伏魔殿の愉快な腐女子たち
屋敷内の雰囲気は物理的にも霊的にも明るくなり、ギスギスしていた人間関係も徐々に改善しつつある。
厨房のシフト改革のおかげで、俺たちに出される食事も格段に良いものになった。
初音が嬉しそうに、こんなことを報告してくれた。
「律さん陸さん派の方達と腐女子連合の人たちってすごく相性が良いみたいで、いつも楽しそうにおしゃべりしながらお料理しているんです。端から見ていても、とっても和やかですよ」
「まあ、もともと腐女子連合の連中はこの家の覇権争いなんて全く興味がねぇ奴らだからな……」
以前、あいつらの所持品をサイコメトリーで読み取った時のことを思い出す。
「見えた記憶といえば、『今度のカップリングは誰にしようか?』とか『同人誌は何部刷ろうか?』とか、マジでそんなことしか考えていなかったしな」
取り敢えず、屋敷の使用人の三分の二くらいは、朗らかに仕事をしてくれていると見ていいだろう。
本家の食事を拒絶していたハザマも、今では厨房で作られた膳を文句も言わずに平らげている。
まだまだ細かな改善点はあるだろうが、あとは焦らずゆっくりやっていけば良いか……。
そんな平穏な日々が続いていた、ある日のこと。
ハザマが光のご機嫌伺いに俺たちの部屋へやって来た。出されたお茶の湯呑みをくるくると落ち着きなく回しながら、奴がポツリとこぼした。
「なぁ、御影。……陸に会いたくないか?」
「ん? そういえば、代替わりの騒動からこっち、数ヶ月は会ってないな。俺は陸もそうだが、リッツんにも会いたいと思ってるよ」
俺が答えると、ハザマは視線をスッと右上へと向けた。あいつがその方向を見ている時は、遠隔で特定の人物の動向をサーチしている証拠だ。やがて、サーチを終えたハザマがひどく不満げに口を開く。
「律は相変わらず忙しそうにしているから、なかなか『こっちに来い』とは言えないよな……。だが、陸は違う! あいつ、修行中毒か!? 世の中には滝行や山ごもりよりも、もっと大事なものがあるだろうに!」
いきなり陸に対して理不尽な怒りを爆発させ始めた。
……ハザマの様子が、明らかにおかしい。
「修行、修行って……人との繋がりや潤いの方がもっと大事だろうが! なぜ私に会いに来ないんだ? 奴は!」
「おい、ハザマ! 落ち着け。お前、いつも頭はおかしいが、今日は違った意味で様子がおかしいぞ!?」
その会話を聞いていた初音が、気まずそうに割って入ってきた。
「あっ……あの、御影様。もしかしてなんですけど……」
初音は言いにくそうにモジモジしながら、衝撃の事実を口にした。
「厨房で、腐女子連合の方達と陸さん派の方達が、『陸×ハザマ』か、それとも『ハザマ×陸』かで大盛り上がりしながらお料理を作っていまして……。しかもその時、光様がお料理に向かって『エネルギー的な何か』を注入されていたんです……」
(——なっ!?)
つまり、料理がまた呪物化したってことか!?
それも陰湿なドロドロの怨念ではなく、腐女子たちの強烈な『BLの妄想(情念)』に、光の神気という錬成がかけられた、全く新しいベクトルの呪物……!
「お前……それ食べたから、そんなにおかしくなってるのかよ……!」
取り敢えず、「陸! 陸!」とうるさいハザマの背中を押し、半ば強制的に部屋からお帰りいただいた。
厨房のシフト、今すぐ変えた方が良いのか。
それとも、このままほっといて『陸×ハザマ』の行く末を高みの見物か……本気で迷い始めている。




