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戦争 -5-

 アークリンド隊が焼いた敵兵たちのほとんどは投降しなかった。帝国の悪名を知っているからこそだろう。彼らのほとんどは満身創痍になりながらも逃げ出した。見逃す帝国を不思議に思いながらも逃げ出した。これを『帝国の優しさ』と判断する者も居た。しかしこれが優しさであるということなんてありえない。先述の通り、『そちらの方がダメージを与えられる』というだけのことである。あれだけの数の傷兵を抱えればどれだけの手を割かれるか。

『連盟』はすぐに帝国の真意を理解するだろう。しかし治療しないわけにはいかない。『戦争』をしているにも関わらず道徳や倫理を語らなければならない。それは『連盟』の『失敗』だ。外面的にも内面的にも良く見せ過ぎた。『帝国』を『悪』とするためには『連盟』は『正義』でなければならない。傷兵を切り捨てるという『帝国』のような行為をするわけにはいかないのだ。道徳や倫理、正義を振りかざすことによって『帝国』を悪として民を見方につけ士気を上げ攻撃する。定石とも言える手だ。しかし、帝国は、レインはそれすらも利用する。一切の『情』を排することで相手に『恐怖』を与えるのだ。どれだけの嫌悪で憎悪で正義であってもそれを塗り潰すほどの恐怖を与える。

 おそらく『連盟』はそれすらも『正義』でもって上塗りするつもりなのだろう。しかしそれは悪手だ。異常な『正義』は『盲信』へと繋がる。恐怖を失った兵に正常な判断はできない。恐怖をなくしてはいけないのだ。恐怖はありすぎてもいけないがなくしてもいけないのだ。こと『戦争』において、それは非常に重要な事実である。死を恐れない者は利用価値も高いが、それは『死を恐れない戦い』を知る者にだけ通用することである。死を恐れない者には特攻を命じることができる。死を恐れる『常人』が『特攻』するほどの覚悟を持った時とは比べることもできないが、死を恐れない者でも特攻すれば結構な効果が期待できる。しかしそれは『そういう戦い』を知る者にだけ有効なのだ。死を恐れる常人が学んだ『戦い』と死を恐れない者がする『戦い』はまったく別の何かなのだ。死を恐れない者がする『戦い』。それは『兵』も『民』も同じだ。一般的な訓練を受けていても『受けていなくても』同じなのだ。つまり、『民』を『戦力』に変える時にこそ最大の効力を発揮するはずの戦法。それが『特攻』。

 それなのに『連盟』は『兵』にそれをさせようとしている。しかも『正気』を失わせて、だ。これでは『兵でない者』を『特攻』させる時と同じような効果しか得られない。いや、それ以下の効果しか得られないと言っていいだろう。

『正気』ある『兵』の『特攻』。それは非常に恐ろしいが『正気』なき『兵』の『特攻』は予測出来るという点で対処は容易だ。『民』を、何も知らない少女などを使ったならばさすがの『帝国』も被害を受ける可能性はあるが、『連盟』にそれができるはずもない。もしそういった想定すら予測してそれを突くためにここまでの『正義』を掲げていたならば想定外と言う他ないが、そのようなことはないだろう。

 そういったすべてを予測しているからこそ、理解しているからこそ、アークリンドは見逃した。そのような冷徹な思考をもってこそ、『勝利』だけを求めているからこそ、アークリンドは見逃したのだ。

 これがアークリンド。

 愚直に冷徹に『勝利』だけを追求する『戦神』の一人。

 レイン軍『第二』である。



      *



 情報から帝国は『月の王国』の首都の間近に迫っていることを知った。『連盟』は首都にこそ戦力を集中していたらしくこれからが本番だという調子のようだ。そして今回の帝国軍の最高司令であるという人間は首都近郊の都市に入ってから出るところを見ていないという情報からその都市に待機していると思われる。晶はそこに向かうことを決めた。魔動車を全力で動かしてその都市に向かう。警戒されていることは明白であるがそれはグシェナが対処した。それによって晶たちの存在は感知されない。


 数時間後、その都市が見えた。魔動車は止まらない。しかし都市に入った瞬間、グシェナは驚き慌てた様子で言った。


「魔法が消されました! 見付かります!」


「了解」晶は言う。「じゃあ、手はず通りに」


 晶は全身に魔力を溢れさせ魔動車から降りる。そして魔動車を持ち上げる。


 投げる。


 尋常ではない速度で魔動車が投げ出される。乗っている者たちは魔法によって慣性力を出来る限り打ち消している。しかし魔動車の方が耐えられず途中で軋みを上げ始める。魔動車が壊れるほどの速度。それはそれほどの速度であるが故に瓦解する前に目的地に到着する。砲撃のように最高司令が居るはずの場所、都市の中央に位置する城へと着弾する。晶は晶で地を蹴り尋常ではない速度で走り魔動車とほとんど同じくして到着する。


 しかしそこには、信じられないことに、ほとんど兵が居なかった。着弾して出たその場所には、たった一人だけ、男が居た。


「ほう。面白い、面白いぞ侵入者ども!」


 猛々しい黒髪に歪なほどに鍛え上げられた筋肉。『戦闘』だけを目的として鍛え上げられた筋肉。晶は一瞬でそれを見抜いた。と言うより、彼のような人間は地球に居た頃にも見たことはあったのだ。『武人』と呼ばれる類の存在。晶は感じた。こいつはやばい。俺では勝てない。俺とは相性が悪すぎる。


「我が名はアブリリウス。レイン様の側近であり護衛だ」


 アブリリウスは凶悪な笑みを浮かべた。


「さあ、楽しませてくれよ?」


 晶の額に汗が滲んだ。


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