特別なグリザイユ技法
俺は初音を伴って、雨宮のアトリエへとやって来た。
初音を置いていくにあたり、細かい取り決めをし、きっちりと約束を守らせた。一時間ごとに休憩を挟むこと、お腹を冷やさないように室温に気を配ること、そしてもちろん、性的な接触は一切しないこと……などだ。
その帰り際、俺は交換条件となっていた例の絵の真贋を見抜く『科学的な証明方法』を雨宮から教えてもらった。
彼によれば、父である月山青湖は、通常とは異なる『特別なグリザイユ技法』で下絵を描いていたそうだ。
そもそもグリザイユ技法とは、最初に灰色などの単色でキャンバス一面を塗り、陰影をつけてから上層に色を置いていく画法らしい。
そうすることで絵に立体感が出たり、色彩の調子が良くなったりするのだという。
「ただ、父は灰色ではなく……自分の『血』と少量の膠を混ぜて薄め、その茶色っぽい色で下絵を描いていたんです」
俺は「なるほど!」とポンと手を打った。
「DNA鑑定か!」
「ええ、そうです。全部の作品に血を使って塗っているわけではないのですが作品にはチラホラそういう絵があって。僕の記憶では、お屋敷で見たあの絵は多分、血を入れたグリザイユ技法を使っているはずです。キャンバスの横……木枠に釘を打っている部分などにも血が飛び散っていることが多いので、絵の表面を傷つけずに鑑定できると思いますよ」
「雨宮、サンキュー! 絵の持ち主に知らせてくるわ!」
俺は急いで屋敷に戻り、待っていた叔父貴に絵の証明方法を教えた。叔父貴は「なるほど、それなら確実だ!」と目を輝かせ、さっそく動き出したようだ。
――だがその後、ハザマが自室に乗り込んできた。
「おい御影、お前の叔父に、髪の毛をむしられたぞ」
「あー……親父さんのDNAと絵の血を照合するんだから、実の息子であるお前の検体が手っ取り早かったんだろ」
まったく、ハザマっていつも文句言ってるよな。こっちはお前の異母弟のせいで日々散々悩まされてるんだから、髪の数本くらいおあいこじゃねーか!
……と、きっちり言い返してやったが。
雨宮が何故、父親と同じポーズの妊婦の絵を描こうとしたのか?
俺には興味もなく、知ろうとしなかったのだが、それには深い意味があり、本人すらわからなかったことが判明するのである。




