午後はハザマにドクダミ茶
今日もハザマが俺の部屋にやって来た。俺の息子光の頭を撫でつつ挨拶をする。
「やあ、お役目様、ご機嫌いかがかな?」
こう声をかけられても光は無反応だが、ハザマ自身が幼い時こんな状態だったので気にはしていない。
「ハザマ、ドクダミ茶とミントティーどっちが良い?」
奴自身が庭に植えていった草で、あえておもてなしをしてやる。消費しきれないほどの量が爆殖したので、丁寧に洗って天日干しし、自家製の茶葉にしてやったのだ。
「……ドクダミ茶をもらおうか」
俺が出したそれを啜りながら、ハザマがふと厄介なことを口にした。
「なぁ、御影。室生の内情が親戚以外に漏れてるぞ」
「なにぃ?誰にだ?」
「私の異母弟の雨宮青児に。たぶらかされた使用人が複数いて、そいつらが情報流してるぞ」
「なんだってーーー!?まったく。またグループLIMEで注意喚起を流さないと……」
「御影が初音と婚姻届けをださず事実婚であることや、初音が妊娠6ヶ月めに入ろうとしている事も漏れてるな」
なんて油断ならない奴なんだ、ハザマよりこええ。俺はふと疑問を口にする。
「なんでまた、そんな情報欲しいんだよ、アイツ……」
ハザマは湯呑みを揺らしながら言った。
「絵のモデルの件じゃないか?」
「俺は絵のことはさっぱりだが、妊婦描いて楽しいのか?」
「ラファエロの『La donna gravida(妊婦)』や、クリムトの『希望II』とかな……。受胎告知の絵なんて山ほどあるし、妊婦というのは画家にとってひどくそそられる画題なのかもしれないな」
「雨宮のヤロウ……くそっ、とりあえずグループLIMEだ!」
俺はスマートフォンを取り出し、屋敷の従業員全員が登録されている連絡網アプリLIMEを開いた。
従業員全員に向けて一斉送信のメッセージを打ち込む。
ーーーーーーーーーGroup LIMEーーーーーーーーー
【重要】不審人物への注意喚起と情報提供のお願い
屋敷内従業員各位
日々の業務への尽力に感謝する。
さて、本日は重要な注意喚起がある。
現在、屋敷の周辺を「お役目代理」にそっくりな男(雨宮青児)がうろついている。
見かけた場合は、直ちに室生御影まで報告すること。
なお、過去に彼と接触して情報を流してしまった者がいても、今回に限り処罰は不問とする。正直に申告してほしい。
さらに、彼が「どのような情報を欲しがっているか」を探り、有益な情報を提供してくれた者には、謝礼として【Amazunギフト券】または【松◯屋商品券】を贈呈する。
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送信ボタンを押すと、ほどなくして既読の数が一気に跳ね上がった。
連中は現金だ。下手に脅して口を割らせるよりも、不問という恩赦と『松◯屋商品券』という確かな物理的報酬をぶら下げた方が、奴らは確実かつ迅速に動く。
※注釈 松◯屋、高◯屋 とは
ハザマと御影の住む中京圏住まいの人間にはお馴染みの格式高いデパート。商品券が絶大な効力を持つ。




