戦争 -18-
クレアの手にはいつの間にか剣が握られていた。彼女はその剣で自らの指を切った。その指からぷくと血が溢れ滴となって落ちていく。
「これを飲みなさい、アキラ」
クレアは言ってその指をアキラに差し出した。
「そうすれば、『月の契り』は完了する」
その指を前に晶は一瞬だけ迷った。今のクレアさんに従ってもいいのか? しかし、それ以外に何ができる。『月の契り』で何が変わるのかは知らされていない。だが現状を打破するものだということは明白だ。クレアは今まで自分の力を隠していた。それはレインに殺されないためだ。もしクレアが自らの才能を最初から表していたならばレインはまずクレアを殺しに行っただろう。おそらくは唯一その魔法を扱えるクレアをレインは殺した。戦争までして欲する魔法の使い手が有能なのだ。これを自らの脅威と見なさない人間がどれほど居るか。ただでさえレインは『世界征服』を目的達成の手段としているのだ。クレアがこの障害にならないと考えるわけもない。だから、クレアは『バカ』を演じた。自分が死なないために。『自分』という存在の重さを知るからこそ、自分が狙われないために愚を演じたのである。
そして、今。クレアは晶に『月の契り』とやらをしようとしている。このような状況になって初めてやるということはもともとする気のあることではなかったのだろう。クレアには何らかの理由があったのかもしれないが、それを晶が知るわけもない。
しかし、ただひとつ、事実がある。
クレア。『王』の才を持つクレア。彼女が『今』それをする。
ならば、『月の契り』には意味がある。
現状を打開するだけの意味が。
レインを倒せるだけの何かが。
「……では、失礼して」
晶はクレアの指を口に含んだ。そして、その血を、飲んだ。
「ナガノアキラ。我が騎士と成り、我が剣と成り、我が盾と成る覚悟はあるか?」
クレアが言った。芝居がかった調子だった。晶は同様に芝居がかった調子で言った。
「我が身は主の剣であり盾。騎士となりて我が全てを捧げましょう」
「ならその見返りに『力』をやろう。我が騎士よ、我が剣よ、我が盾よ。私が許す。『全力を出せ』」
その瞬間、晶は『月の契り』の効果を理解した。そうか、『これ』は、こういう……。
晶は騎士のように跪き、言った。
「仰せのままに、我が主」




