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戦争 -2-

 星系すら消滅させられるという魔王が付いて来てくれるならばそれが最高だったのだが、そう上手くはいかない。ということは一人で行かなければならないということか。不可能ではないが難しいだろう。難しくともやらなければならないが。


『連盟』との会合の後、晶たちは城の一室を与えられていた。クレアなどは「すぐに国へ向かった方がいいと思うけれど」と言っていたが「準備がある」と言って止めた。準備があるというのは本当であるが理由の本質は別にある。晶が魔王に「俺といちゃいちゃしに行こう」と言って外に出て話した内容が先述のものである。断られることはわかっていたがそれでも頼まずにはいられなかった。ほんの少しでも可能性があるならばどのような手段も尽くすべきだ。どれだけみっともなくとも勝利と比べられるものではない。


 魔王と話した後はそのまま『連盟』の軍部へと行った。それなりの地位の人間に会いに行ったのである。最初は誰だといった顔をされたが話すと無事わかってくれた。既に話を聞いていたらしい。自分のような若輩は舐められるかと思っていたが『魔王と一緒に居た』という情報だけで『それなり』だと判断されたようだ。そして『それなり』の人間がいきなり自分の仕事を奪おうとして居るのだ。これに不満を覚えない者は少なく彼も実際にそうであったが、それをあからさまに表に出しはしなかった。晶の要求は情報提供であった。戦争において情報は非常に重要だ。その情報を得るためならばどんな道化にもなろうという気持ちだったのだが、彼はそれほど愚かな人間ではなかった。はっきりと目的を理解していたのである。今回の戦争の目的は防衛。それを達成するためならばちんけな誇りなんてものは捨て去らなければならない。彼も晶と同様の思想を持っていたのだ。晶が『帝国からのスパイ』だということも決して思考から外すことはなく、つまり自軍に関する情報は最大限伏せたまま、彼は晶が要求した『敵軍』の情報を話してくれた。晶も自分が実行しようとしている作戦を話し、呆れられ、しかし魔王の認めた者ならばとして実行に一応の許可を与えられ、軍部を去った。そして必要最低限の装備を借りて出発しようとした。


 その時だった。


「お母さんに何も言わずに出て行くなんて、いけない子ですね」


 青髪の……いや、今は『青髪ではなく黒髪』であったが、青髪だった少女、グシェナが言った。目の前で言った。晶は驚いた。この俺が美女に気付けないとは。何らかの魔法と考えるのが妥当か。


「その髪はどうしたのかな、お母さん。魔法的な何かかな」

「さあ、どうでしょう」グシェナはくるくると髪を指に絡ませ首を傾げ言った。「似合っていますか?」

「とても」晶は微笑む。「どんな髪の色にも変えられるのかな」

「普段は『青』にしていますし、『赤』はプリミヤと一緒になっちゃうので避けていますが、一応はどんな色にでも変えられますね。『青』の効果、魔法的な効果はそのまま『水』や『空』に関係しています。寒色系の色ですから鎮静作用とかそういった効果もありますし、その効果こそが本命なんですがね。『クレア』も含めて私たちには冷静の足りない人が多いので……」そう言ってグシェナは顔に悲しげな色を浮かべる。「もしかしたら、アキラが私を母と言ったのもそれが原因かもしれませんね」

「俺を見くびってくれるな、『グシェナ』」晶はグシェナの目をまっすぐに見て言った。「『それ』くらいで俺は女性を見誤らないよ。実際、今の君を見ても俺の気持ちは変わらない」

「でも、私に気付かなかったじゃないですか」

「魔法なら仕方ないだろう?」

「それって」グシェナは口先を尖らせる。「じゃあ『青』でもなってないとおかしいじゃないですか」

「かもな。だが、今も俺が君を母のように思っていることは確かだ。むしろ、愛が深まった感じさえある。母のように思っているはずの君に恋愛感情を抱いているくらいには」

 グシェナは笑う。「禁断の愛、ですね」

「母に対するものかどうかというだけで異性に対するものということに変わりはないよ」

「まったく違うと思いますが」

「俺に家族は居なかったからね、その気持ちはわからないよ」

「私に家族は居ましたが、息子は居ませんからね。あなたへの気持ちは不明瞭です」

「それが愛だ」

「母性愛ですか」

「どんな愛でも愛であることに変わりはない」

「それもそうですね」


 言いながら晶は考えていた。これからどうすべきか。それについて。


「じゃあ、お別れはこれくらいでいいかな」


 晶は言った。これで確かめるつもりだった。


「私も、私たちも付いて行きます」


 グシェナは言った。まっすぐな目だった。一切の淀みない清流のような目。


「君たちを危険にさらすなんて真似、俺にはできない」

「私たちは結構な戦力を有していますよ? さすがに『軍』とは言えませんが、魔法のない世界とは違い、魔法のあるこの世界では『個』の力が『軍』に匹敵する可能性すらあるのです。そして私たちは『戦力』と言っていいほどの力は有しています」

「気付いていたが信じられないし信じてはいけない」

「なら試してみますか」

「美女と戦うのは嫌なんだが」晶は全身に魔力を溢れさせた。「怪我をさせるか死なせるかではどちらを優先すべきか迷うはずもない」

「私もあなたと戦いたくはないんですが」


 グシェナは笑った。


「あなたを死なせるわけにはいきませんからね。『全魔』の一端を見せてあげましょう」


 彼女の髪が白に染まった。



      *



「そろそろか」


 戦況を見てティルアナが言った。魔力量が七割を切った。本隊も到着する頃だろうから、ここらが引き際というものだろう。


「では、最後に」


 ティルアナは言った。


「『進軍』しよう」


 彼女の身から魔力が溢れ出した。



      *



「――ということで、私たちも付いて行きますね」


 グシェナが微笑んで言った。非常にかわいい。かわいいが、完敗だった。手も足も出なかった。これでは帝国に挑むなど無理かもしれないと自信をなくしそうになるほどだった。自信などなくとも挑むことは変わらないが。


「アキラ」グシェナが言った。「あなたは『戦闘技術』という一点にかけては素晴らしいと言える領域に至っているかと思います。が、『魔法』に関してはまったく何もわかっていない。私たちに隠れてちょっとした訓練はしていたようですが、それでも不足しています。こんなことでは私たちが付いて行くどころか、あなたが行くことそのものを止めたくなりますよ」

「……グシェナ。君が強過ぎるということは」

「ありますよ?」グシェナが言った。「私は『全魔』の後継者ですから。色々あってクレアの奴隷になってはいますが、本来ならば魔王と同じような立場に在る人間ですから」

「魔王と同じ立場……そりゃまた、すごいな」

「戦力としては魔王の足元にも及びませんし『帝国』を相手にすることもできませんがね。『全魔』である私を超える力を持つとは、『帝国』はやっぱりおかしいです」

「……今回も、その『おかしい帝国』なのか?」

「いちばんおかしい帝国ですね。個にして私を超えるだろう人間も居るほどですから。まあ」グシェナは微笑む。「実際に戦えばどうかわかりませんがね」

「それは困ったな」晶は言う。「君に完敗した俺ではどうにも」

「それには考えがあります」

「考え?」晶は顔をしかめる。「以前、魔王に『教え過ぎてはいけない』と言われたんだが」

「問題ありません」グシェナは言う。「『全魔』たる私にだけできる魔法があります」

「それは」

「これです」


 グシェナの顔がぐっと近付いた。目が見えた。青の目、緑の目、黄、赤、茶、灰、黒、『白』。


「ようこそ、『魔界』へ」


 遠くでグシェナの声が聞こえて、晶の意識は無へと落ちた。


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