ある画家の死の真相
メモ帳に書き込む厄介事が、また一つ増えてしまった。現在、五つの問題が同時進行している。
室生の屋敷神は俺に憑いてくれなかったが、代わりにネタ神が憑いているに違いない。多分。
・惟光の造反
→ 時々サイコメトリーで念入りに疑う
・雨宮青児の不穏な動き
→ 金券にモノを言わせ、諜報要員に見張らせる
・初音の産婦人科でのプレパパ・ワークショップ
→ 俺は兄として振る舞う
【ほぼ解決】
・月山青湖の絵は贋作か否か
→ 雨宮青児に証明方法を聞く
・ハザマが俺を特別な対象として見ている件
→ 厨房のシフト編成に随時注視
その日の午後、ハザマがティータイムを過ごしにやって来た。奴はいつも通り、光の頭を撫でて挨拶を済ませる。
俺様直々に豆を挽き、心を込めてサイフォンで淹れたコーヒーをテーブルに出すと、ハザマは静かに口を開いた。
「……やっと気づいたか?」
「ああ、ありがとな。律を通じて教えてくれて」
ドクダミ茶ではなく本格コーヒーの香りを楽しみながら、ハザマは呆れたように言う。
「昔の御影なら、ナイフのように人を寄せ付けず、身内でさえ徹底的に疑う人間だったのにな。初音の影響でふにゃふにゃになったのを察した惟光が、ここぞとばかりに仕掛けてきたんだろう」
「かといって、昔のようにも戻れないしなあ」
俺は縁側の外へ視線をやった。
庭では、初音が光をあやしながら、陽だまりの中でポカポカと穏やかに日向ぼっこしている。
あの温かさを知ってしまった以上、もう殺伐としていた頃の自分には戻れない。
「そうそう。お前の家の男って、名前に『青』がつくんだな。青湖、透青、秀青、青児……さすがは画家の家系だな」
俺がふと思いついたように尋ねると、ハザマはカップを置いて頷いた。
「父が一番好きな色だったそうだ」
「ハザマも絵が上手いのに、もう描かないのか? ひょっとして、青児よりも上手いんじゃないか?」
「まず向いている分野が違うしな。私はデザインで、青児は純粋な芸術だから。……デザインの方は『他人ありき』で創作するものだから、個人の感情とかそういったものより、利便性や目的を重んじるんだ」
「へえ。初音とお前が絵の話をしている時、俺には何を話しているかさっぱりわからないから、絵のわかる奴が凄く羨ましいな」
俺の軽口に対し、ハザマは不意に影のある表情を浮かべた。
「絵がわかりすぎるのも、問題だな。……初音はあの美人画の筆致から、私の父が『なぜ死んだか』を察し始めている」
「そういえば、死因とか聞いてなかったが……」
「広い意味での自殺だな。自暴自棄になって、酒に溺れて…………」
そこまで聞いた時、俺の頭の中で、サイコメトリーで読み取った初音の秘密と点と点が繋がった。
俺が初音の湯呑みから読み取った事実と雨宮青児の証言から——今回の絵を描いたのは月山 青湖本人ではあったが。
「名前は売れても……本当に描いていた人間が違うからか?」
ハザマは悲しみとも寂しさともつかない、複雑な感情を込めて呟いた。
「…………そうだ」




