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戦争 -3-

『移動城壁』とは文字通り『移動する城壁』のことである。

 はっきり言って、単に『城壁を急造する』くらいならばティルアナでなくとも可能だ。

 ティルアナの『移動城壁』の真髄、その異常たる所以は、『移動』にある。


 つまり。


「全軍、前進」


 ティルアナは言った。その言葉にティルアナ隊の魔動車が動き始める。一斉に魔力が循環し車輪を回し轟音を響かせ始める。車輪は回転する。回転数が上がる。加速する。舗装などされていない道を『ならす』ようにして進んでいく。加速する。加速する。加速する。魔動車は馬車よりも軽いがこれだけの速度ともなれば当たるだけで重傷を負うことは間違いない。前方の兵士たちは、しかし、今こそが好機だと『勘違い』して攻撃を始める。

 しかし、『移動城壁』はそれを阻む。

 いや、『阻む』という表現は正確ではない。

『移動城壁』は、そのまま『移動する城壁』を指す。

 さて、もしも『城壁』が『自動車のような速度』で『移動』したならば、どのようなことが起こるだろうか。

 答えは言うまでもない。

『移動城壁』が敵の魔法、そして『敵自身』を感知しそれを『相殺』する程度の障壁を展開する。魔法は当たった瞬間に弾かれ消滅し、『敵』は当たった瞬間に弾き飛ばされ飛散する。肉片が飛び散り液体が飛び散る。一切の容赦なき粉砕機。肉と骨の区別もなくただただ轢き殺していく。地球での『衝突事故』とは違いこの『移動城壁』が速度を落とすことはない。ティルアナの魔力量だけが減少しむしろ魔動車が加速するにつれて『移動城壁』も加速して敵を弾き飛ばしていく。敵は既に背を向けて逃げている。しかし魔動車からは逃げられない。魔法を使って逃げようとしている者が居る。『魔動車』よりも速い。だが、逃すわけもない。ティルアナ隊には魔動車を動かしていない兵が居る。彼は魔法を放つ。ただ逃げるのに必死な敵兵は撃ち落され『移動城壁』に巻き込まれ赤き液体と化す。

 そうして殺せる敵をすべて殺すとティルアナ隊は進軍を止めた。

 その後ろには真っ赤な絨毯ができていた。



      *



 殺せる敵をすべて殺したと言っても距離の関係から逃した敵は居る。彼らは必死に逃げていた。そしてこの情報を一刻も早く伝えなければならないと考えていた。魔法で文を書いて術式で編んだ『伝書鳩』を送ったがあれだけでは不足だろう。今すぐに行かなくては。

 そして彼は到着した。防衛拠点。『月の王国』の首都近郊の都市、最終防衛ラインの一つ前。前線司令、ダーリアが居る場所でなかった理由は単純。彼は信頼できる人物ではないと判断したからだ。ダーリアの戦術から彼はダーリアを『帝国の回し者』とさえ考えていた。実際はただの『捨て駒』であり『有効手』ではあったのだが。

 とにかく、彼は到着した。そこに、到着した。

 しかし。

 既にそこには『レイン軍本隊』が『到着』していた。

 それに気付いた瞬間、彼の胸に何かが刺さった。

 矢だった。

 何が起こったかわからないまま、ただ『負けた』という絶望を抱き、彼は死んだ。


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