さよなら伏魔殿
「お前の息子は一体何をしでかしてくれるんだ?もう少しで私はBLの世界に足を踏み入れるところだったぞ」
俺はハザマからお叱りを受けた。
腐女子どもが「陸×ハザマ」か「ハザマ×陸」か話しながら作った料理に息子の光が神気を浴びせたらしい。
ハザマがぷりぷり怒りながら文句をいう。
「神気のせいで某スポーツドリンクばりに情報がすーっと沁み渡っておかしくなってしまった。」
「悪かったとおもうが、まさか自我のない光がそんな悪知恵持ってるわけないだろ?」
「私は御影の遺伝子が発動して光を動かしたと確信してしている」
「……べ、別に俺、ハザマの事もう恨んでないし」
「お前、一呼吸あいたぞ?思えば小学生の頃、校庭に置き去りにされて動けなかった私に、悪ガキどもの中で率先して虫や蜘蛛やゲジゲジを入れたのお前だろう?」
「申し訳ありません、俺です」
俺はここに来て、十六年の時を経てハザマに過去の悪行を謝罪することになった。
*****
ふと、真面目な思考に立ち返る。
思えば、今回の「光が本家の食事を拒否した件」について。あれはすべて、高位の存在である屋敷神が密かに仕組んだことだったのではないかと、俺は感じている。
屋敷神は、初音のお腹にいる子に清らかで良質なものを摂ってもらいたかったのだろうし、長年澱んでいたこの「伏魔殿」の構造改革も、そろそろ強引にでも行いたかったのだろう。
結果として、屋敷の空気は物理的にも霊的にも明るくなり、俺たちは確実に前より前進している。
ハザマや初音の存在も、すべては屋敷神の掌の上で計算され尽くし、目に見えない縁によってこの屋敷に引き寄せられたのだと、今なら信じられる。
*****
現在、俺の庭には、恐るべき惨状が広がっている。
以前ハザマが予告していたミントとヒメイワダレソウに加え、なぜか強烈な匂いを放つ「ドクダミ」までが誰かの手によって密かに植えられていたのだ。
それらは今、恐ろしい勢いで爆殖し、元の美しい庭の生態系を根こそぎ駆逐して、とんでもない状態になっている。
……俺の平穏な日々は、まだまだ遠そうである。
伏魔殿 篇 <完>




