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戦争 -20-

 晶とレインは一緒に下の階層へ向かった。と言っても、晶によってこの城はほとんど倒壊していたので下も何もないのだが。リリィ、ユクノと、プリミヤ。この戦いは既に終わっているようだった。見るからにリリィの圧勝であった。プリミヤは縛られリリィとユクノはその脇で茶会を楽しんでいたのである。


「私が負けた。今回は退く」


 レインのその言葉にユクノは驚いていたがリリィは驚いていなかった。リリィは言った。


「俺の弟子はどうだった?」


 レインは微笑みとともに言った。


「お前とは比較にならないほどに良い男だったよ」


 リリィは嘆息した。


「趣味が悪いな」


 さらに歩くと未だ戦いを続けている者たちが居た。アブリリウスとボーニャ、スウである。いくつもの瓦礫が浮き上がりそこでボーニャが踊っている。スウの髪が肉体が変形しアブリリウスを襲っている。アブリリウスは魔法も使わずにそれらの対処をしている。アブリリウスとボーニャが笑い、スウが非常に疲れた様子を見せている。


「お前ら、もう終われ」


 その言葉にアブリリウスたちは動きを止めた。スウは首を傾げた。


「どういうことですかー?」

「アキラが勝ったの」クレアが言った。「それで、この戦争は終わり」

「やっぱりアキラは最高ですね」ボーニャが言った。「やはり私の婚約者です」

「ん?」その言葉にレインが反応した。「おい、そこの愚民。私の旦那を何と言った?」

「旦那?」ボーニャは目を丸くした。「何を言っているんですか? ああ、『側室』の方ですか。アキラったら、こんなところでも女をつくって。まったく、英雄色を好むとは言いますが、ほどほどにしてほしいものですね」

「……愚民。お前程度なら今の私でも殺せるのだぞ?」

「あはっ。なら、やってみますか?」


 などというやりとりもあったが何も問題はない。リリィが「晶。お前はやはり変人狂人に好かれるらしいな」と言いユクノが「レイン様に好かれるっていったい……」と言いアブリリウスが「レイン様が惚れた男、か。一度手合わせを願いたいものだな」と言いプリミヤが「理解できんな」と言いスウが「……魔王様のことがあるので私は何も言えませんねー」と言いグシェナが「複雑な気持ちですね……。私もあれに混ざった方がいいのでしょうか」と言いクレアが「アキラ、あれ、止めなさい。『命令』よ」と言った。なお、晶は自分が取り合いになっているという状況には大変気持ちの良いところがあったので止めるのに積極的ではなかったが、クレアの『命令』には逆らえない。しぶしぶ了承し何とか止めた。その際レインが「……本当にお前は囲っておいた方が良いと思えてきたな。これを『終戦』の条件とできないものか」と本気で言っていたことは気になったが問題ない。それに対しまたボーニャが反応していたが省略。


 レインの姿にはほとんどの者が驚いていたがそれだけだった。


「ああ、そうだ」

 レインは言った。

「私が女だということは言うなよ。もし言えばまた『戦争』をすることになる」


 敗者の物言いとは思えないが、そもそも、基本的な立場としては『帝国』の方が上なのだ。レインは理解している。自分たちはここで退くしかない。この軍は『レインの軍』だ。レインの命よりも優先されるものはない。レインの命が危険になった時点でこの戦争は終わらせるしかない。だが、『晶たちもそう』なのだ。レインを殺すわけにはいかない。レインの命を奪っては戦争は止まらなくなってしまう。もしレインを殺してしまったならば『レイン軍』はどうなるかわからない。もし『レイン軍』が『本気』になれば晶たちに止める術はない。晶がレインに勝てたのはあくまでそれが『個』だったからだ。『軍』を相手にできるだけの力は晶にない。いや、超音速で瓦礫を投げるだけで大半を吹っ飛ばすことができる晶からすれば『軍』の方が戦い易いかもしれないが、そう簡単にはいかないだろう。『軍』は『個』とは違う。『レインの部下』が指揮する軍だ。超音速での機動と超音速での砲撃が可能なだけの『ただの兵器』を相手に苦戦するとは思えない。だから、晶たちはレインを殺すわけにはいかない。それをレインも理解している。その上でレインは言っているのだ。『私が女だということを言えば戦争をする』。自分の命を躊躇なく交渉のテーブルの上に置くこの行為ができるからこそのレインだ。『人類最高』を自称するだけはある。


 そのレインの言葉に対してはクレアが言った。

 「なら、私からも一つ。『帝国』ではなく『あなた個人』に要求するわ。『月の王国』と軍事同盟を結びなさい。拒否すれば、レイン。あなたを殺すわ」


 その言葉には迷いがなかった。レインは答えた。

「私を殺せばどうなるかをわかって言っているのか?」


「ええ」

 クレアは言う。

「だって、『あなたは断らない』もの。そうでしょう?」


 レインは静かに笑い言う

「良い。受けよう。内容は?」


「戦争をする時に援護を要求されれば援護しなければならない」

「他と戦争をしている途中だったらどうする」

「もちろん自分を優先する。でも、私は『我が騎士』を出してあげてもいいと思っている」


 それにレインは反応する。

「そうか。なら私も『その程度』は出してやろう」


 そうして同盟は成立した。その後、レインは『伝書鳩』で『連盟』とアブリリウス、ティルアナに『終戦』を告げた。反対はなかった。戦争は終わった。晶たちが『連盟』に戻る際、つい最近見たばかりの顔を見かけた。

「フェブライリス」

 晶は言った。彼は晶を見て驚いていた。

「まさか、ここで君の顔を見るとはな」

「俺も驚きました。まさか『連盟』に捕まっているとは」

「それを言うな」


『連盟』では様々な声が飛び交っていた。完全な『軍』であるレイン軍とは違い『連盟』の中には『戦争』や『軍事』を理解していない者も多いようだった。あるいは単なる『規律』の問題かもしれないが、(たとえレイン軍であっても皆が皆『戦争』を理解しているとは考え過ぎだろう。ただの『一兵士』が『国家単位』でものを見ることができるとは思えない)、『連盟』の中には本当に様々な声が飛び交っていたのである。今回の戦争に対しては賛否両論だったのだ。当然と言えば当然だった。『そもそも戦争をするべきではなかった。今回の戦争で何があったというのか』という声から『せっかく追い詰めたのに逃すとは何事か。こちらは甚大な被害を負ったのだ。帝国にもしかるべき報いを』といった声まで様々だった。それを見て晶は懐かしいと感じた。地球に居た頃によく見た光景だ。特に代替案があるというわけでもないのに批判するために批判する。批判を目的とした批判という本末転倒も甚だしい行為。政治家を自称しておきながらその資格も持っていない『カルト』に染まった人間。前提となる目的が間違っている人間。『より良い結果』ではなく『自分の主張を通すこと』を目的としている人間。国民感情ばかりを気にして『政治』よりも『選挙戦』のことを考え『衆愚政治』に国家を導く人間。『議論』とは何かも理解していない人間。『視点』を持たない人間。……。本当に懐かしい。そして同時に腹が立ってくる。あれにはどれだけ足を引っ張られたことか。今すぐにでも二度と口を開くことができないようにしたいものだ。肉体的にも精神的にも。


「あなたが、アキラ?」


 しかし『連盟』にも優秀な人間は多い。その筆頭とも言えるのがこの少女だった。今回の戦争の最高司令、ニケ。だらしなく伸ばされた長髪。手入れされている様子がなくところどころ絡まりねじれ飛んでいる。癖に癖がついている。眠そうな顔をして床にまで届いている髪はしかし煌めくほどに美しい。彼女はその容姿からは考えられないほどに優秀だった。それは外壁が崩されたはずの『月の王国』を最後まで守り通したことからも明らかである。聞いた話から考えると晶にはニケがどうやって『月の王国』を守り通したのか予想もつかない。


 ニケの言葉に晶は答える。無論笑顔である。美少女だし。むしろにやけている。


「はい。俺は晶です。長野晶。あなたは?」

「私はニケ。そう、アキラ、ナガノアキラ……」ニケはふと思いついたという調子で言った。「聞いたことない感じの名前。それに服も。もしかして、『異世界人』?」


 その言葉に晶は止まった。意味がわからなかった。どうしてそれだけの情報でそんな答えにたどり着く? そんなことはありえない。彼女はいったい何者だ?


「異世界人、なら、レインちゃんを倒したのも、それ、かな? 何か異世界人特有の力を持っていて、だから、できた?」

「……あなたは、何者ですか?」

「私?」ニケは首を傾げた。無邪気に純粋に無垢な目を向け口を開く。「私はちょっと勘がいいだけ。『そうなのかな』って思ったことが『十中八九当たっている』だけ」

「……勘、か」晶は言う。「君の勘は俺が今言いたいこともわかるのかな」

「んー」ニケは気怠そうに宙を見る。そして言う。「私の世話をしてくれるんだったらいいよ?」

「じゃあ是非――」

「って言いたいとこだけど、ちょっと待ってね。シィ」


「は」

 どこかともなく一人の女性が現れた。

「何でしょうか」


「この人が私と結婚したいって」


 晶の首元に刃が添えられた。


「殺しますか?」

「べつにいいけど、たぶん無理。アキラ、たぶん、シィより強いよ」

「この男が……」シィと呼ばれる女性が顔をしかめる。「ニケ様が言うならそうなのでしょうが、非常に癪ですね。このような者に力があるとは、この世界とは皮肉なものなのだと実感します」

「まあ、シィなら、『今』じゃなければ殺せるだろうけど、殺さない方がいい、ね」

「御意」

「で、聞きたいこと、あるんだけど」

「何でしょうか」

「この人と結婚するの、どう、思う?」

「私などが口出しすることはおこがましいと承知の上で言いますが、やめておいた方がよろしいかと」

「そう。なら、ごめんね、アキラ。私、あなたと結婚できない」


 そうして晶の求婚は断られた。最早いつものことだったのでそれに対し何か言う者は少なかった。ただプリミヤだけが「残念だったな」と満面の笑みを浮かべて晶の肩を叩いていた。……実は俺のことが好きで独占したいからよろこんでいるって受け取れないかなあ、と思ったがどう見てもそうは受け取れない。悪意以外の何も感じない。


「では、これからもよろしくお願いします」


 気付くとクレアが『連盟』の人間と話していた。笑顔で話している。約束通り、『連盟』からは『月の王国』の全権を返してもらえることになった。『連盟』とはこれからも深い関係を続けるつもりらしい。その言葉に『連盟』の人間もよろこんでいるようだった。当然だろう。『連盟』の狙いはレインと同じ。『クレアの魔法』。ならばクレアと深い仲でいることは良く働くことだろう。もしかしたら『クレアの魔法』を教えてくれるかもしれないのだから。


「アキラ、帰るわよ。……いえ、あなたにはこう言った方がいいのかしら」


 クレアは晶に手を差し出した。


「ようこそ、私の国へ」


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