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戦争 -8-

『月の王国』、首都。


 王城、その玉座に一人の少女が座っていた。玉座の上に三角座りをして魔法を用いて机上の地図に丸を描く。


「……たぶん、ここらへんから、来る」


『連盟』軍総司令の孫娘、ニケ。孫娘に甘い総司令が許したことで今回の戦争において全権を有している少女である。


「小隊。あの、確か、最近、フェブライリス、だったっけ? 彼をレインちゃんが手に入れたっていう話だから、たぶん、今回、使ってくると思う。レインちゃんの性格から考えると、たぶん小隊を引き入れてテスト、みたいな感じだと思う」


 だらしなく伸ばした長髪は玉座の下にまで至っていたが、それからは考えられないほどに美しく煌めいていた。

 だがいくら容姿が優れていてもこのような少女を認められる人間は少ない。ここに居る人間はそうだった。そもそも『連盟』軍に自国の優秀な軍人を送るような国家は少ない。誇りのために勝利を捨てるような老害ばかりがそこには集まっていた。


「そのようなことは信じられない。何より論理性に欠ける」


 その老害の一人が言った。ニケのような少女の言葉は信じられないという前提があるから、ニケの言葉がどれほど聞き入れるに値する言葉であったとしてもそれを否定するための論理を積み上げる。老害も老害であろうとして老害であるわけではないのだ。彼らも論理的であろうとはしている。しかし先入観のせいで前提が壊れてしまうのだ。論理が逆転してしまうのだ。


 今回のニケの言葉、そこに論理性が欠けていることは事実であった。『たぶん』なんていう言葉を多用しているその言葉のどこに論理性があるというのか。そういったことを考えたからこそこの老害はニケの言葉を否定したのである。


 しかしここには論理の逆転が生じていることに気付いているだろうか。まず『否定』が存在し『否定』を目的に論理を積み上げているのだ。議論する気などないのだ。それだからこの意見が『本当』だった時の可能性を考えられない。


 もしこの意見が正しかったならば何が起こるかを考えられないのだ。


 ニケ以外の者たちは皆ニケを否定していた。それが何を引き起こすかも考えられない。


 ただ、ニケは違う。


「そう。私の意見、受け入れられないの」


 ニケは言った。


「あなたたち、やっぱり、邪魔、だね。シィ」


「は」

 ニケのすぐ横に一人の女性が出現した。

「この者たちを殺せばよろしいのですか?」


「ううん」

 ニケは首を振る。

「洗脳して。手段は問わないから」


「御意」


 直後、その女性の姿が消え、男たちが糸の切れた人形のように倒れていった。


「それと伝令。さっき示した地点に兵を。あと優秀な人も――って、あ、そうだね」


 ニケは倒れていった男たちを見る。


「洗脳、終わったら、この人たち、出して。死んで、いいから」


「御意」



      *



 フェブライリスは『月の王国』の首都の間近にまで迫っていた。彼がしようとしていたことは単純。ただの『侵入』である。

 フェブライリスが侵入する時に思ったことは『やはり』であった。予想通りここには多くの人員が配備されている。しかしフェブライリスは『ニケ』の名を知っている。あちらは覚えていないかもしれないがフェブライリスは知っている。『ニケ』。彼女は紛れも無く天才だ。レイン軍の『ユクノ』、彼女も天才であることは間違いないだろうが実際にどのような戦術を駆使するのかまでは知らない。しかし『ニケ』のことはその才能は痛いほどに思い知らされた経験がある。フェブライリスが軍人から退いてすぐ、領主の地位を得てからすぐのことである。フェブライリスはとある軍事演習に参加することになった。その時、相手には『ニケ』が居た。その時の『ニケ』は戦神に愛されていると言う他なかった。予知に匹敵するほどの先見。定石であっても定石から外れていても関係ない。すべてを見てきたように察知し対処するのだ。人の枠を外れた存在。人の枠を超越した存在。超越者。確実に彼女はその一人であった。


 だからフェブライリスは自分の行動は『見抜かれている』といことを前提に動いていた。少なくとも自分がレイン軍に所属していることは予測されている。その上でレインに小隊を任されこのように首都に侵入しようとしていること、いやそれすら超えて『どこ』から侵入しようとしているのかさえ察知されていると考えた方が良い。その方法などについてはまったく予想もつかないが、あの時のことを考えると『ニケ』なら十分にあり得ると考えていい。


 その結果、フェブライリスは『そのさらに裏をかくこと』を選んだ。


 それは単純なことだった。


 自分の策が知られているのなら、『自分が絶対にしないようなこと』をすればいい。


「風よ、嵐よ、魔の流れよ。大気に溢れし魔の流れ、我が身から溢れる魔の流れ、魔よ、魔よ、従え、我に従え。我が魔に従い大気よ流れよ。風よ起これよ。嵐よ起これよ。吹き荒れ吹き荒れ吹き荒れよ。魔の風よ、魔の嵐よ、その名は魔嵐。魔の嵐。すべてを巻き込み破壊し滅ぼす。すべてを飲み込み砕きに砕け。其は魔嵐。森羅万象の粉砕機。我が命に従い敵を滅せよ」


 フェブライリスの詠唱。


 それにより、魔法が発動する。


『魔嵐』。


 フェブライリスの扱える魔法の中で最大の魔法。


 フェブライリスはしばしば『風』の魔法を使うが、これにはもちろん理由がある。『風』の魔法。それは非常に効率が良いのだ。魔力は大気に満ちている。大気に満ちる魔力に干渉することによって魔法が発現する。ならばその満ちている大気に干渉するような魔法こそが最も効率が良いと考えることは自然なことであろう。実際はそうでもないのだが、『そう思うこと』こそが魔法においては最も重要なことなのである。つまり、フェブライリスが『風』の魔法を『最高効率』だと思っている限り、フェブライリスにとって『風』の魔法こそが『最高効率』なのである。


 そして『魔嵐』はすべてを飲み込む。


 待ち構えていたすべての敵兵を飲み込んでいく。


 フェブライリスが絶対にしない方法。

 それは『真正面から無策に突っ込む』である。

 普段のフェブライリスであれば絶対にしない方法である。

 そしてだからこそ今回においてだけは最善の策なのである。


 初撃に最強の魔法を。さすがにティルアナの『破壊の槍』ほどではないにせよ、それは結構な威力を有する魔法であった。そして初撃に最強の魔法を使うことは定石である。初撃ということはそれまでの時間、十分な詠唱時間、術式構成時間があるということである。さらに今回のような場合は奇襲という形になる。奇襲で最強の魔法。これが有効でないはずがない。


 事実、これは非常に有効だった。


 そこに隠れていた兵たちのほとんどを巻き込み飲み込み殺していた。


 だが。


「ニケ様からの伝言だ」


 とある老人が言った。満身創痍といった様子だった。フェブライリスの『魔嵐』に巻き込まれたのだろう。そのあまりの暴風に巻き込まれた結果、彼の内臓はぐちゃぐちゃになり目から口から全身のすべての穴という穴から血を垂れ流し骨は折れ肉は潰れいくつかの骨が肉を脂を皮を突き破っていたが、それでも彼は一切の痛みを感じていないようにして無表情に冷静に、地球に居た者ならば『機械のよう』と言うだろう様子で、言ったのだ。


「『それも読んでいる』」


 直後。


 フェブライリス率いる小隊の全員の意識が闇に落ちた。



      *



「あー……フェブライリス、落ちちゃったんだね」


 ローブの下にラバースーツのようなものを着た生粋の研究者、ミクリスが言った。


「まあ、レイン様に『あれ』を命令された時から気付いてはいたけれど、やっぱり、『軍』の方じゃあなかったか」


 ミクリスはレインにある命令をされていた。『フェブライリスを死なせるな』。そんな命令。レインは最初からフェブライリスを『軍』に所属させる気はなかったのだ。あの『魔嵐』を見るに魔法が下手というわけではないし一騎当千程度の力は持っているのかもしれないが、あの程度なら自分でもできる。というか、あの程度の『魔嵐』にあれだけの詠唱を要している時点で『人の枠に居る』ということがわかる。良くてその延長だ。戦力としては期待できない。少なくともレイン軍には必要ない人材だ。


 フェブライリスは『政治』の方面に使うつもりだろう。そういった雑事を任せるため、だろうか。今までは面倒事はユクノに押し付けていたが、とうとうその後継者が来たようだ。ユクノはよろこぶだろうなあ。ミクリスは思う。私は割りとどうでもいいけれど。


 ミクリスは基本的に研究以外に興味がなかった。レイン軍の面々は嫌いではないしむしろ好きだが、戦争や政治などの『雑事』にはまったく興味がなかったのである。そういった政治家やら何やらの下で研究者は働き、その成果の一つである金銭的利益を最も得る者は上の研究に携わらない者たちである。これを見て研究者は資本家の下で働く労働者たちと同じく奴隷のようなものと言う者も居るがこれは筋違いで、ミクリスはむしろ『資本家』こそが自分たち研究者の『奴隷』であるという見方をしていた。自分は好きなことを好きなだけ出来る。そのための材料集めなんかを勝手にやってくれるのだ。これを奴隷と言わず何と言う。金は取られるがミクリスに金銭的欲求はない。ミクリスにあるは知的欲求のみである。生粋の研究者、それがミクリスなのである。


 レインに対して敬意を抱いてはいるが、それは研究者としてである。もしもレインがただの皇子であったら彼女は一切の敬意を払わなかったであろう。外面上の敬意だけで内面上は奴隷を見るようにして見ていたことだろう。しかし、レインは研究者であった。天才であった。そんなレインに対してはミクリスすらも敬意を抱かずにはいられなかったのだ。


 ミクリスは思う。

 フェブライリス、私はあなたなんてどうでもいいけれど、レイン様があなたを死なせないことを命令するのなら、私はそれに従うまで。


 だから。


「『死なないようにしてあげた』んだから、感謝してよね」


 ミクリスはくすくすと笑い、街の外に出た。


 さて、ちょうど『準備』も終わったし、これからは。


「楽しい『実験』の時間ね」


 ミクリスは地面に魔力を流し込み、術式を展開した。


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