった金額を毎月貰ってるの。普通は申請が必要なんだけど、AランクからSランクは自動的に貰えるようになってるの』
「幾らくらい?」
『Sランクが月20万で。あたしたちAランクは15万っていう感じで5万ずつ下がっていく感じかな』
「じゃあ中学1年なのに小金持ち?」
『まあそんなとこ』
「そっか天人省って上の政府の出張所みたいなもんだっけ?」
『そんな感じ』
「そっか」
涼くんはそれっきり口を閉じた。
そうだよねこんな重要な事いきなり言われて、はいそうですかって言える人居ないよね。
そんなとき咳したら口から血が出た。
涼くんがティッシュを渡してくれた
『ありがと。少し寝るね」
「おう」
あたしが退院するころには夏休みが終わってた。




