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開戦 -7-

 魔動車を止めることなく走らせた結果、晶たちはレインが開戦を宣言してから数時間も経たない内に『連盟』に到着した。戦時中であり門は固く閉ざされていたが魔王の姿を見せればすぐに通ることができた。魔王とは絶対的中立を示す。少なくとも帝国の人間ではないということを示すためには魔王の姿を見せることが最適なのだ。それに対して魔王は「我をこのようなことに使うとは」と不満そうにしていたが、我慢してもらう他ない。


『連盟』の人間と話をさせてくれと言うと断られた。当然のことである。だから魔王の姿を見せた。通してくれた。戦時中とは言え魔王を通さないなんてことはできないのだ。


『連盟』は今や大混乱の様相を見せていた。しかしここに来ているような人間の中で『軍事』をどうにかする立場にある人間は少ないだろう。『軍事』をどうにかする立場にある人間であっても戦場で指揮をとるような人間は居ないはずだ。だから、彼らは忙しそうに見えて実は忙しくも何ともない。彼らが話していることは戦争が終わった後のことだろう。今行われている戦争ではなく『その先』を見る。それは勝った場合、負けた場合、そのどちらもであり、『それ以上』のことも考えている。そういった議論こそが意味ある議論と呼べるものであり、そういった観点から見れば『連盟』の人間には無駄話をするような人間、少なくとも足を引っ張るような者は居ないようである。有能か無能かはまだわからないが、マイナスではない。よろこぶべきか悲しむべきか、微妙なところである。


「……さて、それじゃあ、楽しい楽しい『お話』の時間だ」



      *



 魔王を連れているという人間を見た瞬間、『連盟』の人間は固まった。しかし同時に納得もした。魔王を連れてくることができる人間など彼女くらいしか思い浮かばないことも事実なのだから。しかし、現在戦場である国の元王女が来るとは、これはまたややこしいことになった。そう思いながらも『連盟』の者たちは楽観していた。『あの』国の王女だ。口で丸め込むのは容易だろうし、何なら、『例のこと』を聞き出せるかもしれない。もしそうなったならば帝国との戦争に降伏することさえ厭う必要はなくなる。全面的に降伏し『月の王国』の領土をすべて差し出そう。惜しくないと言えば嘘になるが『帝国』と争ってむやみに兵を減らす方が惜しいのだ。『月の王国』に住む者たちには悪いが、他国よりも自国のことを優先することは当然のことなのである。むしろ自国を蔑ろにして他国に入れ込む方がどうかしている。そんな者は国家の敵でしかない。だから『連盟』の者たちは躊躇なく『月の王国』を捨てることができる。そしてそんな『連盟』が『月の王国』を捨てていないこともまたやはり『連盟』の、自国のためのことであった。自国のために他国を切り捨て踏み躙り殺す。これは国家の上に立つ者ならば誰もが持つべき当然の思考だろう。少なくとも『連盟』の者たちのほとんどはそのような思想を持っていた。だから彼らはここに入ってきた人物、クレアを見た瞬間にすぐさまこう考えたのだ。『さあ、どうやって料理してくれようか』と。


 しかし、彼らは気付いていなかった。


 魔王を連れてきた人間が、誰か。


 その者がどういう人間か。


『料理される』のはどちらなのか。


「初めまして、皆さん」


 予想外の場所から、声が、聞こえた。

 魔王とクレアの背後、そこに居る黒髪黒眼の青年。

 彼が朗らかな笑顔を浮かべながら口を開いた。


「俺の名前は『ナガノアキラ』。ここに居るクレアさんに代わって、今日は俺が皆さんのお相手をさせていただきます。どうぞよろしくお願いします」


 この時点で晶の異常に少しでも気付くことのできた人間は『地の国』の王のみだった。しかしそれは『気のせい』で片付けてしまう程度のものでしかなかった。今、彼らは目の前に突然現れた『餌』に食いつかずにはいられなかったのである。『クレア』という極上の餌のせいで晶についてはそれほどの警戒心も持つことができなかったのだ。無論、彼らが冷静であればそんなことはなかったのだろう。しかし今、彼らは冷静とは程遠い状態だったのだ。帝国との開戦、魔王の存在、クレアという餌。そんな大きなものと比べれば晶の存在なんて大したことではないと考えていたのである。


『未知』こそが最大の恐怖であるということを忘れてしまっていたのである。


「皆さんもお忙しいと思われますので、失礼ではありますが、早速、本題へと入らせていただきます」


 晶は言った。単純に、簡潔に。


「こちらの要求は『連盟』が有する『月の王国』に関する全権譲渡だ。異論はあるか? 『詐欺師』ども」


 彼らの息が止まり熱に浮かれていた頭が凍り沈んだ。


 晶はただ彼らを見ていた。


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