戦争 -14-
晶の攻撃はそれで終わらない。呆然と驚愕で顔を染めながら口から血を流すレインが正気を戻すことすら許さず追撃する。レインの全身は晶の拳にふっとばされようとするが、晶はその背後に『足場』を形成。晶の全力の蹴りをすら反発する足場。レインはそれに当たり、『足場』が『作用』しレインは『反発』、晶はもう一度殴り、さらに『足場』を形成し、蹴り上げる。そしてまた『足場』を形成するが、それはレインに当たる瞬間、雲のように消え、レインは吹っ飛ぶ。晶は自らの足元に『足場』を形成し蹴り追撃しようとするがレインの攻撃を察知し軌道を変え、床に当たる。瓦礫が生まれ晶はそれを掴みレインに投げる。瓦礫はレインに当たる前に粉々に砕けるが晶により音速を遥かに超える絶大な速度を得た瓦礫は粉々の破片になってなお絶大な威力を発揮する。レインの全身を散弾の如き衝撃が襲う。レインはそれでも何とか姿勢を戻し、床に立つ。
「……まさか、ここまで躊躇がないとはな」
レインが言う。彼女は間違いなく満身創痍だった。全身から血を流し腹部を押さえている。晶は間違いなく骨を砕き内臓を潰した。『それなのに立っている』。経験上、そのような人間を見たことがないわけではない。しかしこれが異常事態であることは間違いない。内臓がぐちゃぐちゃになり骨さえ砕いた。『背骨』を砕いた。それなのに『立っている』のだ。『足』を動かしている。さすがにそれは見たことがない。人体の構造上不可能な動きを今、レインはしているのである。それを前に平然としていられるはずがない。
「俺としては、どうしていきなり君が驚いているのかがわからないな」晶は言う。「ちょっと『外見』を変えたくらいで、俺の目が誤魔化せると思っていたのか?」
「……ほう」
レインは笑みを浮かべる。悪魔的な笑みを浮かべる。『魔王』の如き笑みを浮かべる。
「素晴らしい。素晴らしいぞ、愚民。いや、『ナガノアキラ』。お前はリリィとは違うな。本当のバカだ。本当の本当のバカだ。気に入った。気に入ったぞ」
彼女は満身創痍だったはずにも関わらず腹を押さえていた手を離し魔法で血を拭う。
「アキラ、お前、美女のために生きているのだろう? 私は美女ではないということか?」
「いや、極上の美女だよ。俺が今までに見てきた中でも最高級だ。だが、俺はそんじょそこらの『似非フェミニスト』とはわけが違う。真に美女のためを思うなら、殴ってでも『正しい道』へと『更生』させなければならないだろう?」
「ははっ」その言葉にレインは笑う。「アキラ、お前、私にあのようなことを言っておきながらそんな理論を吐くのか。お前の理論もずいぶん異常だぞ」
「それは俺が『特別』だってことかな? 嬉しいなあ」
「その通りだ。お前は特別だよ」
「異世界人だからかな」
「それもあるがそれだけじゃあない。実際、私はリリィにはそういった感情を抱かなかったからな」
「そういった感情って?」
「そいつの子を産みたいという感情だな」
「へえ。それは俺を誘ってくれているという認識でいいのかな?」
「ああ。私の天才とお前のバカ。これが組み合わされば最高の子が産まれるだろう?」
「悪いところが合わされば?」
「私の子だぞ、そのようなことはありえない」
「じゃあ、それを約束するから、今日はここで退いてくれるっていうのはどうかな」
「それはむしろ私の言葉だ。お前、私の種馬になれ。私に降れ。待遇は最良のものを約束する」
「残念ながら、それは無理な相談だな」
「お前のも、な」
「でも、これで君は絶対に俺を殺さないと思っていいのかな。それじゃあ俺が圧倒的に有利になるが」
「ああ、殺さない。まあ、生殖機能だけ残せばそれでいいんだがな」
「あっはっは。こわいことを言うなあ、君は」
「本心だ」
「だろうね」
晶とレインの会話はとても殺し合いをしている者同士のものとは思えなかった。そんな彼らの間には間違いなく愛情があった。晶はもちろん、レインも。殺し合いをしているにも関わらず、会ったばかりにも関わらず、晶とレインの間には確かな愛情があったのである。彼らの不思議な関係はおよそ常人に理解できるものではなかったが、それでも一目見ればすぐに彼らの間には確かな愛情があるということがわかるようなものであった。不思議で奇妙で異常な関係。片や美女を見れば誰とも構わず求婚する男、片や世界征服による世界平和を望む女。二人の異常者の異常な関係。
「では、アキラ。覚悟しろよ?」
レインは悪魔的な微笑みを浮かべた。
「久々に、本気を出す」
風が、吹いた。
「一つ、頼んでおこう」
レインを中心にして、風が起こる。
レインを包むように、風が、起こる。
「簡単に死んでくれるなよ?」
魔法が発動する。
超極大の魔法。
暴風魔法。
フェブライリスの『魔嵐』。
それを遥かに超える嵐。
風の壁。
暴風の壁。
圧倒的なまでの暴風域。
「……おいおい、これ、どういうことだよ」
晶が呟く。
ちょっと、これは、さすがにまずい。
レインが天才だということは知っていた。
だが、まさか、ここまでか。
「……さすがに、『天災』を相手にしたことはないぞ」
晶の目前にはまさしく『嵐』があった。




