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余次元住まいのハザマ様!part8 室生家のその後  作者: 山桃
青き名の家系 篇

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22/25

雄の蜘蛛

初夏の暑い日。ガラス張りのアトリエは風を通すため、窓が少し開け放たれていた。


建物の周りにはミモザやらユーカリ、ニセアカシア、バラなどが鬱蒼と植えられており、道路などの外からは中の様子がまったく見えなくなっている。


俺は木陰に隠れ、そっとアトリエの中を覗き込んだ。

モデル台の上では、初音が静かに眠っている。妊娠すると酷く眠くなるそうだが、雨宮も無理に起こそうとはせず、ただじっと初音の寝顔を眺めていた。


――ここまでは良かった。


だが次の瞬間、奴は初音が身につけていた黒いレースの服をそっと剥ぎ取り、あろうことか初音の裸を鑑賞し始めたではないか!


「何しやがんだ、てめーっ!」


俺は血相を変えてアトリエに踏み込んだ。

すると雨宮は慌てる様子もなく、手元にある『父親の描いた絵』と初音の裸体を静かに見比べている。


「おい! 見るだけなら良いと思ってんのか? さっさと服を着せろ!」


俺が怒鳴り込むと、雨宮はふっと笑い、「やっぱり来た」と、俺が踏み込んでくることまで計算していたかのように言った。


雨宮は初音の体にそっと上着をかけてから、「……お願いがあるんだけど」と、先ほどのスケッチブックを俺に差し出してきた。


「父の心を、君の能力で読み取ってほしいんだ」


「何が知りたいんだ?」

俺が警戒しながら問うと、雨宮は少しだけ表情を落とした。

「この絵を最後に、父は一切絵を描かなくなったんだ。構想の下描きだけで終わった。あれほど『この人だ!』という妊婦のモデルを探し出して、あんなに意欲を見せていたのに」


「しかも、あとは坂を転がるようにアルコールに溺れ……結局は、死んだ」


最初から能力を使わせるために俺を煽ったのか。


「……しょーがねーなー」


俺は渋々スケッチブックを受け取り、そこに残された残留思念を読み取った。


――流れ込んできたそれは、雨宮にとって決して良いものではなかった。


「知るためには、覚悟がいるぞ?」


「うん。覚悟できてるよ。……なんだったの?」


「妊婦が、雌の蜘蛛に見えたんだとさ。蜘蛛も妊婦も、お腹がぷっくりしてるだろ?」


「……それだけ?」


「蜘蛛って、交尾をする前や後に、雄を食べて栄養をとるだろ? お腹の卵のため……つまり、子供のために」


「…………雄の命なんて、次の世代のための糧でしかない……か」


俺は重い事実を、そのまま雨宮に告げた。


「親父さんは、お前という『才能』のために、自分はただの踏み台だったと思ってしまったらしい。世間に評価されたのも、結局は息子が描いた絵の方だったからな」


「……あぁ、だからパッタリと描かなくなってしまったんだ……そっか……」


雨宮は力なく呟き、スケッチブックを見つめた。

少しだけ同情した俺は最後にこう付け足した。


「親父さんが描けない時、お前が代わりに描かなければ、親子で食べていけなかったんだから……仕方ないよな?」


なんの慰めにもならないと思いながらも、こう言わずにはいられなかった。



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