戦争 -12-
プリミヤの髪が炎のように揺らめいた直後、リリィは違和感を感じ取り即座に魔法を止めた。
「どうした?」プリミヤが笑みを浮かべる。「もうしないのか?」
「ユクノ」無視してリリィは言う。「あれの髪が揺らめいた瞬間、あれに使っていた魔法が消えた。何故かわかるか?」
「そうッスねー」リリィの腕の中でユクノは指を顎に当てて考える。「もうちょっと詳しくわからないッスか?」
「なら試そう」
リリィは魔法を使った。プリミヤの肉体に触れた瞬間に消える。しかしレインを相手にした時のとは違う。
「そうだな、魔法があれの肉体に達した瞬間に消えている。達したところからその消滅がじわじわとこちらに向かっているような感覚もあった。また、見えているところと魔法で触れたと思った肉体がずれていた」
これは普通ならわからないほどに詳しい説明であった。常人なら魔法がどのようになっているかを把握することさえ難しいのだ。しかし指と爪の間に針を刺すような魔法を扱えるリリィは恐ろしいまでの精密性を有していた。それだからここまで精密な分析をすることが可能だったのである。
そしてその情報からユクノは答えを導き出す。
「そうッスねー、なんか炎みたく揺らめいているんで、『魔法を燃やしている』とかじゃあないんスか?」
プリミヤの表情がぴくりと動いた。図星だろう。
「おっ、適当に言ったら当たっちゃったみたいッスね。ラッキーッス、やっぱり日頃の行いが良いからッスかねー」
その言葉にプリミヤは怒りで表情を微かに歪める。自身への怒りとユクノに対する怒りだろう。無論、それはユクノが狙ってやったことだろう。ユクノは適当に言ったわけではない。何らかの確信を持って言ったのだ。
「『魔法を燃やす』、か」リリィは言う。「そんなことができるのか?」
「実際にできているんスからそれを議論する必要はないと思うんスけど、まあ、レイン様が言っていたこともあったッスからね。『私には合わない』とか言ってたッスけど」
「そうか。なら、魔法は効かないと考えた方がいいのか」
「魔法だけじゃないと思うッスよ?」ユクノが言う。「あれ、たぶん自分の肉体そのものを魔法にしているッスよ。自分の肉体を『魔法を燃やす炎』に変えているって感じッスかね。それで、『炎』だから魔法以外の攻撃も効かないと思った方がいいッスよ」
その言葉にいちばん驚いているのはプリミヤのようだった。そこまで見抜かれているのか。そう思っていそうな表情だ。しかし、表情に出過ぎているな。リリィは思う。それだけで答え合わせになる。
「自分の肉体を炎に、か」リリィは言う。「まるで魔族だ」
「たぶんハーフッスね。魔族じゃあなく、半人半魔。そういう人はこういうこともできるみたいッスよ」
「まるで誰か知っているような口振りだ」
「あはは。それは言えないッス」
ここでリリィが『まるで魔族だ』と言ったのは先程の魔法で少なくとも『魔族ではない』ことはわかっていたからだ。魔族と人間では感触が微かに違う。既に試した。しかし半人半魔などという存在とは戦ったことがない。これが初めてだ。リリィは戦闘狂というわけではないから何も楽しいとは感じず、しかし必要以上の恐怖を覚えることもなく、ただ純粋に分析を始めた。未知が脅威であることに変わりはない。ならばどんな感情よりも先にその対処を考えるべきなのだ。
と言っても、今回は『対処』と言うほどのものでもないが。
「プリミヤとか言ったか。一つ、教えておいてやろう」
リリィは言った。
「俺は晶と『同じ』だ。あれだけの肉体強化の魔法を使える晶と。この意味がわかるか?」
「じゃあ、私も教えておいてやろう」
プリミヤは言う。
「お前らの言葉はすべて正解だ。しかし、それでも私に負けはない」
「もう負けているのに、か?」
「まだ負けていない」
「お前が相手にしているのは無限だぞ?」
「お前がしようとしていることは火に油を注ぐ行為だ」
「あまりにも大量の油であれば火は消える」
「ならばそれよりも大きな火を起こせばいい」
「お前にできるか?」
「できるさ。それに、そもそも」
プリミヤの全身が揺らめき燃えた。人の形をした炎となり、そこを発火点に火が広がる。
「私が防御だけをするはずもないだろう?」
それにリリィは笑う。
「『誤った』な、バカが」




