開戦 -8-
初撃で砦を消し飛ばしたティルアナ隊であったが、それだけで戦争が終わるわけではない。砦が消し飛んでから数分も経たない内にあちらから大勢の兵士が向かってきたのである。先ほどのティルアナの攻撃を見たにも関わらずに突っ込んできていることだけを見るならばこの兵士を蛮勇だと思うかもしれないが、むしろこれは真っ当な策と言える。敵がティルアナという確信を得た今、初撃から間を置かずに攻撃をすることだけが攻略法とも言えるのだ。
ティルアナは一切の準備なくあれだけの規模の魔法を使えるというわけではないのである。彼女は魔力保有量が非常に大きいだけであり魔力変換効率はそれほど高いとは言えない。保有していられる魔力量は膨大だが、その回復に要する時間もまた膨大なのである。加えて、あれだけの規模の攻撃をするためには魔力以外に膨大で緻密な術式構成が必要となる。規定の術式は既に組んであるのだが、あまりにも規模が大きいがために、その規定の術式を組むことだけでも尋常ではないほどの時間を要するのである。だからティルアナは『初撃』にのみあれだけの規模の攻撃ができる。第二撃までに要する時間は長く、たいていの場合、第二撃を放つことはできない。ティルアナは『初撃』で敵戦力を、敵の一つの『拠点』を丸ごと消し飛ばすほどの力を持っている。しかし『第二撃』はないと考えていい。だからこそ、その隙を狙うのだ。
ここで『そもそも初撃があれだけの規模ならば築城などしない方が良いのではないか』と思われるかもしれないが、それは違う。もしも『ティルアナでなかったとしたら』防衛拠点をつくらなかった場合が非常に危険であり、ティルアナであったとしても、さらに深くまで侵攻されるだけである。単に『拠点』だけをつくっておくという方法も考えられ実行されたこともあるが難なく看破されむしろそこを利用されたといったこともあったのだ。だから敵に『ティルアナ』という戦術兵器が居ることを考慮しても築城というこの世界では一般的な戦術を用いることは定石とも言え、『初撃』から『第二撃』までの間を狙うこともまた定石なのである。
しかし、ティルアナは生きている。
そんな『定石』があるにも関わらず、生きている。
それはつまり、彼女がその『弱点』に対策を講じているからであった。
その対策とは単純に彼女の並外れた魔力保有量を活かした戦術であり魔法である。ティルアナが『破壊の槍』と名付けているあの魔法、(なお魔法に『名前』を付けていたり発動する際にそれを叫んだりすることは『詠唱』と同じような意味を持っている)、あれの『第二撃』が難しいことの要因は術式構成に要する時間があまりにも膨大なためであるが、そうではない魔法ならば使うこともできるのである。そしてその魔法を使っているからこそ、『第二撃』が実質的に不可能になっているとも言える。二つ以上の魔法を使うことだけでもそもそもできる人間が非常に少ないにも関わらず『破壊の槍』のような超大規模の術式を要する魔法と同時に他の魔法を使用することなど不可能と言っても過言ではないのだ。そしてその魔法を常に行使させておくために、敵はティルアナに攻撃を仕掛けるのである。
こちらに向かってきている敵を見て、ティルアナは言う。
「総員、迎撃体勢に移れ」
一直線上に並んだ兵たちがティルアナの言葉に魔法の術式を組み始める。
そして、ティルアナは。
「『移動城壁』、起動だ」
そう言って、とある魔法を発動させた。
この魔法のために、隊を一直線上に並べた。
その効力は文字通り、『城壁』。
並外れた魔力量だからこそ可能な、絶対防御の魔力障壁である。
敵がこちらに向かって槍や魔法を放つ。それはティルアナ隊の前方数メートルのところで見えない壁に当たったかのように弾かれ消える。物理的攻撃と魔法の両方を半自動的に防ぐ絶対防御の『城壁』。城壁のさらに数メートル外側から感知術式が仕込まれており、そこから予測される接触地点に測定されたエネルギーと同等の魔力障壁を張る、魔力を節約するための術式が組み込まれたこの魔法はティルアナが『戦術兵器』と呼ばれるもう一つの理由である。ここで重要なことは『魔力を節約している』ことである。一人にして万人をも凌駕する魔力量を有するティルアナが魔法において用いる魔力量を節約している。そのことが重要なのだ。普通の魔力障壁をただ広範囲に張るだけならばさすがのティルアナであってもすぐに魔力切れを起こすだろう。魔力障壁には相手の攻撃を相殺できる以上の力が必要であり、さらにどこに当たるのかわからないならば広範囲に張る必要がある。これが効率の悪いことはすぐにわかることだろう。相手の1の攻撃に対しても100の攻撃に対しても、相手の攻撃がどれだけのものかわからないならば、相手の最大値を防ぐことのできるだけの魔力量が必要であり、さらにどこに当たるのかわからないので実際よりも広範囲に張らなければならない。相手の攻撃の最大値が100だとすれば、こちらは100の攻撃を防げる障壁を広範囲に張る、つまりその分だけ無駄な魔力が消費されるのである。そんな相手ならば弱い攻撃を広範囲にばらまくだけですぐに魔力切れを起こさせることができる。はっきり言って砂でも撒いておけば勝てるかもしれない。それほどのものだ。しかし、ティルアナは違う。魔力を消費しないよう最大限の注意を払っている。そういった魔法を使っている。それを半自動化している。ここでまた重要なことがあり、それは『全自動』ではなく『半自動』である点だ。これは感知術式で感知できなかったものに対してはティルアナが自ら魔力障壁を張っていることを理由としている。そのような状況が起こる可能性も十分に考えているのである。無論、そのような状況に陥る可能性は非常に低いが。
「第一射、放て」
ティルアナが言うと同時、魔法が放たれる。一直線上に並んだ兵士たち。それらが一斉に魔法を放った。『移動城壁』は非対称の透過性を持つ。外側からの攻撃は通さないが内側からの攻撃は通すのである。そしてこれがあるから敵は一定以上近付くことができない。その前に攻撃が放たれるからである。この状況はまさしく『城壁』を隔てた戦争と同一。戦争において攻撃と防衛では防衛の方が有利であることは言うまでもないが、ティルアナの『移動城壁』は強制的に戦場を『防衛戦』へと変える魔法なのである。もし敵が攻めてこなかったら『第二撃』を放つのみ。これに勝てるような軍がどれほどあるか。
と言っても、勝つ必要があるとは限らない。




