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開戦 -3-

『連盟』が集まる場所、そこはそれほど遠い場所ではなかったが近いわけでもなかった。魔法が存在する世界とは言ってもさすがに地球ほどの交通手段はない。この世界の主な交通手段は馬車か『魔動車』、魔力で動く車である。晶はその『魔動車』を自動車のようなものと判断した。動力が違うだけの話だろうと。ただ、ペダルを踏むだけで動くわけではなく魔力を使わなければならないので、どちらかと言えば『人力車』の方が近いかもしれない。実際に使用してみた感想としては『自動車』の方が近かったが、これは晶の魔力変換効率がこの世界の一般的な人間に比べて遥かに優れているからであり、普通ならかなり疲れるものらしい。それでもさすがに人力車ほどではないだろうからその中間くらいだろう。


 今、この『魔動車』を運転しているのは晶であった。魔力変換効率の優れる晶が運転するのは当然のことと思えるかもしれないが、晶など比較にならないほどの魔力を有する者が居ることを忘れてはならない。それが誰かと言えばもちろん魔王である。が、彼女が運転を代わることはなかった。

「乗ってやっているだけ感謝しろ」

 だそうだ。

 そもそも魔王はクレアに同行する意味もなく、さらにクレアの指導をしてもらっているということを考えれば返す言葉もないのだが、だからと言ってこの世界に来たばかりの人間に任せるというのはどうなのか。何より、これでは一人ぼっちで寂しいではないか。俺も一緒に美女と居たい。話したい。いちゃいちゃしたい。そんな晶の意見を聞いて魔王は言った。

「なら、常に誰かを話し相手に置いておく。それで我慢しろ」

 晶は一切不満を言わなくなった。


「アキラはおかしい人間ですね」


 褐色の美少女、ボーニャが言った。民族衣装みたいなものを着た何だかエロい少女である。魔王ほどではないにせよ結構な部分の肌を露出させており、そこにはうっすらと紋様のようなものが描かれていた。それについて訊ねると「魔法的な意味があります」と答えられた。魔法的な意味とは何かと訊ねると「あなたが敵かどうかもわからないのに話すことはできない、ですよね?」と答えられた。晶がそれ以上訊ねられなかったことは言うまでもない。


「俺なんて普通の人間だよ、ボーニャ」

 晶は言った。先程の言葉に対する答えだった。

「むしろ、君のように美しい少女の方が俺にとってはおかしいよ。本当に、君が生まれたことは奇跡に近い」


「ありがとうございます、アキラ」

 晶の軽薄な言葉にボーニャは素直に頭を下げる。

「でも、私が言っているのはそういう意味ではないですよ」


「じゃあ、どういう意味なんだい?」


「ぎちぎちって感じです」


「ぎちぎち?」

 意味がわからず晶はオウム返しにする。


「はい」

 しかしボーニャは素直に笑う。

「ごちゃごちゃ、って感じでもありますが」


「ぎちぎちでごちゃごちゃ、か」


「でも、それは決して外には見せないんです。何かで必死に覆い隠している」

 ボーニャは晶を見つめる。まっすぐにまっすぐに、まっすぐ過ぎるほどまっすぐな目で見つめ、柔和に笑う。

「優しくて優しくて、ぽかぽかします」


「……そう、か」晶は照れ臭そうに笑った。「そう見えているのか、俺は」

「はい」ボーニャは即答した。「だから私は、あなたのことが好きですよ?」

「ありがとう」晶は言う。「俺もだよ」

「じゃあ、これはもう結婚するしかありませんね」

「そうだな」晶は笑う。「今すぐにでも式を挙げたい気分だ」

「じゃあクレア様に言ってきますね」

「いやちょっ待っ」


 数分後、そこにはクレアたちに説教されている晶の姿があった。「こんないたいけな少女をたぶらかして」だの「ボーニャはまだ十四なのに……けだもの」だの「やはり下半身で生きているんですねー」だの「やはり今すぐに股間のモノを切り落としておいた方がいいのでは?」だの散々な言われようだったが晶にとってはそれもご褒美…… 

 いや最後のはこわい。 

 本当にこわい。

 何がこわいって真面目な顔をして真剣にクレアさんに提案を持ちかけていたところである。

 さらにこわいのがクレアさんがそれに対して「……それもそうかも」と本気になって考え始めていたところである。こわい。本当にこわい。この人たちこわい。それでも美女だからとこわさよりも嬉しさが勝ってしまうのは俺の性か。


「私に何かしたら殺すから、覚悟しとけよ」


 ボーニャの次には赤髪の少女が晶の話し相手となった。彼女は「もうこのバカはずっと一人にしておいた方がいいと思うのですが」と言っていたが晶がしつこくヤダヤダヤダヤダ一人はヤダ俺も美女といちゃいちゃしたいそれだけで三日三晩いや死ぬまで馬車馬の如く働くのにーと言い続けた結果、晶は勝った。またもや美女と話すことができるようになったのである。人間の尊厳やら何やらを捨てただけのことはある。


「何かしたらって、プリミヤ、例えばどんなことなんだ?」


 その晶の言葉に赤髪の少女、プリミヤはむっと口を曲げ眉を寄せた。プリミヤは晶の軽薄な言動が許せないようで、晶に対しての嫌悪を隠しもしていない少女である。これはクレアに対する忠誠心の現れととるべきか単なる性格ととるべきかは微妙なところであるが、とにかく真面目な少女であることは確かだろう。正確には『柔軟性がない』ことを『真面目』だと『勘違い』しているような少女と言うべきかもしれないが、これに関してはまだわからないので断言することは避けておこう。とにかく、プリミヤは少なくとも外面上は晶のことを嫌っているということである。


「はっきり言って私に話しかけることすら本当なら許したくはないんだが、それに関しては仕方ないな。お前が変なことを言ったら殺す。それだけだ」


「じゃあお触りはオッケーという」

 晶の髪が燃えた。

「いやこういうのはちょっと本当にやめてほしいんだけどハゲるハゲるハゲる消えろ消えろ消えろ」

 燃えている髪に魔力を流し溢れさせる。すると魔力が『押し出され』炎が消える。

「……ふぅ。危なかった」


「これでわかったか?」

 にかっという音が聞こえそうなほど爽やかな笑顔でプリミヤが言った。こんな爽やかな笑顔を見せられたらもう何も言えねえや!


「でも赤髪で炎ってまんまだよね」

 全身が燃えた。

「えっなんで」言いながら晶は咄嗟に魔力を全身に溢れさせ魔力を『押し出す』。炎は消える。


「今のは侮辱的な発言だったから。あと、この髪はべつに地毛じゃないし」

「えっわざわざ赤髪に染めたの? それはちょっと」

「また燃やされたいのか?」

「あははごめんなさい」

「最初からそうしろ」


 ふんとそっぽを向くプリミヤ。かわいいなあ。そんなことを思いながら晶は『わざわざ赤髪に染めた意味』を考える。ボーニャの紋様もそうだったが、これにも魔法的な意味があるのだろう。あるいは『魔法による副作用』か。


「まあさっきはああ言ったけれど、君の燃え上がる炎のような赤髪は綺麗で、情熱的で。とても君にぴったりだよ」

「私がそれくらいの世辞でよろこぶとでも?」

「世辞じゃあない。本心だ」

「ならどうしてさっきのようなことを言ったんだよ」

「君の怒った顔が魅力的だから、というのはダメかな」

「燃やすぞ」

 プリミヤの赤髪が炎のように揺らめく。

「あはは。そんな君もかわいいよ」


 結果、晶は燃えた。


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