開戦 -6-
戦争が始まった。
予想された事態だったので出撃準備は既にできていた。正確には『既に出撃していた』。上空から移動中の部隊を発見しレインたちはそこに降り立つ。
「ティルアナはそろそろ敵に接触するところだろう」
レインが言った。この部隊はアークリンドの部隊でありレイン軍の本隊である。
ティルアナ隊とアークリンド隊(レイン軍本隊)の速度にここまでの差が出たことは単純に移動手段が原因である。ティルアナ隊が魔動車による高速移動をしているのに対し、アークリンド隊は馬車や徒歩で移動しているのである。魔動車なんてものがあるのに馬車を使うなんて、などと思うかもしれないが、よく考えてみれば逆に魔動車を使う方が考えられないことと思うだろう。魔動車の動力源は魔力だ。そして魔力とはこの世界の戦争において最も重要なものの一つである。魔力の量は戦力に直結すると言ってもいい。それを戦争の前に使うなんてことがどれだけ異質なことかは考えてみればすぐにわかるだろう。
そもそも、魔力を扱える人間はそこまで多くはないのだ。魔力を扱うこと、魔法を扱うことはそれだけで一つの才能と言われるほどには希少な才能である。そしてそれほどまでに希少だということからもわかるようにこの世界の戦争においても最も重要な力とは『歩兵』である。歩兵なしで戦争はできない。ただ、稀に戦車と同等の能力を持った人間が居たりするだけの話である。
戦車と同等の能力を持った人間など考えたくもない話だが、『人間』であるが故に歩兵にすら負ける可能性もあるのだ。無論、戦車も歩兵に負ける可能性はあるが、それが不可能ではないにせよ不可能と言っていいほどに低い可能性であることはわかるだろう。しかし『人間』は『人間』であるが故に一人の歩兵に負ける可能性があるのだ。魔法を使えると言っても、魔法という小型で強力な兵器を持っているだけの人間であることに変わりはないのだ。戦車とは比較にならないほどの隙があることは想像に難くないだろう。
しかし、それでも。
規格外というものは存在する。
ティルアナもその一人である。
*
「……見えたな」
ティルアナが言った。彼女は最前線に居た。最前線の魔動車の上に立っていた。
「陣形を組め」
その合図とともにティルアナの立つ魔動車が止まり、その隣に隣に横一列に魔動車が並んでいく。並び終えると一斉に兵たちは顔を出し、魔動車を運転する者以外は皆、魔動車の上に立つ。遠く先には一つの砦が見える。魔法によって急造された砦だろう。しかしそこには数多くの兵士が居る。砲撃の準備をしている。魔法師と思われる兵たちが並んでいる。しかし、彼らは動かない。じっとこちらが射程範囲内に入ることを待っている。あるいは硬直状態が望みなのかもしれない。
しかし、それに応えてやる義理はない。
「総員、衝撃に備えよッ!」
叫ぶように言い、ティルアナは練り上げた術式に一気に魔力を流し込む。空中に魔力で描かれた模様が浮かび上がり、それは直径数百メートルにまで達し、すぐに収縮、ティルアナの目前で直径三十センチメートルほどの大きさの緻密な模様へと変わる。
「消し飛ばせ、『破壊の槍』ッ!」
そう言うと同時、ティルアナはその模様を思い切り殴りつける。
魔法が発動する。
ティルアナが模様を殴りつけた瞬間、模様から一つの小さな光弾が尋常ではない速度で発射され、それは一瞬で多くの敵が集まる砦に至った。
そして、その光弾が砦に当たった瞬間、それは圧倒的なまでの破壊をもたらした。
光弾は砦に当たった瞬間、爆発的に膨張し、周囲数百メートルを包み込んだ。
発射、着弾、爆発。
そんな単純な魔法。
しかし戦車砲と表現してもなお不足。
たった一撃で一つの砦を跡形もなく消し飛ばす『戦術兵器』。
これがティルアナ。
レイン軍『第三』である。




