戦争 -6-
武人。
それは晶が最も苦手とする相手の一つである。
晶は『武術を極めた者』を『武人』と呼ぶことにしている。そしてそういった『武人』は時に軍隊以上の脅威となる。自らの肉体だけで敵を打ち倒す。人間の枠を超えた超越者。それが武人。相手がどれだけ強くとも関係ない。相手がどのような武器を持っていても関係ない。『武術』とは『弱者が強者に勝つための術』である。そしてそういった相手と今の晶は非常に相性が悪かった。
単純な身体能力で言えば、晶はアブリリウスを遥かに超える。アブリリウスが自分と同じように地球から来たというわけでもない限りは確実にそうだ。そもそも身体能力を向上させる魔法は常人には出来ない。晶が持つ絶大の魔力変換効率だからこそできる異常なのだ。
だが、それでは『武人』には勝てない。『術』で『強者』を打ち倒す術を極めた存在。それが『武人』だ。
故に、晶はアブリリウスには勝てない。
そう、『晶は』。
*
「……む」
アブリリウスが顔をしかめた。その原因は彼の目の前に立った二人の少女の存在だった。
「この人は私たちが相手しますー」
スウが言った。
「だから、マスターたちは先に行って下さいー」
「アキラ」
ボーニャが言う。
「行って下さい。あなたはこの人と戦いに来たわけじゃあないはずです。あなたはこの戦争を終わらせに来た。だから、ここは私たちに任せて、この戦争を終わらせて下さい」
その言葉に晶は一瞬で様々なことを考えた。
結果、晶は彼女たちの言う通りにした。晶たちはアブリリウスを避けるようにして進もうとする。
「通すと思うか?」
そこをアブリリウスが阻む。
だが。
「思いませんがー」
アブリリウスの脇に髪が襲いかかり彼を弾き飛ばす。
「通させるので意味はありませんよー?」
「この程度で」
弾き飛ばされたアブリリウスは即座に体勢を戻し床を蹴ろうとする。
「この程度で無理なら」
そしてアブリリウスが床を蹴ろうとして触れた瞬間、その床がふわりと浮かび上がる。
「これでどうですか?」
「貴様……ッ」
アブリリウスはボーニャを睨む。褐色の身体に刻まれた術式が発光している。
「この、程度でッ!」
「だからー」
突然の浮遊感に驚きながらも一瞬で正気を取り戻し浮遊する床を蹴ろうとしたアブリリウスの腹に髪の束が襲いかかる。
「通させると言っているでしょうー?」
そしてそう言った瞬間、スウははっとして髪を分離させる。同時、直撃した『フリ』をしていたアブリリウスがスウの髪を引っ張っていた。
「惜しいな」
暴力的な笑みを浮かべてアブリリウスが言った。
「しかし、面白い。外見だけで判断してはならないと知っているはずなのだがな」
「それは」
ボーニャが無邪気に首を傾げる。
「ここで大人しくしておいてくれるということですか?」
「ああ」
アブリリウスは晶たちの背中をちらと見て追いつけないと判断しうなずく。
「ただし、その間、俺と遊んでもらうがな」
「わ」
ボーニャが手を合わせる。
「何して遊ぶんですか。楽しみです」
「ボーニャ……」
スウがはあと肩を落とす。
「たぶん、この人は戦闘狂ですよー? そんな人の『遊び』が何か、わかるでしょうー?」
「ああ」
ボーニャは破顔する。
「『殺し合い』ですね。結構久しぶりかもしれません」
「まあ、ボーニャはマスターに止められていましたからねー」
スウは言う。
「危険過ぎて」
「ほう」
アブリリウスの顔が大きな笑みで歪む。
「それは楽しみだ」
「……やっぱり戦闘狂さんですねー」
嘆息してスウが言う。ボーニャは愉快そうに笑みを浮かべている。
「名を、聞いておこうか」
アブリリウスが言った。それは礼儀だった。武人としての礼儀。『今から殺す者の名』だ。聞いておかなくてはならない。
「名前、ですかー」
スウが言った。
「では、名乗りましょうー。私の名はスウ。『魔王の子供たち』が第三位、スウですー」
「では私も」
ボーニャが言った。
「私の名前はボーニャ。『煉獄』出身、ボーニャです」
その二人の名を聞いて、アブリリウスは笑みを深めた。
『魔王の子供たち』。
それは魔王が直々に戦いを教え育てたと言われる魔族の精鋭。
『煉獄』。
そこは過酷な砂漠であり死の溢れる場所。そこに『行ったことがある』のではなくその『出身』ということは、『煉獄』に住むという民族の者ということ。そのすべてが異常なまでの戦力を有しているが故に少数民族であるにも関わらず一国の『軍』に匹敵するという者たちのこと。
つまり、相手にとって不足はない。
「素晴らしい」
アブリリウスは言った。
「これは非常に楽しめそうだ」
「私は楽しくないですがー」
スウが言った。
「まあ、楽しませてあげますよー」
「私は楽しいです」
ボーニャは言った。
「一緒に楽しみましょう!」
そして。
戦闘は始まった。




