戦争 -15-
実際のところ、レインが使った魔法はそこまで異常というわけではなかった。
その『規模』を除いて。
レインの魔法は一瞬にして天井を吹き飛ばし周囲のすべてを飲み込み粉砕した。レインを囲むように巻き起こるその風はまさしく『天災』と言うべきものであった。
しかし、その中でも晶は何とか無事でいられた。音速をも超える速度。それを耐える肉体の晶はレインの『天災』をすら耐えることができた。それでも無効化とまではいかないが。
「アキラ、これで邪魔は入り難いぞ? 存分に楽しむとしよう」
「……それ、ベッドの上で言ってくれたら最高だったんだけど」
「なら言ってやろう。お前が私のものになった後にな」
嵐の中から魔法が放たれる。晶はそれを避けるがこの暴風域の中ではさすがに動きが制限されてしまう。そしてきっと、レインは『それすら計算している』。晶の動きを妨害できる最適の方向で最適の力でこの『暴風域を制御している』。それでいてその威力が軽減されることはない。これは異常なまでに精密な技術を要するものであった。ある意味でリリィのものをすら超えていた。
「おいおいどうした? 動きが鈍いぞ? 動き難い理由でもあるのか?」
「ああ。ちょっと興奮し過ぎて股間がね」
「それなら構うな。どうせ股に入れるものだ」
「おお、それはかなり興奮する言葉だね」
「出すなら股の中にしろ」
「あっはっは。もしかして俺、本当に種馬としか見られてない?」
「どうだと思う?」
晶はさらに魔力を肉体に流し込む。もっともっと強く強く。力だ、力が要る。レインに勝つためには今のままじゃダメだ。まだ足りない。まだ足りない。まだ足りない。きっとこうして喋っていることが時間稼ぎだということもレインはわかっている。しかしわかっていてなおレインは話に興ずるのだ。その程度の時間は与えてやろうと。いくら考えても彼我の差が縮まることはないと。万が一縮まったとしてもどちらが上かは変わらないと。あるいはレインも余裕を気取ってはいるが実は満身創痍なのかもしれない。それを回復するための時間を要しているのかもしれない。それだからこうやって時間稼ぎをしていることはレインにとっても好都合なのかもしれない。しかしそんな仮定に意味はない。そんな願望に意味はないのだ。今はただ、この状況を打破するための策が、力が必要だ。そしてこの世界ではそれができる。地球ではできなかったことでもここでならできる。力を得ることができる。あの時とは違うんだ。あの時のようなことを繰り返さないことができるんだ。そのために、もっと、もっと力が。力が、欲しい。
「アキラ」
背後から声が聞こえた。直後、レインが晶に向かって放った魔法がすべて相殺される。
「今すぐ、クレアのところに行って下さい。ここは私が引き受けます」
グシェナだった。髪の色を白にしたグシェナがそこには居た。
「でも」
「いいから」グシェナは晶に笑いかける。無理をした笑いを向ける。「お母さんのことが、信じられませんか?」
「……ずるいな、君は」晶は言う。「ここはお願いするよ、お母さん」
「任せろ息子よ、です」
晶は地を蹴り後退。入れ替わるようにしてグシェナが前に出る。レインの暴風域の中に居ながら平然と立っている。
「……『全魔』、か」レインは言う。「やはり殺しておいた方が良かったか」
「そうですね。あの時なら、私はあなたに手も足も出ませんでしたからね」グシェナは言う。「でも、今は違います。『全魔』たる私を一度でも逃した時点で、あなたにはもう負けません」
「そうか」レインは笑う。「愚民如きが、この私に勝てるとでも?」
瞬間、魔神の如き殺気がグシェナを襲った。
「……格好つけすぎちゃったかもしれませんね」
グシェナがぼそりと呟いた。




