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『  』

『月の王国』。


『連盟』からその全権を取り返したクレアが最初にしたことは様々な引き継ぎと人事である。敵国である『連盟』の行った人事をそのままにしておく理由はなく、クレアはそのほとんどを一新した。『連盟』側はそのままでもいいと言ったが「そこまでお世話になるわけにはいきませんから」と言って断った。となれば早急に人手が必要となる。が、それもすぐに解決した。奴隷商人として世界を回ったクレアの顔は広い。『連盟』のものとも『連盟』に権利を譲渡する以前のものとも異なるものとした。中には『連盟』のものや以前のものも混じっていたがそれは例外ということだろう。


 例の邸宅の主を含める『騎士の血統』にクレアは『王国』に戻ってくるよう頼んだ。そのすべてが『王国』に戻ってくるようだった。『王国』と『騎士』の関係はそれほどまでに深いということだろう。


『連盟』の政策は大きく間違っているものとは言えなかったが、一つ、致命的なものがあった。『教育』である。国家は人の群れ。その『人』をより良くするためには『教育』がどれだけ重要なものかは明白だろう。さらに言えば、『月の王国』の一番の資源は『人』である。その重要性は他国と比べるとより高い。クレアは迷わずに『教育』を一新することに決めた。以前から残っているものもあったがそれも変えた。批判はあるにはあったが非常に少なかった。その理由はこの国の特異性に由来する。


 この国は『王国』である。それもほとんどすべての国民が心から『王』に忠誠を誓っているほどの王国だ。『連盟』に支配されている内も常に『王』を待ち望んでいた。特に『クレア』を。


 クレアは『王族』が敬われる傾向にあるこの国においても特別人気がある存在だった。先王、つまり『連盟』に『買われる』以前の王の評判はあまり良くなかったのである。『月の契り』すら継承していないような王であり、クレアが生まれてからはさらにその評判は落ちていった。『月の契り』を完全に継承した王族は数世代ぶりであったから、国民にとってはまさしく『王の資格あり』と思われたクレアだったが、彼女の父からすれば嬉しいものとは言えない。ただでさえ『月の契り』をまったくと言っていいほどに継承できず、そのくせ『雲隠れ』だけは歴代でも格別のものであったから、周囲から色々と言われて過ごしてきたのだ。結果として、彼は娘に素直に接することができなかった。彼なりに教育してきたつもりだったがそれが実ったとは言い難い。そもそも期待されていなかった彼は廃れた少年時代を過ごしてきたが故に『王政』に関する能力に欠けていた。それでも何とか国家を運営できたことは彼の才能と言う他ないが、そこに『連盟』の手が入った。結果、すぐに王政は瓦解した。これは税収が減ったことによる。『連盟』の手により国民の家計が圧迫されたことにより彼は税を下げに下げ経済を回すことを追求した。が、その成果として税収が上がる前に国家としての体制が維持できなくなり、国家は崩壊した。


 これからもわかるように先王は無能ではなくむしろ有能だったのだが、それが反映されることなく死んだ。病気である。そもそも『連盟』の手が入った時には既に彼は病床に伏せっていたのである。その情報があったからこそ『連盟』は手を入れたと言える。そして彼が死んで間もなく『王国』は崩壊したのである。


 その直後、クレアは王国民にあることを宣言した。


 それは、いつか必ず『取り戻す』ということ。


 いつか必ず、『王』になるということ。


 これに国民は歓喜した。その時のクレアに『王』としての資格があったとは言えなかったが、『カリスマ』という点では絶大の才能を持っていたのである。無論、この『カリスマ』は完全な『天賦の才』ではなく『後天的なもの』ではあるが、それでも絶大のものであることは間違いない。彼女の人気はそれこそ凄絶とさえ言えるものであった。


 そんなクレアが宣言通り戻ってきたのだ。それに対する国民の感情は決まっている。だから、彼女はその内にできることはやっておこうと様々なことをしたのである。


 また、彼女は多忙を極めていたが、同時に国を回っていた。国民一人一人にその姿を見せたのだ。それは『視察』であったが、国民にとってはこれ以上ないほどに嬉しいことでもあったのである。その傍らには魔王の姿もあったが、『月の王国』の民は恐れない。彼らは『魔王』を知っている。『魔王』と『我らが王』の関係を知っているのだ。むしろ彼らは安心した。魔王との関係は未だ深いものであると。この王に付いて行けば間違いはないと。


 その裏で彼女は迷いなく冷徹な政治を実行していた。が、クレアはそういった顔を見せないように努めていた。そういった政治を実行する場合は晶がその『代行者』となったのだ。汚職を繰り返している者たちに『ある選択』をさせた。『死』か『奴隷』か。どちらを選ぶかは決まりきっている選択。結果、汚職をする者は非常に少なくなっていった。


「アキラ」


 クレアが言った。王城でのことだった。


「私は、間違っていないわよね? これで、いいのよね?」


 弱気な言葉だった。晶は言う。


「どうしたんですか、そんな弱気で」

「弱気にもなるわよ。だって、私は一度、間違っているのだから」

「あなたじゃあないでしょう」

「私よ。私が、私さえ」

「クレアさん」晶は言う。「……少し、休んだらどうですか?」


 その言葉にクレアは一度大きく目を見開き、何かを言おうと口を開き、閉じた。そして目を伏せ、ふっと微笑み、顔を上げた。そして中空を見て、呟くように言った。


「……それも、いいかもしれないわね」


 そして、クレアは目蓋を閉じた。

 王城で、玉座で。

『女王』ではなく、一人の『少女』として。

 彼女は微笑みを浮かべたまま、ゆっくりと、目蓋を閉じた。


 晶はそれをただ見ていた。

 微笑みを浮かべ、それを見ていた。


『狂気』の笑みを浮かべ、それを見ていた。


これにてHPSは終了となります。

キャラクター紹介のようなHPSでしたが、次回からはその掘り下げです。

また、キャラクターだけでなく、HPSでは説明不足だった他の箇所に関しても掘り下げていきます。

帝国の他の皇子や他の異世界人、他の国の人々も登場すると思います。

登場人物が多い作品ですが……登場人物の簡単な一覧があった方がわかりやすいでしょうか。

このようなことも自分で判断できない作者ですが、今後とも付き合ってもらえれば幸いです。

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