妖美な男の交換条件と証明方法
次の日、俺の従兄弟である律が室生の屋敷を訪れた。
絵の真贋を俺に相談してきた叔父貴の息子であり、自ら調査会社を立ち上げて運営している男だ。
長い巻き髪にピンクのメッシュを入れ、ビジュアル系バンド風の服を着こなす、麗しく派手な出立ちをしている。
「やあやあ、久しぶり〜。父に召喚されて来たよ」
「リッツん、よく来たな。絵の調査か? リッツんが来てくれたなら心強いよ」
「例の絵を見せてくれない?」
「ああ、これなんだが……」
俺が絵を見せようとしたその時、スマホが震えた。連絡網——LIMEを通じた、藤城からのSOSだった。
慌てて屋敷の外に出ると、なんと雨宮青児に誘惑されている藤城の姿を見つけた。室生家自慢の立派な白壁に、藤城が追い詰められている。
「雨宮! 何、他人の屋敷で勝手に壁ドンしてんだよ!」
「あ、お久しぶりです。その節はありがとうございました」
雨宮は俺を見て礼儀正しく挨拶しつつも、藤城が逃げないよう、その腰にしっかりと手を回したままだ。なんという息をするかのような女たらし……。
「うちの従業員を誘惑してんじゃねぇよ、さっさと中に入れ。月山青湖の絵のことで、お前に聞きたい事があるんだ」
「…………お邪魔いたします」
*****
応接間に雨宮を座らせ、俺は律を紹介した。
「こっちの麗しくて派手な男は、俺の従兄弟で調査員だ。絵を調べに来た」
律は名刺を雨宮に渡しながら、しげしげとその顔を覗き込んで感嘆の声を漏らした。
「わぁ、君ってハザマ……いや、お兄さんにそっくりだね」
雨宮青児は苦笑しながら言う。
「よく間違われます。特に、このお屋敷の周りでは」
「単刀直入に聞くが、これは月山青湖の本物の絵か?」
俺が詰め寄ると、雨宮はすぐに頷いた。
「……ええ、そうですが?」
「なら、それを画廊で証明してくれないか?」
俺の要求に対し、雨宮はふっと妖しい笑みを浮かべた。
「僕がわざわざ出向いて証明せずとも、画廊がもっと納得する科学的な方法がありますが……そっちの方が良くないですか?」
「その方法って?」
「……教えますから、初音さんにモデルの許可を出して貰えませんか?」
「…………交換条件かよ。言っておくが、ヌードは絶対ダメだぞ」
俺が渋い顔で釘を刺すと、雨宮はスマホを取り出し、一枚の画像を見せて来た。
「この絵……父が生前、構想を練って描いた下描きなんですが、途中でやめてしまって……このくらいの露出度なら構わないのでは?」
画面に映し出されていたのは、蜘蛛の巣が描かれた着物を退廃的に着崩した妊婦の姿だった。ふっくらとしたお腹と、乳房が少しだけ覗いている。
絵の知識がない俺でも、ゾクッとするほど生々しく、圧倒的に色っぽかった。
「……う〜ん……まぁ、これくらいなら許せる、かなぁ……」
早く絵の件を解決したいという焦りも手伝ったのだろう。
俺はこの時、その芸術的な色香に呑まれ、愚かにも許可を出してしまったのだ。




